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会えない時間が愛育てるという噂
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普段の織は人目を気にして買わなかったが、今日は勢いもあって紅茶店で茶器を購入した。
「今度これでお茶淹れるから!」
「じゃあカウンターの棚に飾られたら、俺淹れますね」
「おしゃ木板の前科があるからね…でもこれはちゃんと使うから任して」
織は茶器の入った箱を、いっそう強く抱えた。
帰りに二人でラーメンを食べて帰った。
帰宅した織はさっそく紅茶を淹れてみた。
お店で飲んだような感動的な仕上がりには流石にならなかった。
それでも、織は満足していた。
(もっと上手く淹れられるようになったら飲んでもらおう)
その時が来れば、いつでも向井を部屋に呼べると思っていた。
それが間違いだと分かったのは、もう少し後になってからだった。
-----
「あー!電車来ちゃうんでお先に失礼します!」
「えっエプロンのままでいいの?気を付けてね!」
時間と戦う大月は店名の入ったエプロンを着たまま、一つにまとめた髪を揺らし帰っていった。
(間に合うといいけど…)
織は苦笑しながら、本部に提出する文書の続きに取り掛かった。
他に誰もいない店舗は静かで、織のタイプ音だけが響いた。
それなりに残務があったが、彼に急ぐ理由は無かった。
(ただいまっと)
それなりの時間に織は帰宅した。ざっとシャワーを浴び、見たい番組も無いのにテレビをつけた。
LINEを確認したが未読は増えていなかった。
ゲームを起動して自分の島を手入れした。向井のログインはしばらく無かった。織は黙々と島を整備し続けた。
(あ、よくないな、この感じ)
織はそれなりにゲームを楽しんでいたが、結局この時間も島も何になるんだろう?と冷めたことを考えてしまい、コントローラーを置いた。
もう横になることにしたが、それは翌日の仕事に向けた義務感からだった。
(繁忙期だったら良かったのに)
限界を迎えた身体でベッドに倒れ込み、束の間の気絶を繰り返すような生活なら、確かに彼は自分の寂しさに気付かなかった。
(ここ最近、楽しすぎたせいだ)
織の生活自体はいつも通りだった。変わったのは、向井が大学の試験期間に入り、シフトが減ったことだけだった。
たまに出勤できる日があっても、以前のように織と遊ぶ余裕はなく、速攻で退勤していった。
羽場との関係が続いていたなら、それでも影響は無いはずだった。
久々に向井が出勤したとき、織は声をかけようと彼に近付いた。
お疲れ様、久々だね。今日も試験?明けたら紅茶飲みに来てよ。そんな他愛ないことを話すつもりだったが、実際は目が合うなり、お疲れ様とだけ言ってフロアへ逃げた。
(あれ?あれ?恥ずかしい)
少し会わない間に、織は向井の目を意識すると恥ずかしくなって、とても今まで通りに接することができなくなっていた。そうなってくると織にできるのは仕事しかなかった。
ろくに話もできないくせに、次の出勤日を待ち遠しく思ってしまうあたりで、さすがの織も気付いた。そして、ひどい自己嫌悪に陥った。
(羽場と会えなくて寂しいからって、バイトに来てる大学生をそんな目で見るなんて…)
親御さんの気持ちを思うとゾッとした。
(自分みたいなのが同性愛への差別を助長するんだ。男なら誰でもいいのかよ。向井君も親切で優しくしてくれたばかりに、こんな奴に好かれて)
それ以降、向井の試験期間はまもなく終わりを迎えるが、織の方は、もはや試験が終わっても今までのように付き合っていける気がしていなかった。
-----
「…んんっ…!」
寝るためにはもうこれしかない。
これしかないんだけど、誰にも見向きもされずに、一人で性器を弄っている自分がすごく気持ち悪い。
誰か、こんな自分を使ってよ。なんて、出会いに行く勇気も無いから自分は今こんなことになってるっていうのに。
(…やっぱりダメだ)
スッキリして寝よ!どころか、後ろが欲しくなったもどかしさと、特有のイヤな虚しさのせいで、余計に気が沈んだ。
(…さびしい)
元々、一人だった。誰も見向きもしない、場末の小売店員。
こんな自分を掘ろうと思う奴なんて、きっともう現れない。
(分かってるのに。羽場とまた会うまでは一人で生きていけてたのに)
だからって、いま会いたいのは一人だけだった。
「LINEも電話も、いつでも大丈夫っすよ」
向井君の言葉がチラついた。
(ないないないない、こんな時間に店長がバイトに電話はないないないない)
深夜で眠れないからって、流石にそこまで甘える訳にはいかなかった。
「…あ」
(朝になっちゃった)
結局眠れなかったけど、夜が明ければ仕事があるから、少しホッとした。
「今度これでお茶淹れるから!」
「じゃあカウンターの棚に飾られたら、俺淹れますね」
「おしゃ木板の前科があるからね…でもこれはちゃんと使うから任して」
織は茶器の入った箱を、いっそう強く抱えた。
帰りに二人でラーメンを食べて帰った。
帰宅した織はさっそく紅茶を淹れてみた。
お店で飲んだような感動的な仕上がりには流石にならなかった。
それでも、織は満足していた。
(もっと上手く淹れられるようになったら飲んでもらおう)
その時が来れば、いつでも向井を部屋に呼べると思っていた。
それが間違いだと分かったのは、もう少し後になってからだった。
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「あー!電車来ちゃうんでお先に失礼します!」
「えっエプロンのままでいいの?気を付けてね!」
時間と戦う大月は店名の入ったエプロンを着たまま、一つにまとめた髪を揺らし帰っていった。
(間に合うといいけど…)
織は苦笑しながら、本部に提出する文書の続きに取り掛かった。
他に誰もいない店舗は静かで、織のタイプ音だけが響いた。
それなりに残務があったが、彼に急ぐ理由は無かった。
(ただいまっと)
それなりの時間に織は帰宅した。ざっとシャワーを浴び、見たい番組も無いのにテレビをつけた。
LINEを確認したが未読は増えていなかった。
ゲームを起動して自分の島を手入れした。向井のログインはしばらく無かった。織は黙々と島を整備し続けた。
(あ、よくないな、この感じ)
織はそれなりにゲームを楽しんでいたが、結局この時間も島も何になるんだろう?と冷めたことを考えてしまい、コントローラーを置いた。
もう横になることにしたが、それは翌日の仕事に向けた義務感からだった。
(繁忙期だったら良かったのに)
限界を迎えた身体でベッドに倒れ込み、束の間の気絶を繰り返すような生活なら、確かに彼は自分の寂しさに気付かなかった。
(ここ最近、楽しすぎたせいだ)
織の生活自体はいつも通りだった。変わったのは、向井が大学の試験期間に入り、シフトが減ったことだけだった。
たまに出勤できる日があっても、以前のように織と遊ぶ余裕はなく、速攻で退勤していった。
羽場との関係が続いていたなら、それでも影響は無いはずだった。
久々に向井が出勤したとき、織は声をかけようと彼に近付いた。
お疲れ様、久々だね。今日も試験?明けたら紅茶飲みに来てよ。そんな他愛ないことを話すつもりだったが、実際は目が合うなり、お疲れ様とだけ言ってフロアへ逃げた。
(あれ?あれ?恥ずかしい)
少し会わない間に、織は向井の目を意識すると恥ずかしくなって、とても今まで通りに接することができなくなっていた。そうなってくると織にできるのは仕事しかなかった。
ろくに話もできないくせに、次の出勤日を待ち遠しく思ってしまうあたりで、さすがの織も気付いた。そして、ひどい自己嫌悪に陥った。
(羽場と会えなくて寂しいからって、バイトに来てる大学生をそんな目で見るなんて…)
親御さんの気持ちを思うとゾッとした。
(自分みたいなのが同性愛への差別を助長するんだ。男なら誰でもいいのかよ。向井君も親切で優しくしてくれたばかりに、こんな奴に好かれて)
それ以降、向井の試験期間はまもなく終わりを迎えるが、織の方は、もはや試験が終わっても今までのように付き合っていける気がしていなかった。
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「…んんっ…!」
寝るためにはもうこれしかない。
これしかないんだけど、誰にも見向きもされずに、一人で性器を弄っている自分がすごく気持ち悪い。
誰か、こんな自分を使ってよ。なんて、出会いに行く勇気も無いから自分は今こんなことになってるっていうのに。
(…やっぱりダメだ)
スッキリして寝よ!どころか、後ろが欲しくなったもどかしさと、特有のイヤな虚しさのせいで、余計に気が沈んだ。
(…さびしい)
元々、一人だった。誰も見向きもしない、場末の小売店員。
こんな自分を掘ろうと思う奴なんて、きっともう現れない。
(分かってるのに。羽場とまた会うまでは一人で生きていけてたのに)
だからって、いま会いたいのは一人だけだった。
「LINEも電話も、いつでも大丈夫っすよ」
向井君の言葉がチラついた。
(ないないないない、こんな時間に店長がバイトに電話はないないないない)
深夜で眠れないからって、流石にそこまで甘える訳にはいかなかった。
「…あ」
(朝になっちゃった)
結局眠れなかったけど、夜が明ければ仕事があるから、少しホッとした。
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