物理系魔法少女は今日も魔物をステッキでぶん殴る〜会社をクビになった俺、初配信をうっかりライブにしてしまい、有名になったんだが?〜

ネリムZ

文字の大きさ
169 / 179

物理系魔法少女、信用されたい

しおりを挟む
 「黒闇の百手百足ブラックダーク・ヘカトンケイル

 大量の手足が俺に襲いかかる。

 背中の一撃がかなり重かったが、動けない程じゃない。

 逃げてまとまった所を一気に破壊する。

 「うるさいですわうるさいですわうるさいですわうるさいですわ」

 「ヤンデレかよ」

 俺のボソリと呟いた声にも一切反応してくれないんだけど?

 やばい状態に入ったクロエさんは俺に一切視線を向ける事無く、闇の手足を向けて来る。

 拳一つで破壊を繰り返すが、追いつかない。

 「もう誰も信用しない。信用できない。裏切られる辛さをお前は知らない。だから、わたくしの考えなんて永遠に分からない」

 「人の考える事なんて本人ですら分かんねぇよ! つーか、天使様は信用しないんですかねぇ?」

 俺が嫌味をぶつけてやると、彼女はあまり反応を見せなかった。

 ただ、絶対零度の視線で一瞥して来ただけである。

 「天使様は信用と言う次元にいませんもの。天使様はわたくしの生きる意味ですの」

 「悲しいな」

 俺は素でその言葉を出した。

 どうして上司のために生きるのが当たり前のように言うんだよ。

 「そんなのは生きる意味じゃない。死にたくない言い訳だけだ。生きる意味は他人に与えられるモンじゃない。自分で決めるもんだ」

 「わたくしは天使様の手足となって動く、わたくしが決めた事ですわ」

 静かに淡々とした声音で言い、闇の手足が迫って来る。

 破壊しても破壊しても何回でも再生して襲ってくるその姿はまるでアンデッド。

 先日の嫌な戦いを思い出してくる。

 「まるで宗教にハマった人間だな。幻想を抱きすぎだろ。相手は君の事を道具としか思ってないのに」

 「それがどうしたと言うのですの?」

 「ミドリさんやシロエさんは君の事を一人の人間として見ていると思うぞ」

 ミドリさんのクロエさんに対する本音は知らないけど、多分そうだと思う。

 彼女は自分の事を天使の道具だと思っていたとしても、仲間をそう思う訳では無い。

 それだったら、今のこの状況にはなってないだろう。

 「それに俺だって、君を天使の道具だとは微塵も考えてないし思ってない」

 「はぁ?」

 睨みが怖いな。スマイルスマイル。

 笑顔の方が可愛いぞ⋯⋯おっと背筋に悪寒が。

 セクハラになりそうな心の妄言の冗談は放置しておいて、動きが弱まった今がちょっとしたチャンスだ。

 「天使に洗脳された可哀想な女の子って思ってるよ!」

 脅しのつもりでステッキをぶん投げた。

 かなりの速度だが、彼女は微動だにせず。

 回避もしないし防ぎもしない⋯⋯ステッキはスレスレで彼女を通り抜けた。

 「甘いですわね。殺しに来ている相手にこのようなマネを。アナタは一度もわたくしを攻撃しようとはしない」

 「そりゃあ女の子を殴っちゃアカンでしょ。色々とさ。その点に関して『信用』してくれた?」

 「ふ。ご冗談を」

 鼻で笑われたんだが?

 闇の刃が伸びるのでジャンプして回避する。

 「天使様に洗脳ですか⋯⋯そうかもしれませんわね」

 まるで自暴自棄の目をしてるなぁ。

 なんか魔法少女の子達って心に闇を抱えてないか?

 家族に虐待されたり、捨てられたり、クロエさんは裏切りか?

 それが条件なんだろうけどさ。

 もしかしたら、俺も紗奈ちゃんと再会した時はあんな目をしていたのかな?

 だったら、尚更俺が手を差し伸べないとな。

 「その発言は撤回するわ」

 「はぇ?」

 素っ頓狂な声を出したな。びっくりしたわ。

 「だって、天使に洗脳されてたら、全力でミドリさんとか殺しに行くでしょ? 知っている分弱点も知っているはずだしね。それをしないのはクロエさん本人に情や葛藤があるからだ。違う?」

 「違いますわ」

 「はい嘘。違く無いよね。君はミドリさんを尊敬しているし慕っている。まだ天使の意向に迷いがるんだ」

 「そんな訳ありませんわ!」

 果たしてそうだろうか?

 彼女も彼女なりにまだ迷いがあるんじゃないか?

 そうじゃなきゃ、俺と闘いながら会話なんてしてくれないだろう。

 さっさと殺すために行動すれば良い。なのにそれをしない。

 しかも俺が脅すだけの攻撃しかしないと見抜いているため、かなり冷静に観察しているし理解している。

 「君は友達や家族⋯⋯信用できる相手が欲しかったんじゃない? 自分の辛く苦しい心を癒してくれるそんな人が」

 「そんな妄言ばかりを⋯⋯」

 「果たして妄言かな? 君は何回も裏切られては人を信用しているんじゃない?」

 眉がぴくりと動いたのを俺は見逃さない。

 家族とかに裏切られたのなら、その時点で誰も信用しないモードに入っているはずだ。

 なのにミドリさんに裏切られた、ちゃんと信用していた事になる。

 信用しないと決めても人を信用したいと思っている。

 「もしも天使に助けられたから、その理由で恩義を感じて、手下になっているなら即刻止めろ」

 俺は手を伸ばす。

 「助けが欲しいなら天使じゃなくて、君が慕ってるミドリさんや君を慕っているシロエさん、力にしか自信ないけど、俺だって何かできるかもしれない」

 一度深呼吸して、再び声を絞り出す。

 「俺は君が信用に足る人間だと、認めさせたい。君の信用できる相手になりたい」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...