超激レア種族『サキュバス』を引いた俺、その瞬間を配信してしまった結果大バズして泣いた〜世界で唯一のTS種族〜

ネリムZ

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四十六話

 「アリス姉遅いなぁ。兄さんもそろそろダンジョンから出る時間かな」

 キリヤの妹はそう呟いて日の沈む方向を漠然と眺める。

 互いに両親の帰りは遅く、いつものように三人で食卓を囲む予定。

 兄であるキリヤはダンジョンに出向き、帰りは基本遅め。

 しかし、普段のアリスなら心配させまいと六時半には家にいる。

 まだその時間にもなってないが、連絡一つないのは普段の生活からは考えられない。

 「何も無いと良いけど」

 心配から来る呟き。

 GPSアプリで互いの位置情報を交換しているため、どこにいるかは分かる。

 しかし、それは万能でもなければ完璧でも無い。

 不安は募るばかり。

 妹にとって訓練ばかりの兄で遊んでくれたのはいつもアリス。

 本当の姉のように慕っている。

 不安が杞憂に終わる事を祈り、ただ満月が昇るのを眺めた。

 ◆

 「次はどこに行こうか」

 美男美女のカップルとはまさにこの事を言うのだろう。

 男女共に尊敬と嫉妬の眼差しを向けるだろうその二人は実際に付き合っている訳では無い。

 爽やかなイケメン、テニス部と言う運動部に所属し、細く鍛えられた身体は全ての服を着こなすだろう。

 隣に並ぶのはそんなイケメンにふさわしい、鈍色の髪の毛をサイドテールに結んだ美女だ。

 マネジャーと言われても誰もが納得するだろうが、テニス部として立派な選手であり、探索者訓練の過程を五年やっているために選手として優秀。

 得技は関節技。

 白群色の瞳は見つめた男を惑わせるかもしれない。

 ルックスに恵まれた二人は文武両道。そんな吊り合った二人は歩く度に周りの視線を集めていた。

 「ん~」

 男はシオトメでありテニス部の先輩、女はナグモアリスである。

 シオトメの言葉に悩むアリス。

 ショッピングやゲーセンなどで遊んだ二人は夕日が差し込み、淡いオレンジ色に染まった道を歩いている。

 アリスとしてはとても楽しく、まだ遊びたいとも考えてしまう。

 だが、本当の妹のように可愛がっているキリヤの妹が心配であり、時間も時間なので考えているのだ。

 アリスは恵まれた容姿をしていたが、友達と遊ぶと言う経験は少ない。

 キリヤを一人にさせないために付き添っていたからだ。

 だからと言って恨んでいる訳では無い。自らやった事だから。だから後悔も無い。

 「すみませんシオトメ先輩」

 アリスの下した決断は帰る事だった。

 やはり妹の事は心配であり、晩御飯の時間も迫っている。

 「今日はとても楽しかったです。男の人と遊ぶって滅多にないから、少しだけ緊張しちゃいました。ありがとうございます」

 お礼を述べて踵を返すアリスの手を慌てて捕まえる。

 「俺も楽しかったよ」

 「それは⋯⋯良かったです」

 とても眩しい笑顔。

 きっとその笑顔は太陽ですら後れを取る輝きだろう。

 邪な考えや警戒する心など持たない屈託の無い表情。

 「まだ少しだけ時間をくれないか。君を連れて行きたいところがあるんだ」

 「え。⋯⋯連絡してからで大丈夫ですか?」

 「時間が迫ってるんだ。もう日が沈むからね。だから急いで欲しいんだ」

 アリスはシオトメを信頼していた。

 「少しだけだから」

 その言葉を信じた。

 メッセージを打ち込もうと開いたスマホを閉じて、カバンの中にしまいながら手を引かれて移動する。

 時間帯は辺りを茜色に染めるくらい。

 もうすぐで日が沈み月が輝く時間帯となるだろう。

 そんな状況でシオトメがアリスを連れて行きたい場所。

 強く握られる腕。振り返る事無く速足で向かう。

 アリスの運動能力や体力は普通の女子高生よりも高く、その足取りにも普通についていけている。

 普通の女子なら、腕が痛くなるだろうし、転けそうになるだろう。

 張り詰めた空気が肌を撫でる。

 暗くなる時間帯で連れて行きたい場所とは一体どこなのか。

 景色の良い場所?

 それだと街中をずっと移動していては辿り着けないだろう。
 
 イルミネーションだとしたら、他にも人がいるはずだ。

 人気の無い場所へと移動を続けて、木々の隙間から僅かに見えたのは廃工場。

 今はもう使われてない場所である。

 噂では暴走族がアジトにしているとかしてないとか。

 アリスの危険アラームが全身に鳴り響く。

 「ごめんなさい! やっぱり帰ります!」

 掴まれた手を器用に動かして拘束を脱し、走って帰ろうとする。

 だが、それをシオトメは許さなかった。

 「お願いだ。あと少しなんだ」

 「どこに連れて行くつもりですか。この辺には景色を楽しむ場所も、遊んで楽しむ場所も無いですよ」

 「もっと良いところだよ。大丈夫だから、来てよ」

 「お断りします」

 脱出しようと動くが、先程と違い抜けれない。

 全力でシオトメが力を込めている。

 「痛いですっ」

 「ごめんね。だって抵抗するから」

 「止めっ」

 カバンに入れたスマホを取り出す事もできず、力任せに廃工場に連れ込めれる。

 カバンを剥がされて地面に投げ飛ばされる。

 受身を取りながら瞬時に立ち上がり、構える。

 「なんのつもりですか!」

 「だから、君を連れて来たかった場所だよ」

 「ここですか?」

 「そう」

 歪んだ笑みをついにアリスに見せたシオトメ。それは彼の本性を十全に表していた。

 全身を舐め合わす様な細い目に、嫌悪感を倍増させる細く横に伸びた口。

 逃げないとまずい。

 そう判断したのは遅かった。

 「ようやくかよぉ」

 「実物は写真よりもカワイイネェ!」

 ぞろぞろと物陰から現れる屈強な男達。

 (気配を感じなかった)

 只者では無いと感じたアリス。

 そんなのは一般人でも分かる。

 なぜなら、その全員が鉄パイプなどの武器を持っているからだ。

 「シオトメ先輩。嘘ですよね。もしかしてあの噂って⋯⋯」

 「ああそれ。ほとんど合ってるよ。不思議だよね。バレないようにしているのにバレるんだからさ。いや、実際はただの噂かもね。ただ正解なだけ」

 血の気が引くとはこの事かと、アリスは思った。

 「俺達にとって楽しい事を始めようか。カメラの準備もできてるから⋯⋯嫌がらずに楽しんだ方が身のためだよ?」

 「ふざけるな! 女をなんだと思ってるんだ!」

 「こんな状況だ。言わずとも分かるだろ」

 男達が全員アリスに寄って来る。

 (アタシだって訓練した身だ。少しでも長く時間を稼いだら警察が来る)

 不穏な空気を感じたキリヤの妹がGPSで場所を確認、怪しいと思った瞬間に警察に連絡する。

 メッセージを送らなかった事がその不安を加速させる事だろう。

 だから後は少しでも時間を稼ぐ。

 ⋯⋯しかし、その希望すら打ち砕かれる。

 「あれぇ」

 膝から崩れ落ちるアリス。

 (身体に力が入らない?)

 「それじゃ、イイコト、しよっか」

 月光が差し込める中、アリスにシオトメの魔の手が伸びる。

 ◆

 「いいなおまえら。でかくて」

 アイリスがホブゴブリンの腕にぶら下がっている。

 ゴブリンから正当進化したホブゴブリンは身長が俺並に高く、ユリ達のような鬼人の子供のような状態とは違う。

 ゴブリン達が全員進化した。

 「魔石を回収したら帰るか」

 ゾンビソルジャー戦で何もできなかったウルフやコボルト、ゾンビ達が心ここに在らずと言った様子でぼーっとしている。

 「次がある。次、俺がまた間違った方向で諦めてしまったら、叩き覚ましてくれ」

 そう声をかけた。

 もうこの眼を過信しない。

 俺は俺の強みをもっと理解するべきだったんだ。

 「今日はこの辺で配信を終えようと思います」

 “キリが良いから許す”
 “アイリスって男だったのか⋯⋯”
 “てか角の位置よw”
 “アイリスに精力を使ったら⋯⋯やべぇ楽しみで下からヨダレが出てくる”

 “ローズちゃんも楽しみ”
 “クールが乱れる時が楽しみだぜ”
 “サキュ乙”
 “サキュ乙”

 配信を終えた。

 ローズは左側の額から一本だけ太い角が捻れながら伸びている。

 アイリスは面白い事に、頭のてっぺんからまっすぐ角が伸びている。帽子を被ると貫くだろう。

 「皆本当に助かった。また、失ってしまうかもしれなかった」

 「ご主人様⋯⋯」

 ユリは何も言わず俺の傍にいる。

 「主人。我々はユリ様とライム様と共に経験したであろう絶望は知りません。ですが、気休めですが、一言だけ言えます」

 アイリスと違い、既にハキハキ喋るローズ。

 「我々は生きる事を諦めない。主人が我々に教えてくれた生きる力、戦う力、その全てを持って生きます」

 「ローズ⋯⋯」

 「なーにかっこうつけてんだよ。ゆりのあねごのまえだからってさ!」

 肩にポンっと手を置いたアイリスに対して、強い拳をねじ込んだ。

 「黙れ馬鹿野郎」

 「な、仲良くな?」

 そして俺はギルドに戻り、急いで家に帰った。

 茜色の夕日が照らす道を走り抜けて、俺はドアに手を伸ばす。

 俺の手が届く前に内側から妹が大慌てで開けた。

 「痛い」

 鼻に直撃したぞ。

 ゾンビ戦の痛みとか怪我とかまだ回復してないし、辛いんだが。

 「お兄ちゃん! アリス姉が! アリス姉が!」

 その異様な光景に混乱する。妹が酷く混乱している。

 俺の事を『兄さん』ではなく『お兄ちゃん』と呼んでいるのがその証拠だ。

 『アリス助かる100%』

 テロップと方向を示す矢印が俺の視界に入る。

 「警察に連絡頼んだぞ。俺は助けに行く」

 「え」

 服、恥、そんなのは既に頭に無く、俺はサキュバスになって矢印の方向に向かって飛び突き進む。

 「クソッタレが!」
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