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体調悪いときは養命酒もパイカルもNG
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早番の畑山さんは、向井にお粥を渡した際に玉子スープやコーンスープの素も置いて行った。
向井は貼られていた付箋を見て、思わず顔が綻んだ。
『朝、食べられたらお湯で溶かして、飲めば、温まりますヨ。朝は、雨の予報ですし、人手が足りていますので、無理して来ないように!』
「ふっ」
(もう東京のお母さんだな。あの店、織さんのお母さん多いんだよな)
織さんのスマホは、俺がライトを点灯し続けて電池が切れたため、アラームは鳴らないはずだった。
「えっ?何で?何時!?」
その甲斐あって、シャワーを借りてリビングで髪を拭いてると、ちょうど取り乱す織さんが見れた。
「おざす、今10時ちょいっす」
「えええ!やばい、開店してるわ、どうしよ」
(どうせならもっと寝てればいいのに)
ひとまず畑山さんの付箋メッセージを見せ、織さんに玉子スープかコーンスープかを選んでもらった。
「じゃあ玉子…あ、向井君そっちで大丈夫?」
「ハイ。あ、シャワー借りました」
「あぁ良いよ全然。タオルわかった?」
「ハイ(柔軟剤のメーカーも確認して俺んちにあす着です)」
そこまでは良かったが、織さんの何となくよそよそしい感じが気になった。
(まぁ、男が好きって言ってるし、こんだけグイグイ来てたら流石に警戒するか)
「…あの、織さん」
「んっ?」
やっぱり何か不審だった。
どう思われても仕方ないが、せめて体調が戻るまでは変に意識してほしくなかった。
「昨日はあんな状態だったし押しかけちゃいましたけど。今後は呼ばれない限り勝手に来ないんで」
俺はなるべくカミングアウト前の温度感を心がけて言葉を続けた。嘘をつくときは、何となく織さんの顔を見れなかった。
(本当は呼ばれなくても来たい。ひと目でも顔を見て安心したい。許されるなら毎日そばにいたいし、甘やかしたい)
「店長が倒れたら困るし、学生バイトが心配してお節介焼いてるだけなんで、多少ウザくても諦めて早く元気になってください」
「…」
「織さん?」
「うん。ごめんね、心配してくれてありがとう」
織さんはこっちを見て笑った。一旦は拒絶されなかったことに、俺は安堵した。
(…何か含みのあるありがとうだな)
「嫌そうっすね」
「何でよ。店長として情けないなってだけだよ。しかし、何時に行くのがいいかねぇ…」
カウンターに肘をついて、思案顔の織さんはいつも通りに見えた。
「実際、マスト何時とかあるんすか」
「うーん。一応定時は13時だったと思う」
「ブラック過ぎて笑うんすけど」
-----
残念ながら講義があるため、向井は昼過ぎに織と別れ、大学へ向かった。
それまでの時間は後回しにしていた洗濯や掃除を二人でして、お茶を淹れて一息ついて過ごした。
「安否確認するんで、ちゃんとLINE見てくださいね」
「…ハイ。なんか遠方のおじいちゃんみたいだけど分かったよ」
「向井コールみたいな呼出ボタン作ったら置きます?」
「置かない。気を付けていってらっしゃい」
提案は却下されたものの、織の行ってらっしゃいを受けて向井は嬉しそうに改札を通った。
織は、向井の後姿を見送って店舗に向かった。
(おかげ様でだいぶ人間らしくなったな)
ここ最近の不調が全てとはいかないが、だいぶ楽になった。
しかも、練習の甲斐があり、向井に自分が淹れた紅茶を飲んでもらえたことにも織は上機嫌だった。
迷惑をかけたお詫びとお礼に、駅前で早番さん達にお菓子を選んでいる間も、自然と笑顔を浮かべていた。
(あ。このクッキー紅茶に合いそう。今度はミルクティーで出してみようかな)
クッキーを手に取った時に織は気付いた。自分が今度を期待していることに。
(違う)
織は静かに商品を置いた。
(そもそも、向井君は遊びに来たんじゃなくて、職場でダウンした自分を送って介護してくれたのに。なに浮かれてんだ)
今後は呼ばれない限り勝手に来ないんで。
店長が倒れたら困るし。
学生バイトがお節介焼いてるだけ。
(わざわざ線を引くようなことを言ったのは、自分が…何か、警戒されるようなことをしたのかも)
学生バイトに手を出す気持ち悪い社員にだけはなりたくなかった。そのくせ織は、向井の言葉に傷ついている自分が既に気持ち悪かったし、向井に自分の気持ちが漏れていたらと考えると血の気が引くような気持ちになった。
「…すみません。これお願いします。自宅用で」
織は東京のお母さん達が待つ職場へ急いだ。
ゴーストライターのおかげで本部への提出物が捗って仕方なかった上に、お母さん達が織の残業を許さなかったため、織はさっさと職場を追い出された。
スタッフの思いやりは美しかったが、落ちている人間に時間を与えるとろくなことにならないのは間違いなかった。
-----
※向井
(既読つかねぇな)
病的な間隔でスマホを見返しても、織さんの反応は無かった。
(この前は日和ったせいであんな織さんを見る羽目になったからな)
ウザがられても良いから確かめに行こうと、迷わずお宅訪問を決めた。
「あれぇ?向井君?本物ぉ?」
「あす。本物なんで入れてください」
トロンとした織さんを見た時点でお察しではあったが、カウンターに置かれた養命酒を発見して確信した。
(養命酒で酔ってんだこの人…)
残った量を見るとそこまで飲んではいないっぽいが、箱にしまってテレビの裏に隠した。織さんはソファで寝る一歩手前だった。
「うーん…向井君どしたの?」
「織さんLINEも電話もつながんないんで、孤独死チェックに来ました」
「そう!なんか充電なくなっちゃったんだ、どこやったかな」
(もう駄目だ、この人)
さすがに呆れたけど、何かあった訳じゃなくて良かった。
「心配してくれたの?」
「…しましたよ」
「心配性の、お節介な向井くんだもんね」
「はいはい言いましたね」
俺は織さんが贅沢に使っているソファの隙間に座った。織さんはもはや目が開いてないが、一応起きているようで俺にくだを巻き始めた。
(人の気も知らないで…)
「だからって、なんでここまでしてくれるの?」
「それは…」
織さんが聞いたくせに、返事を待たずにジロッとこっちを見て続けた。
「僕の事、ペットかなんかだと思ってるでしょ」
「いや、ペットなら問答無用でカメラ置くし、ものすごく尊重されてますよ織さんは」
「そうなの?いちおう尊厳があったんだ、僕にも」
(前より酔ってるかも…)
そういえば織さんって自分のことボク呼びだったのか。
「なんてね。さすがに分かるよ」
「またまた」
急に俺の気持ちを読んだ織さんの口ぶりに、内心ドキッとしつつ、口では余裕ぶった。
「安心してね、向井君がいる間はクビになんないように頑張るからさ」
(ほら何も分かってない)
「わぁ俺とっても嬉しいです」
安心した俺は棒読みで答えた。
「僕もこのお店好きだから、嬉しいよ」
「いい人ばっかっすよね」
それは本当に思っている。
「うん、本当ありがたいよ」
「織さんの人徳ですよ。そういう人が集まるのは」
「そうだといいね」
(はあぁぁぁ何その顔)
寂しそうな笑顔に、俺は何も言えなくなってしまった。自分が社員だから気遣ってくれてるだけ、織さんは本気でそう思ってるから。
「…本当にそうなんすよ」
それきり寝てしまった織さんが寄りかかってきた。顔が近いと俺が悪さをしそうなので、俺が落ち着くまで俺の膝を枕に寝かしておいた。
-----
※織
信じられないかもしれませんが、目が覚めたら向井君の膝枕で寝ていました。
「!!!!??」
(何で?現実?いま何時?スマホは?)
じわじわ記憶が戻ってきた。多分さっき飲んだ養命酒で酔ったんだろう。
向井君が寝ていたので、起こさないようにそっと身体を起こして室内を見回した。養命酒も無いけど全部飲んじゃったんだろうか。怖い。
(そう思うと、身体がやたら熱いような)
確か薬局で、小さいカップに一杯飲んだそばから温まる、みたいなことを言われて買った。
なるほど、汗もかいてるし効果はばつぐんな感じがする。
(…うわ!向井君がいるのに、人が来ない時用の部屋着じゃん)
まだ状況が良く分からないけど、多分LINEの返事が無いから向井君が心配して来てくれたんだろう。
(ALSOKもびっくりの遂行力だな)
とにかく汗を流して着替えるために浴室へそっと向かった。
-----
(どうしよう)
織は養命酒のせいにはできない熱を持て余して、お湯の溜まっていない浴槽にへたり込んでいた。
(でも向井君の前で反応しちゃう訳にもいかないし、かといって前だけじゃ余計に状況が悪化する気がする)
しばらく悩んだ結果、織は洗面台の下にしまい込んでいたグッズを取り出して準備を始めた。
「ん…。はぁ…」
何度かお湯を飲んで吐いている内に、何故か前が反応していた。
中を洗っただけでこんなことになる自分に嫌気が差したが、無視できない衝動に従って織は手を動かし始めた。
「はー…んんっ…」
向井を起こさないよう声を抑えたが、(防音だし逆にこっちからの音も聞こえないのかも?)と思い油断が生まれた。どのみち、我慢しても漏れる声を抑えきれなかった。
シャワーを止め、洗浄用のノズルにオイルをまとわせた。再びその先端を自分の中に入れ、くるくるとかき混ぜるように中で動かし始めた。
「ん…んん…っ…」
久々の刺激を貪るように身体が反応した。同時に、加速度的に欲望が沸き上がってきた。
(思い切り突いて欲しい。自分に興奮してほしい。その熱をぶつけて欲しい。最後まで…誰か)
向井の顔が浮かんだ。
「っ…!んんっ…や、あ、はぁ……」
止められなくて、織は一瞬ためらったが洗面台の下から取り出したローションの封を切って秘部に注入した。
(助けて。どうしようもなく欲しい。もっと…)
「も…やだ…」
余裕が無くなった織は気付かなかった。
目が覚めると姿が無くなっていた織を探して向井が浴室へ向かっていた音にも。
何度か呼びかけた向井の声も。
「織さーん?」
「大丈夫っすか?」
「…すんません、開けますよー」
結果、浴室の扉を開けた向井は、織のあられもない最中の姿を見る形になった。
扉が開いたことに、さすがに気付いた織が熱に浮かされた顔で後ろを振り返った。そして二人の目が合った瞬間、
「こらっ、そんな事したら怪我しますよ」
向井は固まっている織から金属製のノズルを取り上げた。
「は…え…?むか…」
予想外の反応に織はまだ対応できなかった。その間に向井はシャワーヘッドを全年齢用に付け替え、浴室の扉を閉めた。
「温まったら出てきてください」
織はリアクションが間に合わないまま、浴室に一人残された。
「…え」
この世の終わりっぽいが、なんか違う向井の対応に、織はまだ頭が追いついていなかった。
「いい加減出てこないと突入しますよ」
「待って待って待って開けないで!!」
向井の一言で、立てこもっていても良いことが無いと分かった織は、リビングに戻ってきた。
向井は貼られていた付箋を見て、思わず顔が綻んだ。
『朝、食べられたらお湯で溶かして、飲めば、温まりますヨ。朝は、雨の予報ですし、人手が足りていますので、無理して来ないように!』
「ふっ」
(もう東京のお母さんだな。あの店、織さんのお母さん多いんだよな)
織さんのスマホは、俺がライトを点灯し続けて電池が切れたため、アラームは鳴らないはずだった。
「えっ?何で?何時!?」
その甲斐あって、シャワーを借りてリビングで髪を拭いてると、ちょうど取り乱す織さんが見れた。
「おざす、今10時ちょいっす」
「えええ!やばい、開店してるわ、どうしよ」
(どうせならもっと寝てればいいのに)
ひとまず畑山さんの付箋メッセージを見せ、織さんに玉子スープかコーンスープかを選んでもらった。
「じゃあ玉子…あ、向井君そっちで大丈夫?」
「ハイ。あ、シャワー借りました」
「あぁ良いよ全然。タオルわかった?」
「ハイ(柔軟剤のメーカーも確認して俺んちにあす着です)」
そこまでは良かったが、織さんの何となくよそよそしい感じが気になった。
(まぁ、男が好きって言ってるし、こんだけグイグイ来てたら流石に警戒するか)
「…あの、織さん」
「んっ?」
やっぱり何か不審だった。
どう思われても仕方ないが、せめて体調が戻るまでは変に意識してほしくなかった。
「昨日はあんな状態だったし押しかけちゃいましたけど。今後は呼ばれない限り勝手に来ないんで」
俺はなるべくカミングアウト前の温度感を心がけて言葉を続けた。嘘をつくときは、何となく織さんの顔を見れなかった。
(本当は呼ばれなくても来たい。ひと目でも顔を見て安心したい。許されるなら毎日そばにいたいし、甘やかしたい)
「店長が倒れたら困るし、学生バイトが心配してお節介焼いてるだけなんで、多少ウザくても諦めて早く元気になってください」
「…」
「織さん?」
「うん。ごめんね、心配してくれてありがとう」
織さんはこっちを見て笑った。一旦は拒絶されなかったことに、俺は安堵した。
(…何か含みのあるありがとうだな)
「嫌そうっすね」
「何でよ。店長として情けないなってだけだよ。しかし、何時に行くのがいいかねぇ…」
カウンターに肘をついて、思案顔の織さんはいつも通りに見えた。
「実際、マスト何時とかあるんすか」
「うーん。一応定時は13時だったと思う」
「ブラック過ぎて笑うんすけど」
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残念ながら講義があるため、向井は昼過ぎに織と別れ、大学へ向かった。
それまでの時間は後回しにしていた洗濯や掃除を二人でして、お茶を淹れて一息ついて過ごした。
「安否確認するんで、ちゃんとLINE見てくださいね」
「…ハイ。なんか遠方のおじいちゃんみたいだけど分かったよ」
「向井コールみたいな呼出ボタン作ったら置きます?」
「置かない。気を付けていってらっしゃい」
提案は却下されたものの、織の行ってらっしゃいを受けて向井は嬉しそうに改札を通った。
織は、向井の後姿を見送って店舗に向かった。
(おかげ様でだいぶ人間らしくなったな)
ここ最近の不調が全てとはいかないが、だいぶ楽になった。
しかも、練習の甲斐があり、向井に自分が淹れた紅茶を飲んでもらえたことにも織は上機嫌だった。
迷惑をかけたお詫びとお礼に、駅前で早番さん達にお菓子を選んでいる間も、自然と笑顔を浮かべていた。
(あ。このクッキー紅茶に合いそう。今度はミルクティーで出してみようかな)
クッキーを手に取った時に織は気付いた。自分が今度を期待していることに。
(違う)
織は静かに商品を置いた。
(そもそも、向井君は遊びに来たんじゃなくて、職場でダウンした自分を送って介護してくれたのに。なに浮かれてんだ)
今後は呼ばれない限り勝手に来ないんで。
店長が倒れたら困るし。
学生バイトがお節介焼いてるだけ。
(わざわざ線を引くようなことを言ったのは、自分が…何か、警戒されるようなことをしたのかも)
学生バイトに手を出す気持ち悪い社員にだけはなりたくなかった。そのくせ織は、向井の言葉に傷ついている自分が既に気持ち悪かったし、向井に自分の気持ちが漏れていたらと考えると血の気が引くような気持ちになった。
「…すみません。これお願いします。自宅用で」
織は東京のお母さん達が待つ職場へ急いだ。
ゴーストライターのおかげで本部への提出物が捗って仕方なかった上に、お母さん達が織の残業を許さなかったため、織はさっさと職場を追い出された。
スタッフの思いやりは美しかったが、落ちている人間に時間を与えるとろくなことにならないのは間違いなかった。
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※向井
(既読つかねぇな)
病的な間隔でスマホを見返しても、織さんの反応は無かった。
(この前は日和ったせいであんな織さんを見る羽目になったからな)
ウザがられても良いから確かめに行こうと、迷わずお宅訪問を決めた。
「あれぇ?向井君?本物ぉ?」
「あす。本物なんで入れてください」
トロンとした織さんを見た時点でお察しではあったが、カウンターに置かれた養命酒を発見して確信した。
(養命酒で酔ってんだこの人…)
残った量を見るとそこまで飲んではいないっぽいが、箱にしまってテレビの裏に隠した。織さんはソファで寝る一歩手前だった。
「うーん…向井君どしたの?」
「織さんLINEも電話もつながんないんで、孤独死チェックに来ました」
「そう!なんか充電なくなっちゃったんだ、どこやったかな」
(もう駄目だ、この人)
さすがに呆れたけど、何かあった訳じゃなくて良かった。
「心配してくれたの?」
「…しましたよ」
「心配性の、お節介な向井くんだもんね」
「はいはい言いましたね」
俺は織さんが贅沢に使っているソファの隙間に座った。織さんはもはや目が開いてないが、一応起きているようで俺にくだを巻き始めた。
(人の気も知らないで…)
「だからって、なんでここまでしてくれるの?」
「それは…」
織さんが聞いたくせに、返事を待たずにジロッとこっちを見て続けた。
「僕の事、ペットかなんかだと思ってるでしょ」
「いや、ペットなら問答無用でカメラ置くし、ものすごく尊重されてますよ織さんは」
「そうなの?いちおう尊厳があったんだ、僕にも」
(前より酔ってるかも…)
そういえば織さんって自分のことボク呼びだったのか。
「なんてね。さすがに分かるよ」
「またまた」
急に俺の気持ちを読んだ織さんの口ぶりに、内心ドキッとしつつ、口では余裕ぶった。
「安心してね、向井君がいる間はクビになんないように頑張るからさ」
(ほら何も分かってない)
「わぁ俺とっても嬉しいです」
安心した俺は棒読みで答えた。
「僕もこのお店好きだから、嬉しいよ」
「いい人ばっかっすよね」
それは本当に思っている。
「うん、本当ありがたいよ」
「織さんの人徳ですよ。そういう人が集まるのは」
「そうだといいね」
(はあぁぁぁ何その顔)
寂しそうな笑顔に、俺は何も言えなくなってしまった。自分が社員だから気遣ってくれてるだけ、織さんは本気でそう思ってるから。
「…本当にそうなんすよ」
それきり寝てしまった織さんが寄りかかってきた。顔が近いと俺が悪さをしそうなので、俺が落ち着くまで俺の膝を枕に寝かしておいた。
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※織
信じられないかもしれませんが、目が覚めたら向井君の膝枕で寝ていました。
「!!!!??」
(何で?現実?いま何時?スマホは?)
じわじわ記憶が戻ってきた。多分さっき飲んだ養命酒で酔ったんだろう。
向井君が寝ていたので、起こさないようにそっと身体を起こして室内を見回した。養命酒も無いけど全部飲んじゃったんだろうか。怖い。
(そう思うと、身体がやたら熱いような)
確か薬局で、小さいカップに一杯飲んだそばから温まる、みたいなことを言われて買った。
なるほど、汗もかいてるし効果はばつぐんな感じがする。
(…うわ!向井君がいるのに、人が来ない時用の部屋着じゃん)
まだ状況が良く分からないけど、多分LINEの返事が無いから向井君が心配して来てくれたんだろう。
(ALSOKもびっくりの遂行力だな)
とにかく汗を流して着替えるために浴室へそっと向かった。
-----
(どうしよう)
織は養命酒のせいにはできない熱を持て余して、お湯の溜まっていない浴槽にへたり込んでいた。
(でも向井君の前で反応しちゃう訳にもいかないし、かといって前だけじゃ余計に状況が悪化する気がする)
しばらく悩んだ結果、織は洗面台の下にしまい込んでいたグッズを取り出して準備を始めた。
「ん…。はぁ…」
何度かお湯を飲んで吐いている内に、何故か前が反応していた。
中を洗っただけでこんなことになる自分に嫌気が差したが、無視できない衝動に従って織は手を動かし始めた。
「はー…んんっ…」
向井を起こさないよう声を抑えたが、(防音だし逆にこっちからの音も聞こえないのかも?)と思い油断が生まれた。どのみち、我慢しても漏れる声を抑えきれなかった。
シャワーを止め、洗浄用のノズルにオイルをまとわせた。再びその先端を自分の中に入れ、くるくるとかき混ぜるように中で動かし始めた。
「ん…んん…っ…」
久々の刺激を貪るように身体が反応した。同時に、加速度的に欲望が沸き上がってきた。
(思い切り突いて欲しい。自分に興奮してほしい。その熱をぶつけて欲しい。最後まで…誰か)
向井の顔が浮かんだ。
「っ…!んんっ…や、あ、はぁ……」
止められなくて、織は一瞬ためらったが洗面台の下から取り出したローションの封を切って秘部に注入した。
(助けて。どうしようもなく欲しい。もっと…)
「も…やだ…」
余裕が無くなった織は気付かなかった。
目が覚めると姿が無くなっていた織を探して向井が浴室へ向かっていた音にも。
何度か呼びかけた向井の声も。
「織さーん?」
「大丈夫っすか?」
「…すんません、開けますよー」
結果、浴室の扉を開けた向井は、織のあられもない最中の姿を見る形になった。
扉が開いたことに、さすがに気付いた織が熱に浮かされた顔で後ろを振り返った。そして二人の目が合った瞬間、
「こらっ、そんな事したら怪我しますよ」
向井は固まっている織から金属製のノズルを取り上げた。
「は…え…?むか…」
予想外の反応に織はまだ対応できなかった。その間に向井はシャワーヘッドを全年齢用に付け替え、浴室の扉を閉めた。
「温まったら出てきてください」
織はリアクションが間に合わないまま、浴室に一人残された。
「…え」
この世の終わりっぽいが、なんか違う向井の対応に、織はまだ頭が追いついていなかった。
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