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黒巫女召喚士と暴食の悪魔
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しおりを挟む「イサ、ちゃん」
怖い。
イサちゃんは現在でも体が大きく成って行き、爪は太く鋭くなり、牙も同様に大きくなる。
毛も立ちモフモフからゴワゴワ感が強く成った。
色も黒から黒紫のベルゼブブのように成って行く。
瞳は赤く染まり輝いている。
今のイサちゃんから理性も知性も感じられない。
私は焦点の合わない目で混乱している。
どうして、私はイサちゃんに攻撃されているの?どうしてダメージを受けているの、と。
『キキキキキキキキキ!絆、か?クハハハハハ!何をほざいているのだか、心臓2つを体内に入れたのだぞ?そいつももう、我の駒だっ!』
「イサちゃん」
ただ、呆然とイサちゃんの名前を言う事しか出来なかった。
怖い。怖くて怖くて仕方ない。
嫌だ。イサちゃんに攻撃されたくない。イサちゃんに敵対されたくない。
友達なのに、仲間なのに、なんで!
「⋯⋯ッ!」
イサちゃんの目は確かに獲物を見つけたような目だ。
だけど、齧り付きながらも唸り声を上げてある。苦しそうに。
違う!違う違う!私は、イサちゃんを拒絶してはダメだ!
イサちゃんは友達で仲間だ!拒絶するな!私が出来る事は少ないけど、イサちゃんを受け止める事なら出来る。
私はイサちゃんの頭に手を当てて撫で下ろす。それを繰り返す。
「大丈夫、だよ?イサちゃん」
「グガアアアアア!」
ぶじゃーっと私の右肩から腕が吹き飛びポリゴンを散らして消滅した。
合わせて鎌も地面に落ちる。
イサちゃんに与えられたダメージに体の欠損ダメージにより私のHPは1割と少しだけ残っている。
「強く、成ったね」
大丈夫、私はイサちゃんを信じている。
◆
己は弱い、己は仲間を裏切った、己は仲間を殺す、己はベルゼブブ様の忠実な眷属、己は強い、己は誰かを守れる力を手にした、ベルゼブブ様を守れる力を。
そんな考えがイサの中に入ってくる。
イサは現在真っ黒な空間に居た。
何も無い虚無感が支配する空間、精神世界と例えた方が分かりやすいかもしれない。
イサの精神世界には誰もいない。己のみ。
ベルゼブブの眷属へと堕ちる誘惑の言葉、己の弱さと強さを実感させられる感覚。
「グルルル」
藻掻く、苦しむ、抗う、無意味、力も弱ければ精神も弱い。
仲間の足を引っ張る、自分は要らない存在、邪魔な存在。
仲間を裏切った。主を裏切った。もう、帰る場所は帰れる場所は無い。
辛い、泣きたい、もう、何も見たくない。
何も知らない。何も関係ない。もう、どうでもいい。
良いのか?主とは誰だ?己は誰だ?己の役目は?
良い、もうこのまま身を預けて本能のままに生きよう。辛いのは嫌だ。
主は暴食之悪魔であるベルゼブブのみ。絶対的支配者のベルゼブブ様以外居ないし有り得ない。
己はベルゼブブ様を守る絶対的な盾、肉壁。己の魂はベルゼブブ様の為に。
己はオルトロス、ベルゼブブ様の最強の眷属なり。
そうか?己の主はベルゼブブ。
そうか。ならば己の役目を果たそう。それ以上の成果を持って。
目の前の邪魔な肉を喰らい尽くそう。
ベルゼブブ様の障害は全て我が排除しよう。
それが我の役目、それが我の存在理由。
手にした力を持って主を守り抜く。我と契約した主の為に。
主の為に己はベルゼブブを殺す。ベルゼブブを滅する。
主を守る役目は己以外不可能。己の手にした力はベルゼブブに対する剣となり、主の盾となる。
この魂が朽ち果てようと、主を守るのだ己の役目。
それを邪魔する奴は誰であろうと許さない。
我が我である為にベルゼブブ様に誠心誠意尽くす。
己が己である為に主を暴食之悪魔と言う存在から守る。
主の邪魔な障害物は我が殺す。
主の心を、仲間を、守る為にベルゼブブを倒す。
殺すべき相手は、倒すべき相手は、主!
ベルゼブブ様の為に、主の為に、邪魔な存在は自分!
失せろ、何処かに行け、消えろ、居なくなれ、我は我、己は己。
忠誠を示すのは主、ベルゼブブさでは無い、モフ⋯⋯じゃない。
違う、違う。
そうじゃない。こうだ。違う。
己の体は元々己の、お前の入る余地は無い。我は我、ここに居たのは我、お前の入る余地は無い。
違う、違う。
己の、我の、主はモフリ、ベルゼブブ様。
イサは抗う。
自分の弱みに入ってくるベルゼブブの意思と戦う。
モフリ達がベルゼブブと戦うようにイサもまた己の心と戦う。
負ける訳にはいかない。
自分が自分である為に、自分の役目を見失う訳にはいかない。
『だ───う、ぶ─よ?わ──しが─いて─る』
「ワウが」
歯を深く噛み、足に力を込めて立つ。
目の前の暖かい光に向かって子犬は犬はオルトロスは、イサは前に進む。
『大丈夫だよ?私が付いている』
その言葉に沿って、そして己の主を確定し、無味な意思は消滅した。
この瞬間、イサは新たな一線を超えた。そして、モフリ達は再び運営の考えを大幅に超える第1歩を進んだ。
◆
「ガアアアアアアアアアアアアアア」
吠えるイサちゃん。
赤い瞳は徐々に光を失い、そして現れたのは赤黒く黒紫の瞳だった。だけど、分かる。
その目は、その顔は、その瞳から溢れ出る優しい感情の波は、誰にも否定出来ない。させない。
「イサちゃん。おかえり!」
私はニコリと笑いイサちゃんの目を見る。
イサちゃんの体は2メートル程に成っており、立つと私よりも顔の位置が高い。
毛の色は黒紫に留まっいる。
「ガル」
イサちゃんは軽く鳴く。
私は堪らなく嬉しく成る。
「ガル~」
悲しい顔をするイサちゃん。
私の無くなった右腕を見ているのだろう。
「大丈夫だよ。治るから」
そう言う問題じゃないのだろうが、私はそう言う。
イサちゃんは申し訳無さそうに竦めるが私はイサちゃんの頭を撫でる。
頭におでこを当てて囁くように呟く。
「大丈夫。頑張ったんだよね?辛かったよね。ありがとう。おめでとう。信じてたよイサちゃん。イサちゃんは私達の大切な仲間だもん!」
「ガルル」
そんな感動的なシーンに水を刺すのはベルゼブブだった。
『ふざけるなああああ!何故だ!何故我の眷属に成らないのだ!我の下に入ればお前の願いも叶えてやる事が出来るのだそ!』
「願い?」
「ガルガアアア!(己の主はベルゼブブ、貴様じゃない。モフリ殿だッ!)」
イサちゃんってこんな喋り方だったんだ⋯⋯。
イサちゃんの尻尾は蛇のような、蛇その物になっていた。
ま、今は関係ないけどね。
「1悶着ありましたが、問題なく再開しますよ!」
『────まぁ良い。一時的でも我の眷属に成った事で我は全盛期の10分の1の力を取り戻せた。来い、魔炎剣《レーヴァテイン》』
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