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思ってても言わない優しさ

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織はLINEのトークルームが固定されているのを解除しようとピンのマークを押しても、トーク画面に移動するばかりで困っていたことを相談した。

「うわ!左にもボタンが出てくるのは罠だわ」

(くだらな。しょうもな。ググれ。ググっても分かんなかったんだろうな)

ようやく調子を取り戻した向井は、自分のトークルームを最上部に固定して、織にスマホを返した。

「はい。良かったっすね。解決して」
「ありがとう。いつもごめんね。LINEは未だにわかんないんだよね…」

織が分からないのはLINEだけではなかったが、向井は突っ込まなかった。
そこでふと、先程から織が手元に置いている紙袋が気になった。

「そういえばその袋、何か買ったんすか?」
「あっ」

織は再び下を向いてしまった。

「あのね…駅前に遅くまでやってる店があって、その」

紙袋からテーブルに出されたのは、いくつかの焼き菓子だった。

「クッキーすか」
「うん。前に買った紅茶と合うかなと思って…」

(なぜこのタイミングで?)

「あ…そうなんすね。確かに合いそうっすね」

向井は疑問に感じつつも調子を合わせたところ、織はホッとした表情で笑った。

「良かった…このタイミングでクッキー?とか言われるかと思った」
「言わないっすよ」


明日の食後にでも食べようか、と焼き菓子をカウンターに置いた織は機嫌が良さそうだった。
すっかり不安が消えた向井は、つい浮かれてからかいたくなった。

「俺のために買って来てくれたんすか?」
「え?」

なんて、駅まで行ったついでだろう。飲んだ日は謎にお土産を買って帰ってきた父を思い浮かべながら、向井は織の反応を待った。

「深い意味は無いよ。風呂先に入るから」
「分かってたけどツンっすね」

浴室へお湯を出しに行った織は、鏡で自分の顔が赤くなっていないか確認した。

(女の子が赤くなるのは可愛いんだけどな)
結果、赤かろうと酔っていたため問題なかった。織はホッと息を吐いた。

「これもうダメだな」

その夜、織はある決意をしてベッドに入った。
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