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男二人でお紅茶飲んでんのってどうです?実際
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「本屋っすか?」
「うん、何か趣味見つけようと思って」
二人は駅ビルの大きな書店にいた。雑誌の棚を通り、織が趣味のコーナーで足を止めた。
(手相?手芸…DIYか。園芸…うーーん)
考え込むように腕を組んで立つ織の横で、向井は一冊の本を手に取った。
(『もっっとおいしい紅茶のために、あなたに伝える5ステップ』…おもしろそう)
織の視線に向井が気付いた。
「あぁ、このあと行くじゃないすか、ちょっと気になって」
「確かに。しかも5つって言われると気になるね、うちでもやろうかな」
「うちで?」
「うん。行楽を楽しむための厳選5アイテムとか。もうちょっと増やしてランキング形式でもいいかな」
そこから、織は店に並ぶ本のタイトルを眺めながら、店の売り場を考えて店内を一回りした。
向井が適当に相槌を打ちながら歩き、織が満足したところで、ぼちぼち予約の時間になった。
-----
※織
紅茶専門店という字面に身構えてたけど、入ってみたら気軽なカフェと純喫茶の間くらいの雰囲気で、ホッとした。
オセロ盤かと思ったら様々な茶葉が入った箱を持って店員がテーブルに来たときは怯んだものの、無事に注文を済ませ、改めて店内を見回した。
「紅茶ってすごい種類あるんすね」
「ね。色々教えてもらったら飲んでみたいのがいっぱいあって迷った」
ふと、自分が向井君と丸一日以上一緒にいることに気付いた。
「そういえば、昨日の昼からずっと一緒だね」
「…あぁ。確かに、そうっすね」
向井君は足を組んで、カウンターの向こうで紅茶を準備している店員さんの方を見ていた。
(あれ、今のちょっと気持ち悪かったかな)
「俺は織さんの寝顔も見ましたから」
「嘘!いやそうか…やめてよ恥ずかしい」
それでなくても男二人が紅茶屋さんでお茶しばいてる時点で恥ずかしいのに、そんな話までされたら逃げ出したくなる。
向井君は頬杖をついて余裕そうなのがうらやま腹立たしい。
「あぁ、恥ずかしいからこっち見てくんないんすか」
「そうっちゃそうだけど、向井君がバイト中みたいな死んだ目してないから何か調子狂うんだよ」
「バイト中の俺って目死んでたんだ…」
自覚が無かったみたいで、多少なりともショックを与えられたことで調子が戻ってきた。
「そうだよ!それに店ではむしろ向井君がこっち見てくんないじゃん。死んだ目は特に品出し中にしてるよ」
「虚無るんすよ。織さんはほら、俺尊敬してるから目が合うと恥ずかしくって」
「おい、今めっちゃ目合ってるけど」
「今は同棲中の恋人なんで、目に焼き付けてるんです」
「うっ」
今までずっとぶっきらぼうで、どっちかというと怖かったのに、最近はギャップがひどくて落ち着かない。
そこで向井君が笑い出した。
「そんな顔しないでくださいよ。あれから連絡無い感じですか?」
「だって!そっちが!…あぁ、連絡は無いね。心穏やかだよ。食べたいもの食べられるし、自由って感じかな」
体臭とか口臭とかに過敏にならなくて良いのと、来るか来ないか分からない奴のためにせっせと後ろを洗う虚しさが無いのが地味にめっちゃラクだった。
「今日はカレーとかラーメンとか、ごっついやつを食べるよ」
「一緒に食べようってことっすか」
「あ、せっかく神田に来たしカラシビ味噌ラーメン一緒に行く?でもなぁ、明日後悔しそうだからなぁ…」
「俺は若いんで大丈夫です、先輩」
「ほんとまじ…せいぜい今のうちに新陳代謝ぶん回しときなよ」
彼は若い。本当に若い。自分がもっと若かったら、周りの目なんて気にせずに恋人ごっこを楽しんだかもしれない。
-----
※向井
ちょうど健全な会話をしている時に注文の品が届いた。個人的には寝顔だ何だのくだりで来て欲しかった。
(命拾いしたな、織さん)
織さんはシフォンケーキ、俺はチーズケーキ、二人分の茶器が並んだテーブルはなかなかフォトジェニックだった。
「ねぇ、写メとって大丈夫かな」
「(令和に写メは存在しないんだよおじいちゃん)大丈夫っすよ、みんなも普通に撮ってるし」
「でもさ、それって女の子じゃん。ちょっと気まずくて…」
「織さんはそこらの女子よりインスタ似合うから大丈夫っすよ」
「どういうこと?…まぁ、せっかく来たから撮らせてもらお」
しばし気合を入れて写真を撮る織さんを見つめ、うっかり再燃した衝動を逃がすために、興味も無い店内メニューを眺めた。
(もしかして、こういう時の俺が虚無顔してんのか?)
「…これ」
「ん?撮れました?」
「匂わせじゃない?」
「はい?」
ほら、とイキイキした顔で、撮ったばかりの写真を見せられた。
「インスタとかにあげるやつ!どこどこのケーキ食べましたって言いつつ、彼氏の存在を見切れさすっていう」
「……」
「そういうのもう古い…?最近、呆れさすことが多いみたいで申し訳ないね」
俺がどんな気持ちで緩む頬を必死に押さえつけているかも知らずに、織さんはのん気なものだ。
(多分インスタとFacebookの区別もついてないくせに)
「いや、まさにそうですね。友達に送ってください、是非」
「…やだ」
(えぇ~?もう何~?)
俺はまだ口元を覆ったまま、手を下ろせない。
「これは思い出だから、普通にとっとく」
「…はい」
「あ、いる?このお店来たかったんでしょ?」
「いります。あと俺も撮ります」
(釣果がキャパを超過してるってか)
今日は大漁だった。
「うん、何か趣味見つけようと思って」
二人は駅ビルの大きな書店にいた。雑誌の棚を通り、織が趣味のコーナーで足を止めた。
(手相?手芸…DIYか。園芸…うーーん)
考え込むように腕を組んで立つ織の横で、向井は一冊の本を手に取った。
(『もっっとおいしい紅茶のために、あなたに伝える5ステップ』…おもしろそう)
織の視線に向井が気付いた。
「あぁ、このあと行くじゃないすか、ちょっと気になって」
「確かに。しかも5つって言われると気になるね、うちでもやろうかな」
「うちで?」
「うん。行楽を楽しむための厳選5アイテムとか。もうちょっと増やしてランキング形式でもいいかな」
そこから、織は店に並ぶ本のタイトルを眺めながら、店の売り場を考えて店内を一回りした。
向井が適当に相槌を打ちながら歩き、織が満足したところで、ぼちぼち予約の時間になった。
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※織
紅茶専門店という字面に身構えてたけど、入ってみたら気軽なカフェと純喫茶の間くらいの雰囲気で、ホッとした。
オセロ盤かと思ったら様々な茶葉が入った箱を持って店員がテーブルに来たときは怯んだものの、無事に注文を済ませ、改めて店内を見回した。
「紅茶ってすごい種類あるんすね」
「ね。色々教えてもらったら飲んでみたいのがいっぱいあって迷った」
ふと、自分が向井君と丸一日以上一緒にいることに気付いた。
「そういえば、昨日の昼からずっと一緒だね」
「…あぁ。確かに、そうっすね」
向井君は足を組んで、カウンターの向こうで紅茶を準備している店員さんの方を見ていた。
(あれ、今のちょっと気持ち悪かったかな)
「俺は織さんの寝顔も見ましたから」
「嘘!いやそうか…やめてよ恥ずかしい」
それでなくても男二人が紅茶屋さんでお茶しばいてる時点で恥ずかしいのに、そんな話までされたら逃げ出したくなる。
向井君は頬杖をついて余裕そうなのがうらやま腹立たしい。
「あぁ、恥ずかしいからこっち見てくんないんすか」
「そうっちゃそうだけど、向井君がバイト中みたいな死んだ目してないから何か調子狂うんだよ」
「バイト中の俺って目死んでたんだ…」
自覚が無かったみたいで、多少なりともショックを与えられたことで調子が戻ってきた。
「そうだよ!それに店ではむしろ向井君がこっち見てくんないじゃん。死んだ目は特に品出し中にしてるよ」
「虚無るんすよ。織さんはほら、俺尊敬してるから目が合うと恥ずかしくって」
「おい、今めっちゃ目合ってるけど」
「今は同棲中の恋人なんで、目に焼き付けてるんです」
「うっ」
今までずっとぶっきらぼうで、どっちかというと怖かったのに、最近はギャップがひどくて落ち着かない。
そこで向井君が笑い出した。
「そんな顔しないでくださいよ。あれから連絡無い感じですか?」
「だって!そっちが!…あぁ、連絡は無いね。心穏やかだよ。食べたいもの食べられるし、自由って感じかな」
体臭とか口臭とかに過敏にならなくて良いのと、来るか来ないか分からない奴のためにせっせと後ろを洗う虚しさが無いのが地味にめっちゃラクだった。
「今日はカレーとかラーメンとか、ごっついやつを食べるよ」
「一緒に食べようってことっすか」
「あ、せっかく神田に来たしカラシビ味噌ラーメン一緒に行く?でもなぁ、明日後悔しそうだからなぁ…」
「俺は若いんで大丈夫です、先輩」
「ほんとまじ…せいぜい今のうちに新陳代謝ぶん回しときなよ」
彼は若い。本当に若い。自分がもっと若かったら、周りの目なんて気にせずに恋人ごっこを楽しんだかもしれない。
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※向井
ちょうど健全な会話をしている時に注文の品が届いた。個人的には寝顔だ何だのくだりで来て欲しかった。
(命拾いしたな、織さん)
織さんはシフォンケーキ、俺はチーズケーキ、二人分の茶器が並んだテーブルはなかなかフォトジェニックだった。
「ねぇ、写メとって大丈夫かな」
「(令和に写メは存在しないんだよおじいちゃん)大丈夫っすよ、みんなも普通に撮ってるし」
「でもさ、それって女の子じゃん。ちょっと気まずくて…」
「織さんはそこらの女子よりインスタ似合うから大丈夫っすよ」
「どういうこと?…まぁ、せっかく来たから撮らせてもらお」
しばし気合を入れて写真を撮る織さんを見つめ、うっかり再燃した衝動を逃がすために、興味も無い店内メニューを眺めた。
(もしかして、こういう時の俺が虚無顔してんのか?)
「…これ」
「ん?撮れました?」
「匂わせじゃない?」
「はい?」
ほら、とイキイキした顔で、撮ったばかりの写真を見せられた。
「インスタとかにあげるやつ!どこどこのケーキ食べましたって言いつつ、彼氏の存在を見切れさすっていう」
「……」
「そういうのもう古い…?最近、呆れさすことが多いみたいで申し訳ないね」
俺がどんな気持ちで緩む頬を必死に押さえつけているかも知らずに、織さんはのん気なものだ。
(多分インスタとFacebookの区別もついてないくせに)
「いや、まさにそうですね。友達に送ってください、是非」
「…やだ」
(えぇ~?もう何~?)
俺はまだ口元を覆ったまま、手を下ろせない。
「これは思い出だから、普通にとっとく」
「…はい」
「あ、いる?このお店来たかったんでしょ?」
「いります。あと俺も撮ります」
(釣果がキャパを超過してるってか)
今日は大漁だった。
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