物理系魔法少女は今日も魔物をステッキでぶん殴る〜会社をクビになった俺、初配信をうっかりライブにしてしまい、有名になったんだが?〜

ネリムZ

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物理系魔法少女、信用する

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 「信用できる人間だと、認めさせたい?」

 何を言っているんだこいつと言う様子で目を下げるクロエさん。

 次の瞬間には肩を揺らしながら高い声で笑う。手で口を隠している。

 「片腹痛いですわ。アナタがどんな事をしようとも、わたくしはアナタを信用するはず無い⋯⋯いえ。そうですわね。わたくしのやる事に対してなんの抵抗もしなければ、信用してあげますわ」

 殺しに来ている相手に対してそんな要求、のめるはずがない。

 俺は死にたくないので、本気で死にそうな時は抵抗するしかない。

 だけど、それでも。

 「死なない攻撃だったら、抵抗しない」

 「そうですの。では⋯⋯無意味に無様に、攻撃を受けると良いですわ!」

 クロエさんの近くから闇が鞭のように伸び、俺の四肢を拘束する。

 腹や顔を目掛けて重い一撃が襲う。闇で作り出した拳のパンチはとてもえぐい。

 顔面に一発受けただけで、意識が飛びそうなくらいには大きな攻撃だ。

 だけど、抵抗しない。死なない攻撃だから。

 「ミドリさんは君を裏切ってないはずだ。なんで、天使に従うんだ」

 「それがわたくしの意思ですわ」

 その強い決意を見せながら、攻撃を繰り返す。

 ある程度攻撃をされたところで確実に殺せる攻撃が来たので、拳を強く放った。

 拘束をぶち破り、殺しに来た闇を破壊する。

 「抵抗しないのではないんですの?」

 「死にたくないんだ。死にそうな時は抵抗する」

 「そこまで攻撃力の高い攻撃ではありませんことよ?」

 「嘘だな。俺は確かに、自分を殺しうる力を感じた」

 すると、再び笑いだした。まるで正解だと言わんばかりに。

 「ええ。体内に侵入した闇が膨張して内部から破壊する、そのような攻撃ですわ」

 見た目の幼さからは想像もできない恐ろしい攻撃をしてくるな。

 愚痴りたくもあるが、今はグッと我慢する。

 「何をやっても無駄。だいたい、この僅かな時間で信用してもらうなんてのもおこがましい」

 「確かにその通りだと思うよ。でも、信用してもらうにはこれしかないと思うから」

 「そもそも、どうして信用される必要があるのです?」

 殺意マックスの闇の攻撃を回避しながら、俺は言葉を出す。

 「君は裏切られるのが怖いんだろ? だから信用して欲しい」

 「は?」

 「俺は『君』に信用して欲しい。そして俺は『君』を裏切らない」

 「天使様の軍門に下ると?」

 俺は肩を少しだけ上げた。

 「そんな訳ないだろ? 俺は天使の敵だし、信用して欲しいのも君だけだ」

 そう言うと、これ以上の返答は無駄だと感じたのか、再び攻撃して来る。

 その中に死なない程度の攻撃が含まれていたので、それには防御も回避もせずに受ける。

 バカバカしいと言いながら、心の中でも思っているだろうが、クロエさんはその攻撃を繰り返す。

 弱らせる目的でやっているのか、それとも無意識に誰かを信用したいと想う心が働いているのか。

 真相はどうであれ、手の緩んだ攻撃があると言う事実に変わりない。

 彼女に必要なのは裏切らないと信じれる人だ。

 そんな人がいないと考えているのだろうが、そんな人に俺はなりたいのだ。

 「忌々しい」

 「俺は君を攻撃しないし、死なない攻撃なら抵抗もしない」

 「それが信用できる素材にはなりえませんわ」

 「それでも。それでも何かをやらないと、分からないだろ。言葉でいくら言ったって君は否定する。だから少しでも、行動で示すしかないんだ」

 俺にできる事はそれくらいだから。

 「もう良いですわ。ケロベロス、終わらせなさい」

 黒闇の中から三つの頭を持った狼が出現した。

 ヨダレを流しながら、空腹の獣が餌を見つけて喜びに満ちて襲いにかかるように迫って来る。

 その攻撃が致命的になるのかならないのか、俺には判断ができなかった。

 殺気は感じる。だけどそれは俺を殺せる程のモノなのかが分からない。

 クロエさんは試そうとしているのかもしれない。

 曖昧な攻撃をして来る事で、俺の選択を探ろうとしている。

 躱して、その攻撃が俺を殺すモノではなかった場合、失敗に終わる。

 逆に受けて、それが俺の殺す攻撃だった場合は俺が終わる。

 その両者の逆の結果の場合は成功だ。

 命を賭けたクロエさんの信用を得るためのギャンブル。

 「信用されるには、まずは自分から信用するっ!」

 「⋯⋯死にますわよ?」

 俺は何も抵抗をしない。

 きっとこの攻撃はクロエさん的には殺し得ない攻撃だ。

 彼女の中にある優しさ、良心に付け入る形になるけどね。

 俺の無意味な行動を終わらせてから、処分する。それに賭ける。

 襲って来るだろう激痛に備えて、俺は目を瞑った。

 刹那、ケロベロスの左右の頭が両肩に噛み付いて来る。

 歯がくい込み、血が大量に流れる。

 痛い。本気で死にそうだ。

 「だけど、一つの頭が噛み付いて来てないな。俺の勝ちだ」

 「バカバカしいですわ。その状態でも大量出血で死に至りますわ」

 「ご丁寧にどうも。だが、死なない」

 俺には再生スキルがあるから。それも計算に入れていたんだろう。

 「クロエさんなら、ここでは殺さないと、信用した。信用している相手なら、信用できるんじゃないか?」

 「そんなの、ありえませんわ」
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