上 下
62 / 86
二章 能力専門学校

12話 結菜の弱さ

しおりを挟む
 結菜は最近千秋達と一緒にご飯を食べるようになった。

 回復した大和も加わり、四人で良くご飯を食べていた。

 そして、今日も今日とて結菜は千秋の所へと向かっているところだった。

「おい柴」

「ッ! あ、青界」

 急に話し掛けられ、跳び退いた結菜。

「最近付き合い悪いじゃねぇか」

「⋯⋯そんな事ないだろ」

「あるだろ。なんでここの生徒と仲良くしてんだ? お前はこっち側だろ」

「私は自由だ。お前のグループに入っているが、本来私は」

「関係ねぇよ。俺のグループに入っているんだから、勝手な行動は許さない」

「そんなの関係ない」

「関係あるね。弱肉強食、それが鉄則だろ?」

「何が言いたい?」

「お前が自由で居たいのなら、俺を倒してからだな」

「青界、お前に私が倒せるとでも?」

「余裕だな」

 二人は窓から飛び出し、外に出た瞬間に臨戦態勢に入る。

 結菜はアクセルを全解に、青界は身体能力強化を使う。

「ビーストブースト」

「⋯⋯」

 結菜が青界に向かって一瞬で移動して回し蹴りを放つ。

 だが、青界はそれを手の甲で受け止め、逆に足を掴んで地面に薙ぎ倒す。

「がはっ!」

「おら! さっきの威勢はどうしたよ!」

 地面が激しく揺れるような殴りを繰り返す。

 結菜がボロボロになり、手を離す青界。

「雑魚が。調子に乗り過ぎだ。お前のステータスは姉しか無い癖によ」

「な、ごふ。なんで、強化、系」

「なんでだと? それはこれだよ」

「⋯⋯マジ、ック」

 結菜は気絶する。

 青界の本来のアビリティは魔法系、水を操る力である。

 だが、今回のは純粋な身体能力強化、それもかなり上級の。

 青界の右腕には腕輪が嵌めてあった。

 ◆

 今日は柴が来ないようだ。

 放課後、俺は現在の担任の元に訪れていた。

「どうした?」

「この学校に来るクレームの内容を聞きたくて」

「教える訳なかろう」

 ですよね。

「それを聞いてどうしようとしたのだ?」

「え、まぁ」

「濁すなよ。まぁ、詳しくは教えられないが、この付近の飲食店は最近客が減っているようだぞ」

 飲食店、ね。

 ウチの情報網を使って徹底的に調べるか。

「そうだ。天音君」

「はい?」

「加藤並の行いが嫌いなのなら、生徒指導室に居る綾人先生を訪ねると良い」

「ありがとうございます」

 俺は生徒指導室へと向かい、そこに居たスキンヘッドの強面のおじさん、綾人先生を訪ねる事にした。

 ネームプレートには山本と書いてあったので山本先生と呼ぶ事にする。

「ふむ。ウチの生徒じゃないな。何用だ?」

「加藤並に関わる時は山本先生に頼るのが良いと聞いたので」

「なんだ? お前も何かされたのか」

「いえ。やっぱり多いですか?」

「ああ。今から放課後反省勉強会だ。何かあったら俺に相談しろよ」

「はい」

 頼りに成らなかった。

 取り敢えず俺は移動し、モンスター退治の準備を着々と揃えている黄雅の元を訪れた。

「へ、⋯⋯ボス! 何用ですか!」

「お前今変な仮面って言うとしただろ」

「滅相もない!」

「まぁいいや。野良って人達は大抵どこら辺に固まってんの?」

「そうですね。裏路地とかベタなところに居る奴らは野良の中でも弱い部類です。逆にファミレスなどの公共的な場所に居る奴らは強い部類です」

「迷惑なのはファミレス、か。先生方も対応に忙しいんかね」

「どうでしょうね」

 俺は黄雅の元を離れて学校近くのファミレスに入る。

 中には客がめっぽう少なかった。

 少しだけ居たとしても、とても嫌そうな顔をしている。

 理由は単純明快、大声で笑いながら喋り会っている高校生の男子が三人だ。

 机に足を置いて、飲み物だけを頼んでいた。

「あんたら、少しはマナーを守ったら」

 入ってすぐに注意したら、いきなり加速した拳が飛んで来た。

 顔をズラして避けるが、頬を掠る。ま、大したダメージは無い。

「変な仮面野郎がっうるせぇんだよ!」

「⋯⋯どいつもこいつも、そんなに変な仮面かよ!」

 結構気に入ってんだぞ!

 俺は一枚のスペルカードを取り出す。

「痺れろ、発動」

 対象の三体に対して高圧の電流が流れ、一人を残して全員気絶した。

「強化系か」

「お、前、何もんだ?」

「どうでも良いだろ。お前は物理で拘束する。スペルカード、瞬間転移、発動」

 俺とそいつはこの場から一瞬で移動する。

 ひらひらも落ちる一枚残したスペルカードが発動し、ヤンキー共が暴れた形跡を無くしておく。

 客や店員が唖然している。

 俺達が移動したのは近くの公園である。

 相手が辺りを見渡してオドオドしていた。

「お、お前! 何をした! 幻覚か?」

「現実だよ」

「なに! 瞬間転移だと! そんなアビリティが存在するのか!」

 俺は耳をほじりながら適当に言葉を放つ。

「うるさいよ。なんでも良いだろ。行くぞ!」

 俺は地を蹴って相手に接近し、腹に向かって手加減した拳を突き出す。

「舐めんな!」

 相手はヤンキーなりなのか、赤色のエフェクトを体に纏い、少しスピードが上がった。

 だが、それだけで俺の拳は普通に命中して空中に投げ出される。

「うぎゅ!」

 高速で数回転して地面に倒れる。だが、気合いなのかゆっくりと立ち上がる。

 足はプルプル震えている。

「な、なんつーパワーだ。アビリティ、何だよ」

「何だろうね」

 はぁ。金栗との戦い、無月との戦い、悪魔や天使などの訓練、それらと比べると本当に人だとただの弱い者いじめになってしまう。

 手加減しているのだが、そのせいで余計に成長を感じられない。

「はぁはぁ。クソッタレが!」

 土を掴んで俺に投げて来るが、特に意味は無かった。

 風も吹き、本当に土を投げても意味が無くなる。

「弱い者いじめは好かん。もう今後二度と誰かに迷惑を掛けないと誓え」

「黙れぇ!」

 強化のアビリティを使っても、焼け石に水。

 俺は再び相手に向かって拳を突き出し、地面に倒す。

「なんで、こんな、平和ボケした学校の奴なんかに」

「悪いな強くて。それじゃ、お前らの学校ルールの、敗者は強者に従う⋯⋯で、良いよな?」

「文句はねぇ。で、何をすんだよ」

「何もしないよ。だから、お前も一般人に何もするな」

「え」

「他の奴らにも伝えておけ。そして俺の事を広めろ。悪さする奴は、仮面の生徒が潰すってな」

「ああ、分かった」

「それと、今まで迷惑を掛けた相手に謝ってこい」

「嫌だ!」

 俺は相手の顔を叩いた。パチンっと綺麗な音を響かせるくらいには綺麗な叩きだ。

「さて、町を平和にして、ウチの学校に来るクレームゼロ件にするか」

 それが俺の役目だ。管理者としての、役目。

「始めるか。不良狩り」
しおりを挟む

処理中です...