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物理系魔法少女、優先順位
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「リュックの中身もかなり潤沢になったな」
荷物も沢山になったし、時間も良い感じなので切り上げて帰ろうと思う。残業は嫌だ。
しっかりと水も手に入っている。
ミズノさんともそこそこ仲良くなれたのでは無いだろうか?
連携や手札の情報共有の大切さを学べた、良い探索だと言えるだろう。今後パーティを組むのかは置いておいて。
節々で『アオイちゃん』を基準に話されたりしたが。
「さて、帰ろうか」
「ん? 早くない?」
「ちょっとした事情で早く帰らないとダメなんです。だから早く切り上げて、帰るんですよ」
受付に並ぶのが面倒だし、多くの人に紗奈ちゃんとの関係を聞かれたくない。
二重で面倒事に巻き込まれるので、早く帰る。
それに安心させる意味合いもある。
「⋯⋯ん? あの人どうしたんだろ?」
木に背中を預けて項垂れている人を発見した。
ミズノさんがその男に気づき、近づく。
あのなるべく短く会話を終わらせようとしているミズノさんが話しかける。
人助けをしたい性格なのかな?
俺も近寄る。普通に気になるからだ。赤く色着いた地面。
「どうしたんですか?」
「あ? 誰だ君達は⋯⋯アカツキ?」
「知っているようでありがとうね。それで、こんなところで俯いているのは危険だよ。どうしたの?」
男は少し考える素振りを見せてから、おもむろに口を開いた。
声が霞んでいるし、焦点も不安定だ。意識が朦朧としているかもしれない。
「魔物集団に遭遇したんだ」
「⋯⋯ッ! このランク帯のダンジョンで?」
⋯⋯わ、分からない。
ミズノさんに説明を頼みたいけど、そんな空気じゃない事は分かる。
なので、知っている風を今は演じておく。
「一瞬だった。最初は小さな魔物の群れだと思ったんだ。でも違った。本軍に誘い込まれて⋯⋯全員残しちまった。逃げて、しまった」
「⋯⋯どんな、感じでしたか?」
「色んな魔物がチームを成しているんだ。ありえないあんなのは。違う種族同士で仲良くする、そんな事は本来ありえないんだ」
イレギュラーの一種か。⋯⋯時間が無い。
「どのくらい前ですか?」
「一、二分前、だと思う」
「そうですか⋯⋯まだ生きている可能性はあります。ミズノが行く」
「危険だ。俺はギルドに報告する。だからあんたらも魔物を見つけたら逃げてくれ」
男は立ち上がろうとするが、震えていた。
よく見ると⋯⋯右足が噛み砕かれていた。ちぎれてはいないけどボロボロ。
吐きたくなるような光景だ。
それでも俺達を頼ろうとはしないで、混濁すること無く、情報を与えてくれた。立派な人だ。
⋯⋯そうだよな。これがダンジョンなんだ。
「行く」
「俺は行きたくないです」
「なに?」
ミズノさんに鋭い眼光で睨まれる。
「男を抱えてギルドに戻るのが一番だ。ゲートに行けば自衛隊に介抱してもらえる。イレギュラーはギルドに報告、常識だ」
「今行けば救える命があるかもしれない! ミズノはレベル4、アカツキもミズノと息を合わせれる力はある! 二人で行けば問題ない!」
確かにその通りかもしれないけど⋯⋯慢心は油断に繋がる。
そう言っていたのは君じゃないか。
「実際どのくらいの大きさか分からない。ホブゴブリン共との比じゃないかもしれない。危険は犯したくない。だからこの人を連れて帰る」
「救えるかもしれない命が近くにあるのに、どうして助けようとしない! 魔法少女なんだぞ!」
魔法少女が人助けをするのは当たり前だと?
そんな先入観は捨ててしまえば良いのに。
「俺は見知らぬ他人の命よりも、自分や知り合いの命の方が大切だ。命あっての人生だ。投げ出すのは嫌いだ」
「あっそ。ミズノ達も少し知り合った程度の所詮は他人だ。もう良い。お前には頼らない」
ミズノさんは男に場所を聞いて、駆け出した。
⋯⋯ミズノさんをあそこまで駆り立てるのはなんなのか、興味はあるけど今優先するのは男の方だ。
右足が噛み砕かれて、かなりの出血がある。
簡潔に言うと、死にかけている。
「よいしょっと。まだ意識あるか?」
「あぁ、ギリギリ」
「大きな声なら聞こえるんだな。喋らなくて良いから、生きる希望は見失うなよ。良くやった。アナタの情報は絶対に役に立つ」
⋯⋯魔法少女の衣装は丈夫だ。切れたらこれを切って縛ってやりたかった。
止血ができない。
「全力で戻るぞ」
目の前にある命を見殺しにできる程、俺の精神は強くない。
つーか、そろそろ定時なのでこれ以上の探索は避けなければならない。
優先すべきは紗奈ちゃんなのだ。
ゲートに向かった。
「あの! 自衛隊の方に回復魔法を使える人は居ませんか! 或いは回復薬をください! この人死にかけてるんです!」
「なんだと! わたしが使える! 今行くから、テントの中に運んでくれ」
ゲート付近に用意された、自衛隊専用のテントの中に入り、横にさせる。
血液パックを持ってきながら、やってくるのは自衛隊の一人。
「⋯⋯おぉ、雑」
「効率重視と言ってください」
口に血液パックを突っ込んで血を入れながら、回復魔法で傷を癒す。
「足も治るんですね?」
「魔法ですからね」
魔法良いなぁ。
「イレギュラーに遭遇したらしいです。詳しくは意識が回復してから聞いてください。⋯⋯俺はギルドの方に戻りますから」
「あぁ。良く運んでくれた⋯⋯大量に血が流れている場所を抑えながら来たんだな」
「なるべく血を流さない方が良いと思いまして」
「良い判断だ。力が強いんだな⋯⋯凄い格好だが」
魔法少女の格好については触れないでいただきたい。ちなみに手は血でべっとりだ。
服が裂けないってのは、メリットだが今回に関してはデメリットだったな。
俺はゲートを通って、ギルドの方に帰った。
ミズノさんは今頃、戦っているのだろうか?
荷物も沢山になったし、時間も良い感じなので切り上げて帰ろうと思う。残業は嫌だ。
しっかりと水も手に入っている。
ミズノさんともそこそこ仲良くなれたのでは無いだろうか?
連携や手札の情報共有の大切さを学べた、良い探索だと言えるだろう。今後パーティを組むのかは置いておいて。
節々で『アオイちゃん』を基準に話されたりしたが。
「さて、帰ろうか」
「ん? 早くない?」
「ちょっとした事情で早く帰らないとダメなんです。だから早く切り上げて、帰るんですよ」
受付に並ぶのが面倒だし、多くの人に紗奈ちゃんとの関係を聞かれたくない。
二重で面倒事に巻き込まれるので、早く帰る。
それに安心させる意味合いもある。
「⋯⋯ん? あの人どうしたんだろ?」
木に背中を預けて項垂れている人を発見した。
ミズノさんがその男に気づき、近づく。
あのなるべく短く会話を終わらせようとしているミズノさんが話しかける。
人助けをしたい性格なのかな?
俺も近寄る。普通に気になるからだ。赤く色着いた地面。
「どうしたんですか?」
「あ? 誰だ君達は⋯⋯アカツキ?」
「知っているようでありがとうね。それで、こんなところで俯いているのは危険だよ。どうしたの?」
男は少し考える素振りを見せてから、おもむろに口を開いた。
声が霞んでいるし、焦点も不安定だ。意識が朦朧としているかもしれない。
「魔物集団に遭遇したんだ」
「⋯⋯ッ! このランク帯のダンジョンで?」
⋯⋯わ、分からない。
ミズノさんに説明を頼みたいけど、そんな空気じゃない事は分かる。
なので、知っている風を今は演じておく。
「一瞬だった。最初は小さな魔物の群れだと思ったんだ。でも違った。本軍に誘い込まれて⋯⋯全員残しちまった。逃げて、しまった」
「⋯⋯どんな、感じでしたか?」
「色んな魔物がチームを成しているんだ。ありえないあんなのは。違う種族同士で仲良くする、そんな事は本来ありえないんだ」
イレギュラーの一種か。⋯⋯時間が無い。
「どのくらい前ですか?」
「一、二分前、だと思う」
「そうですか⋯⋯まだ生きている可能性はあります。ミズノが行く」
「危険だ。俺はギルドに報告する。だからあんたらも魔物を見つけたら逃げてくれ」
男は立ち上がろうとするが、震えていた。
よく見ると⋯⋯右足が噛み砕かれていた。ちぎれてはいないけどボロボロ。
吐きたくなるような光景だ。
それでも俺達を頼ろうとはしないで、混濁すること無く、情報を与えてくれた。立派な人だ。
⋯⋯そうだよな。これがダンジョンなんだ。
「行く」
「俺は行きたくないです」
「なに?」
ミズノさんに鋭い眼光で睨まれる。
「男を抱えてギルドに戻るのが一番だ。ゲートに行けば自衛隊に介抱してもらえる。イレギュラーはギルドに報告、常識だ」
「今行けば救える命があるかもしれない! ミズノはレベル4、アカツキもミズノと息を合わせれる力はある! 二人で行けば問題ない!」
確かにその通りかもしれないけど⋯⋯慢心は油断に繋がる。
そう言っていたのは君じゃないか。
「実際どのくらいの大きさか分からない。ホブゴブリン共との比じゃないかもしれない。危険は犯したくない。だからこの人を連れて帰る」
「救えるかもしれない命が近くにあるのに、どうして助けようとしない! 魔法少女なんだぞ!」
魔法少女が人助けをするのは当たり前だと?
そんな先入観は捨ててしまえば良いのに。
「俺は見知らぬ他人の命よりも、自分や知り合いの命の方が大切だ。命あっての人生だ。投げ出すのは嫌いだ」
「あっそ。ミズノ達も少し知り合った程度の所詮は他人だ。もう良い。お前には頼らない」
ミズノさんは男に場所を聞いて、駆け出した。
⋯⋯ミズノさんをあそこまで駆り立てるのはなんなのか、興味はあるけど今優先するのは男の方だ。
右足が噛み砕かれて、かなりの出血がある。
簡潔に言うと、死にかけている。
「よいしょっと。まだ意識あるか?」
「あぁ、ギリギリ」
「大きな声なら聞こえるんだな。喋らなくて良いから、生きる希望は見失うなよ。良くやった。アナタの情報は絶対に役に立つ」
⋯⋯魔法少女の衣装は丈夫だ。切れたらこれを切って縛ってやりたかった。
止血ができない。
「全力で戻るぞ」
目の前にある命を見殺しにできる程、俺の精神は強くない。
つーか、そろそろ定時なのでこれ以上の探索は避けなければならない。
優先すべきは紗奈ちゃんなのだ。
ゲートに向かった。
「あの! 自衛隊の方に回復魔法を使える人は居ませんか! 或いは回復薬をください! この人死にかけてるんです!」
「なんだと! わたしが使える! 今行くから、テントの中に運んでくれ」
ゲート付近に用意された、自衛隊専用のテントの中に入り、横にさせる。
血液パックを持ってきながら、やってくるのは自衛隊の一人。
「⋯⋯おぉ、雑」
「効率重視と言ってください」
口に血液パックを突っ込んで血を入れながら、回復魔法で傷を癒す。
「足も治るんですね?」
「魔法ですからね」
魔法良いなぁ。
「イレギュラーに遭遇したらしいです。詳しくは意識が回復してから聞いてください。⋯⋯俺はギルドの方に戻りますから」
「あぁ。良く運んでくれた⋯⋯大量に血が流れている場所を抑えながら来たんだな」
「なるべく血を流さない方が良いと思いまして」
「良い判断だ。力が強いんだな⋯⋯凄い格好だが」
魔法少女の格好については触れないでいただきたい。ちなみに手は血でべっとりだ。
服が裂けないってのは、メリットだが今回に関してはデメリットだったな。
俺はゲートを通って、ギルドの方に帰った。
ミズノさんは今頃、戦っているのだろうか?
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