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恋の季節
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大きな衝撃を受けて向井は目を覚ました。
目の前では涙目の織が、頭突き負けした頭を抱えていた。
何となく状況を察した瞬間、向井は血の気が引いた。
「えっ?織さん?俺…」
向井が固まっている間に、織は毛布を抱えてベッドから飛び退いた。
「僕あっちで寝るから」
「待ってください!…すみません、俺何しました?」
「…っ」
織にそれを説明できるメンタルは無かった。
「…抱き枕にされたからこっちで寝る!もう寝ろ!」
そう言い捨てたきり織はソファの奥に消え、向井の呼びかけに反応することは無かった。
(遂にやってしまったのか…いや何をやってしまったのか?)
向井は自分に問うばかりだったが、本当に織を抱き枕にしただけであそこまで怒らないであろうことは分かっていた。
いずれにせよ今は織が完全シャットアウトモードのため、朝を待つしかなかった。
長い夜だった。
-----
織のアラーム音が部屋に響いた。
じきに織の動く気配がし、リビングから出たことを確認した向井は静かにベッドから降りた。
顔を洗い、朝の身支度を終えた織が洗面所から戻ると、向井が正座で出迎えた。
「…」
声は我慢したものの、織は思わず笑い出しそうになった口元を押さえた。
「本当にすみませんでした」
「寝てたの」
「はい、頭突き?で起きました。…記憶も無くてすみません」
「…怒ってないよ」
(そうは見えない)
織もどう接するか決めかねていたが、ちらっと見た向井の顔が見るからに寝不足だったため、かわいそうが勝った。
「ハイ立って。そもそも、自分も酔っちゃ記憶を失くすから人のこと言えないし」
「けど、あんな怒るってことは、やばいことしたんじゃないすか、俺」
予想以上に深刻な向井の反応に、織はそもそも自分が向井に寄っていったことを思い出して罪悪感が湧きはじめた。
「いや、そこまでは…とにかくもう良いから!」
織はこの話を打ち切った。自分も昨夜のことは忘れることにした。
-----
日曜の夜ともなれば、客足もまばらだった。
店長の気が多少そぞろでも、店舗は問題なく営業した。
「わ~すれられないの~…っと」
織は向井とのキスを思い出さないよう、倉庫で肉体労働に励んだ。
「あら織さん、恋の季節ね」
「エッ!?」
突然の声に、人が来ないと油断して鼻歌をかましていた織は、ドキッとして入口の方を見た。
「小山さん。あれ、今日入ってましたっけ?っていうか、こ、恋の季節って?」
「シフト出しに来たのよ、写メがボケちゃってボケちゃって、夕飯のついでに持って来ちゃったわ」
早番でよく来てくれる東京のお母さんが、織を探して倉庫にたどり着いたところだった。
「恋の季節って恋の季節でしょ。織さん知らないで歌ってたの?」
「あ、さっきの歌?曲名なんですか…」
「そうよ~、私も小ちゃい頃の曲。よく知ってるわね」
カラオケ行きたいわねぇ、などと言いながら東京のお母さんは帰っていった。
「…はぁ、びっくりした」
気付けば閉店時間も近かったため、織は受け取ったシフト希望表を手にフロアへ戻った。
-----
(ハッ)
気付けば織は、いそいそと帰り支度をしていた。
向井と夜更けの紅茶を飲むために早足で玄関の鍵を開けた。
わくわくし過ぎていたことに気付いて顔を引き締めたが、向井の顔を見て自然と緩んだ。
「お帰りなさい、織さん。お疲れ様っす」
「ただいま」
(あぁ、すごい。好き)
織は改めて向井への恋心を自覚した。
(社員が学生に手を出すとか知らんし。こんなにいい子なんだから、好きになっちゃうのはもうしょうがないし)
一周して開き直った織は、この感情を否定するよりも他で自分に相応しい人を探す方が建設的だと悟った。
「時間遅いけど向井君、お腹あいてる?」
「あぁ、紅茶とあれっすよね。食べましょう」
(こんな僕が好きになって、ごめんね)
「うん。楽しみ」
目の前では涙目の織が、頭突き負けした頭を抱えていた。
何となく状況を察した瞬間、向井は血の気が引いた。
「えっ?織さん?俺…」
向井が固まっている間に、織は毛布を抱えてベッドから飛び退いた。
「僕あっちで寝るから」
「待ってください!…すみません、俺何しました?」
「…っ」
織にそれを説明できるメンタルは無かった。
「…抱き枕にされたからこっちで寝る!もう寝ろ!」
そう言い捨てたきり織はソファの奥に消え、向井の呼びかけに反応することは無かった。
(遂にやってしまったのか…いや何をやってしまったのか?)
向井は自分に問うばかりだったが、本当に織を抱き枕にしただけであそこまで怒らないであろうことは分かっていた。
いずれにせよ今は織が完全シャットアウトモードのため、朝を待つしかなかった。
長い夜だった。
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織のアラーム音が部屋に響いた。
じきに織の動く気配がし、リビングから出たことを確認した向井は静かにベッドから降りた。
顔を洗い、朝の身支度を終えた織が洗面所から戻ると、向井が正座で出迎えた。
「…」
声は我慢したものの、織は思わず笑い出しそうになった口元を押さえた。
「本当にすみませんでした」
「寝てたの」
「はい、頭突き?で起きました。…記憶も無くてすみません」
「…怒ってないよ」
(そうは見えない)
織もどう接するか決めかねていたが、ちらっと見た向井の顔が見るからに寝不足だったため、かわいそうが勝った。
「ハイ立って。そもそも、自分も酔っちゃ記憶を失くすから人のこと言えないし」
「けど、あんな怒るってことは、やばいことしたんじゃないすか、俺」
予想以上に深刻な向井の反応に、織はそもそも自分が向井に寄っていったことを思い出して罪悪感が湧きはじめた。
「いや、そこまでは…とにかくもう良いから!」
織はこの話を打ち切った。自分も昨夜のことは忘れることにした。
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日曜の夜ともなれば、客足もまばらだった。
店長の気が多少そぞろでも、店舗は問題なく営業した。
「わ~すれられないの~…っと」
織は向井とのキスを思い出さないよう、倉庫で肉体労働に励んだ。
「あら織さん、恋の季節ね」
「エッ!?」
突然の声に、人が来ないと油断して鼻歌をかましていた織は、ドキッとして入口の方を見た。
「小山さん。あれ、今日入ってましたっけ?っていうか、こ、恋の季節って?」
「シフト出しに来たのよ、写メがボケちゃってボケちゃって、夕飯のついでに持って来ちゃったわ」
早番でよく来てくれる東京のお母さんが、織を探して倉庫にたどり着いたところだった。
「恋の季節って恋の季節でしょ。織さん知らないで歌ってたの?」
「あ、さっきの歌?曲名なんですか…」
「そうよ~、私も小ちゃい頃の曲。よく知ってるわね」
カラオケ行きたいわねぇ、などと言いながら東京のお母さんは帰っていった。
「…はぁ、びっくりした」
気付けば閉店時間も近かったため、織は受け取ったシフト希望表を手にフロアへ戻った。
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(ハッ)
気付けば織は、いそいそと帰り支度をしていた。
向井と夜更けの紅茶を飲むために早足で玄関の鍵を開けた。
わくわくし過ぎていたことに気付いて顔を引き締めたが、向井の顔を見て自然と緩んだ。
「お帰りなさい、織さん。お疲れ様っす」
「ただいま」
(あぁ、すごい。好き)
織は改めて向井への恋心を自覚した。
(社員が学生に手を出すとか知らんし。こんなにいい子なんだから、好きになっちゃうのはもうしょうがないし)
一周して開き直った織は、この感情を否定するよりも他で自分に相応しい人を探す方が建設的だと悟った。
「時間遅いけど向井君、お腹あいてる?」
「あぁ、紅茶とあれっすよね。食べましょう」
(こんな僕が好きになって、ごめんね)
「うん。楽しみ」
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