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おやすみからおはようまで
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織は自分のベッドに陣取っている向井に恐る恐るお伺いを立てた。
「あの…」
「駄目っすよ」
「いえ、わたくしの方がソファで寝ますので…」
「駄目です」
「いや、人がいると眠れないかも」
「店でバリバリ寝てたじゃないすか」
「すみませんでした」
取り付くシマも無い向井に、織は眠れないであろう覚悟を決め、向井の待つベッドに入った。
少し離れて、二人は並んで横になった。
(在庫処分でつい買ったけど、クイーンにして良かった)
せめてものポジティブだった。
「あ」
「えっ、どしたの?」
「今日の報告書書いといたんで、明日の朝にでもチェックして出してください」
「うっそ、有能すぎない?」
織は先程からちょっとした呟きにも反応して精神を消耗していたが、暗くて顔が見えないことや、向井がいつもの調子なことで少し緊張が解けてきた。
「あと」
「どしたの」
「すみませんでした」
(ん?)
「どういうこと?」
織は思わず向井の方に顔を向けた。向井も織の方を向いた。
暗さに目が慣れてきて、ぼんやりと浮かぶ向井の顔に、織は人知れず鼓動が速まった。
「俺、協力するって言ったのに。力になれなくて」
「…」
「すみませんでした」
「…えっ、いや」
(早く答えなきゃ)
織は焦ったが、目が合ってしまったまま、すぐに次の言葉が出なかった。
「全然、向井君は悪くないよ?教えてもらったゲームもめっちゃしたし」
「あぁ。確かにログインしてるのは通知で見てたんすけど、よく見たら時間やばかったっすね」
「そんな通知来るの!?今時のゲームって」
「フレンドなんで」
(人知れずログインウォッチされてたんだ…最近のフレンドは監視国家だな)
それから少し間があって、向井がひとり言のように呟いた。
「…そりゃ、会いたいっすよね」
「え?」
向井は言い直す代わりに別のことを口にした。
「まぁ、一人よりはマシだと思うんで、何かあったら俺呼んでください」
その優しさは甘すぎて、織には苦しかった。
(そんな優しいこと言わないで)
「大丈夫だよ、学校だってあるのに…」
「俺が呼んでほしいんす。木の皮みたいな色でしたよ、顔面」
「ごめん…」
(いい年してアルバイトさん達に心配かけるなんて、さすがに情けないけど)
「でも、ありがとうね」
(嬉しいな。なんて、思っちゃだめなんだけど)
織は久々に感じる安心感に包まれ、いつの間にか眠りについた。
-----
俺は織さんの寝顔を見られる現在唯一の人間だ。
(最高の朝活はここにあったんだな。整う)
この早起き寝顔ウォッチング、スムージーや白湯より長寿に効く気がする。するのだが…
やっぱり織さんの顔色が良くない。ここ一、二週間で痩せた気もする。
(ムカつく)
試験が終わるまでは連絡を控えようとか、ちょっとでも織さんが意識してくれたらワンチャンあるなとか、そんな事しか考えられなかった自分が馬鹿すぎて嫌になる。
どんな形でも頼ってもらったのに、協力するって言ったのに。ちょっと思った以上の成果があったからって浮かれてた。
こんなに無防備で、自分を大事にしないで、何が大丈夫なんだろう。
「みんな心配してんすから」
(もっと頼ってほしいけど、俺じゃないんだろうな)
会えなくなってこんなに織さんを弱らせるあいつが許せなかった。
こんなに好かれてんのに、結局女と結婚してるくせに。で、案の定もう連絡してこないくせに。
(はぁ、だっさ。これただの逆恨みじゃん)
いらんことにメンタルを使ってしまったので、寝顔ウォッチングに戻った。
この人が元気になるまで、俺はストーカーと呼ばれてもきっちり粘着しようと誓った。
「あの…」
「駄目っすよ」
「いえ、わたくしの方がソファで寝ますので…」
「駄目です」
「いや、人がいると眠れないかも」
「店でバリバリ寝てたじゃないすか」
「すみませんでした」
取り付くシマも無い向井に、織は眠れないであろう覚悟を決め、向井の待つベッドに入った。
少し離れて、二人は並んで横になった。
(在庫処分でつい買ったけど、クイーンにして良かった)
せめてものポジティブだった。
「あ」
「えっ、どしたの?」
「今日の報告書書いといたんで、明日の朝にでもチェックして出してください」
「うっそ、有能すぎない?」
織は先程からちょっとした呟きにも反応して精神を消耗していたが、暗くて顔が見えないことや、向井がいつもの調子なことで少し緊張が解けてきた。
「あと」
「どしたの」
「すみませんでした」
(ん?)
「どういうこと?」
織は思わず向井の方に顔を向けた。向井も織の方を向いた。
暗さに目が慣れてきて、ぼんやりと浮かぶ向井の顔に、織は人知れず鼓動が速まった。
「俺、協力するって言ったのに。力になれなくて」
「…」
「すみませんでした」
「…えっ、いや」
(早く答えなきゃ)
織は焦ったが、目が合ってしまったまま、すぐに次の言葉が出なかった。
「全然、向井君は悪くないよ?教えてもらったゲームもめっちゃしたし」
「あぁ。確かにログインしてるのは通知で見てたんすけど、よく見たら時間やばかったっすね」
「そんな通知来るの!?今時のゲームって」
「フレンドなんで」
(人知れずログインウォッチされてたんだ…最近のフレンドは監視国家だな)
それから少し間があって、向井がひとり言のように呟いた。
「…そりゃ、会いたいっすよね」
「え?」
向井は言い直す代わりに別のことを口にした。
「まぁ、一人よりはマシだと思うんで、何かあったら俺呼んでください」
その優しさは甘すぎて、織には苦しかった。
(そんな優しいこと言わないで)
「大丈夫だよ、学校だってあるのに…」
「俺が呼んでほしいんす。木の皮みたいな色でしたよ、顔面」
「ごめん…」
(いい年してアルバイトさん達に心配かけるなんて、さすがに情けないけど)
「でも、ありがとうね」
(嬉しいな。なんて、思っちゃだめなんだけど)
織は久々に感じる安心感に包まれ、いつの間にか眠りについた。
-----
俺は織さんの寝顔を見られる現在唯一の人間だ。
(最高の朝活はここにあったんだな。整う)
この早起き寝顔ウォッチング、スムージーや白湯より長寿に効く気がする。するのだが…
やっぱり織さんの顔色が良くない。ここ一、二週間で痩せた気もする。
(ムカつく)
試験が終わるまでは連絡を控えようとか、ちょっとでも織さんが意識してくれたらワンチャンあるなとか、そんな事しか考えられなかった自分が馬鹿すぎて嫌になる。
どんな形でも頼ってもらったのに、協力するって言ったのに。ちょっと思った以上の成果があったからって浮かれてた。
こんなに無防備で、自分を大事にしないで、何が大丈夫なんだろう。
「みんな心配してんすから」
(もっと頼ってほしいけど、俺じゃないんだろうな)
会えなくなってこんなに織さんを弱らせるあいつが許せなかった。
こんなに好かれてんのに、結局女と結婚してるくせに。で、案の定もう連絡してこないくせに。
(はぁ、だっさ。これただの逆恨みじゃん)
いらんことにメンタルを使ってしまったので、寝顔ウォッチングに戻った。
この人が元気になるまで、俺はストーカーと呼ばれてもきっちり粘着しようと誓った。
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