滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

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クラン アルティメットバハムート

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「硬いね」

「硬いな」

 酒場で頼んだ料理はどれも硬かった。硬いだけで味はするのだが⋯⋯アクアと比べると⋯⋯。
 だからと言って食べれない訳でもない。
 ただ、本当にちょっとした事なのだが、昔の事を思い出す。

「戦時を思い出すよ」

「言うな」

 そんな感じでもぐもぐと飯を食べていたら、遠くから大きな声が聞こえた。
 気になったので見ながら聞いてみる。

「HAHAHA! やはり我々クラン『ABアルティメットバハムート』がトップだ!」

 そんな叫びが響く。
 クランとは冒険者の集まり的なモノ。詳しくは知らない。
 入会するつもりも創るつもりも無いから。

「オラオラ! じゃんじゃん飲め! 今日は俺様の奢りだあああ!」

 迷惑な客だな。俺達以外の人も良い顔はしてないのだが、誰も止める様に言わない。
 きっとそれだけの力がそのクランにはあるのだろう。或いはあの冒険者か。

「うるさいなぁ」

「ちょ、サナ」

 ま、小声だから聞こえないか⋯⋯そんな甘い考えは通じなかった。
 俺達はまだ冒険者と言うのを詳しく知らない。
 戦う者は常に命の危険を犯している。
 いくら俺にしか聞こえない程度の小声でも、この様な閉鎖空間では僅かだが、音が反響し、それはどんなにうるさない中でも聞き分ける事が可能。
 それが上級冒険者と言うのだろう。
 叫んでいた赤星冒険者がサナの背後を取った。

「なんですか?」

「初めて見る顔だなぁ? ヒック」

 完全に酔ってらっしゃる。

「ふーん。なかなかに可愛なぁ」

「見ないでください」

 サナが冷静に対処する。

「どうだ? 俺様の女に成らないか!」

「ちょ、ガルハさん。酔すぎですよ」

「うるせぇ! 女は全員、ヒック、俺様の⋯⋯何かだぁ!」

 手を伸ばそうとしたのでその手を取る。
 サナでも問題ないと思うが、打ち上げの時⋯⋯無意識に押し倒したんだよな。
 問題行動にも成って欲しく無いので俺が止めた。
 そんな考えはサナにもお見通しなのか、「もうあんなドジしないし」的な顔をしている。

「んだァてめぇ!」

「女の子に手を出しちゃいけませんよ」

「んだぁ? 灰星風情が、赤星のぉ、英雄様の邪魔をするな!」

 手を強く引いたので手を離したら後ろに転けた。
 その光景に迷惑していた客達は嘲笑を浮かべる。
 人望が薄いのか、同じ席で酒を嗜んでいた仲間達も少しスッキリ顔をしていた。
 俺は少し男に同情した。

「調子に乗りやがってぇ!」

 顔が真っ赤で既に思考能力は限りなく低いと言って良い。

「この灰色の悪魔め!」

 悪魔と呼ばれました。

「黒髪黒目なんてぇ、悪魔しか居ないんだよォ! 悪魔は出てけぇ!」

「ガルハさんまずいですって!」

「黙れぇ! なんか言ってみろヒック! この悪魔!」

「⋯⋯」

「ちょ、サナ落ち着け!」

 サナが激しい怒りを煮えたぎらせていた。
 昔から俺が『悪魔』と呼ばれていると所に行っては喧嘩してたな。
 兄としては嬉しいが、この場では抑えた方が良い。
 魔力を認識して、魔法を使える様になった事により、その怒りは周囲に魔力を漏らしていた。
 これだと、魔力が無く、魔力が薄く精神が弱い者程先に気絶する。

 アカギから色々と話を聞いた。
『魔覇』と言う技術を。魔力を外部に威嚇する様に放出し、相手を恐怖に落とす力。
 魔力が無い者はすぐさま気を失う。
 魔力が薄く、そして精神が弱い程先に気絶する。
 自分よりも魔力が濃い相手だと効果は無いらしい。

 魔力量は魔力の総量、魔力の濃さは魔力を扱う魔法などの威力等に影響する。

「サナ、まじで落ち着け!」

「悪魔の仲間もまた悪魔! 俺様が浄化してやるぅ!」

 近くに会った酒をばら撒く。それがサナに掛かり、服に染みる。戦闘用のレザーアーマーなのでまだ良いが。
 俺の中の何かがプチン、と切れた。

「⋯⋯ッ!」

 目を見開き、自分でも制御出来ない程の怒りが魔力と成って外に放出さらる。
 結果、空気は揺れ、店の中は壁や床、天井にまでヒビが入り、殆どの人が気絶した。
 酔っていた男は酔いもあり、精神的な耐性が弱く成っており、漏らして気絶した。
 それに寄って落ち着いた俺達。

「「はは」」

 やばい。

 俺達⋯⋯では無く俺が騎士に連行され、色々と聞かれた。

「んまぁ、相手も悪い事は聞いた。君だけが加害者では無い」

「はい」

「だけどねぇ。世の中やり過ぎは良くないんだよ」

「はい」

 学校の先生かと思える程の浅い説教。だけど、今はそれがとても心に刺さった。

「それでね。罪は問われない⋯⋯罰金さえ払えばね?」

「はい」

「まず、冷凍保存等しないとダメな食料全てがダメに成った⋯⋯と言いたいが」

「ん?」

「それ以外の食料や酒もダメに成った。これは凄い事だぞ。褒められるモノじゃないが」

「はい」

「それと、店の修理費などなど⋯⋯このくらいある」

 出された値段を確認する。

「⋯⋯ッ!」

「ま、簡単には払えないだろ」

「あの。これ、身分カードです。商業ギルドから、お受け取りください。多分、足ります」

「え?」

 近くの他の人を呼び、俺の身分カードを持って商業ギルドの銀行へと向かう。その際に必要な書類に俺はサインと血判する。
 貴族様から頂いた金の六割が一夜で消えた。

 それから、罰金が払えて大事には成らずに俺は釈放された。
 外ではサナが待っており、「おつかれ」と言って来た。

「サナが怒ってなかったらあんな事には成らなかった」

「責任転嫁とは良くないですぞ」

「そうだな。それと、明日の行き場所は決まったぞ」

 兵士の話で魔力の扱い方を教えてくれる人が居るらしい。
 金は掛かる様だが、行く価値はあるだろう。

「それと、今からあそこに向かう」

「あそこは?」

「高台。今宵は満月⋯⋯そして、この鉱山の特徴として月が青く見えるらしくてな。行こうぜ」

「⋯⋯うん!」

 俺達は高台に向かう。
 高台には歯車で動く台車の様な板で上まで行ける。
 上ではそこそこの人達が居る。この国の人達は見慣れて居るのだろうが、俺達の様な旅人に取ってはとても珍しい光景だ。
 この国で月に一度見える満月の日にだけ見える青い月。

「綺麗だね」

「ああ。写真撮って貰えるみたいだし、行こ」

 三つの青い月の真ん中辺りに自分達が立っている。
 そんな背景をバックに俺達は並んで撮って貰う。
 旅の思い出の一ページが再びここで刻まれた。
 まだ俺達は来たばかりだ。もっとこの国の良さを、そしてこの旅を楽しもう。

「「⋯⋯」」

 その後、俺達は黙ってネックレスを外に吊るして眺めた。
 青い月を、何処までも遠くから輝く月を。
 俺達の道はこの月の様に輝いているのだろうか。この月の様に、いくつもの数の未来が存在しているのだろうか。

 俺達は陛下達を見つけ、戦争に付いて聞いた後、俺達はどの様な道を選択するんだろうか。

「なんか、しんみりしちゃうね」

「だな」
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