【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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おとな?

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『きゅんきゅんするぅ♡』

 日曜の朝に再放送されている、高校生の恋愛がテーマらしいアニメで、オトナな高校生のおにいさんが、もだえていた。

「テレビは1m離れて見なさい」おかあさんのお達しに背くように、遥斗の身体が前のめりになる。


『それ、恋じゃん』

 夕暮れの教室で、友だちに小突かれたお兄さんが、振りかえる。

『やっぱり?』

『すきなんだろ、あいつのこと』

 真っ赤になったお兄さんが、照れている。

『……うん、やっぱ、すきかも』


 遥斗は学習した。

 きゅんきゅんするのは、恋らしい。




「きゅんきゅんって、こいなんだね」

 ちょっとオトナになった遥斗の言葉に、のんびり日曜日でおせんべいをかじっていた両親は顔を見合わせた。

「恋のこともあるけど、恋じゃないこともあるよ」

 おかあさんの言葉に、おとうさんもうなずく。

「推しにきゅんきゅんとか」

「ほら、アイドルさんが、かっこいー♡ とか」

「かわいいぬいぐるみに、きゅんきゅんする♡ とか」

 きゅんきゅんには、色んな種類があるらしい。


「こい、のきゅんきゅんと、どうちがうの?」

 首をかしげる遥斗に、ちょっと赤くなったおとうさんが、教えてくれる。

「それはね、遥斗。大人になったらわかるんだよ」

 なるほど。オトナ。

「ちょっと何を言いだすの!」

 真っ赤なおかあさんが、あわあわしてる。


 やっぱり、恋はオトナがするものらしい。

 まだ幼稚園の遥斗には、ちょっと、いや、だいぶ? はやいのかもしれない。



 それでも、遥斗の胸は、きゅんきゅんする。


 この間まで、ちょっと苦手なお隣さんだった涼真が、きゅんきゅんするお隣さんになった。

 運動会のときに手を繋いでくれた涼真は、遥斗と手をつなぐことは、そんなにいやではないと思ってくれたのかもしれない。


「ん」

 幼稚園バスに乗るときに、膝に包帯をした遥斗に手を差しだしてくれた。

 びっくりした。

 ちいさな手を見つめて固まってしまった遥斗は、あわてて顔をあげる。


「……え……? りょーくん、どうしたの?」

 手をつなぐの、いやじゃなかった?

 心配で夜空の目をのぞきこむ遥斗に、涼真は唇を開いた。


「ころばない、ように」


 しゃべった!

 跳びあがるくらい、うれしくなった。


 話してくれて、手を繋いでくれるだなんて、とびきりのきゅんきゅんがやってくる。


 きゅうっとする胸で、遥斗は涼真が差しだしてくれた手を見つめる。

 ころばないようにと涼真は手をつなごうとしてくれるけれど、手を繋いでいたら、まだ足が痛む遥斗がよろけて転んだら、涼真まで転んでしまう気がした。

「あ、あの、ぼく、まだあし、いたくて、りょーくんも、いっしょに、ころんじゃうんじゃ……」

 心配する遥斗をさえぎるように

「ささえる」

 涼真の手が伸ばされる。


「……いいの……?」

「ん」


 運動会でも迷惑をかけてしまった。
 一緒に転んでけがをしたら、大変なことになる。

 わかっているのに、遥斗は涼真へと手をのばしていた。


 涼真と、手をつなぎたい。

 どきどきする胸で、遥斗は涼真の手をにぎった。


 きゅ


 つながる指に、胸の奥が、きゅうっとする。


 ぎゅ

 応えるように涼真が手をにぎってくれた瞬間、とくりと鼓動が跳ねる。


 頬が、熱い。

 はずかしくて、涼真の顔を見られない。


 どきどきする。

 そわそわする。

 何か、何か、言わなきゃ。

 思うのに、何にも言葉にならなかった。


 だから遥斗は、涼真の手をにぎった。

 ぎゅうぎゅう、にぎった。



「ちょっと、いたい」

 涼真の声に、飛びあがる。

 今日はたくさん話してくれてる! 会話になってる!

 飛び跳ねて踊りそうになった遥斗は、あわてて止まる。


「ご、ごめん!」

 あわてて手を離そうとする遥斗の手を、のびた涼真の手がつかまえる。

 離れかけた指が、また繋がった。


 とくん

 鼓動が、あまく音をたてる。


 つながる指が、あたたかい。


「そっと? やさしく?」

 いっぱい話してくれる! 会話になってる! うれしい!

 飛び跳ねて踊りたい気もちを押さえた遥斗は、こくりとうなずいた。


「わ、わかった」


 きゅ

 そっと、やさしく、涼真の手をにぎる。

 ふわふわ頬が、熱くなる。



 涼真と手をつないで、幼稚園バスを降りたら

「おお、なかよしだな!」

 幼稚園の先生が、笑ってくれた。


 帰りのバスでも

「ん」

 涼真が手を差しだしてくれるから、遥斗は熱い頬で、手をつないだ。

 けがをしたことを、白い包帯の膝を、うれしくさえ思ってしまう。



 りょーくんと、手が、つながってる。


 とくとく鼓動が音をたてる。

 きゅんきゅん胸が切なくなる。

 ぽわぽわ頬が熱くなる。

 どうしてだろう、涼真にやさしくされるたび、視界があまくうるんでく。


 いつだって、かっこいーりょーくんが、きらきらだ。



「りょうくんとなかよくしてくれて、ありがとう、はるくん」

 幼稚園のバスを降りたら、涼真のおかあさんが、うれしそうに笑ってくれた。








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