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あふれる
しおりを挟む白峰高校の合格発表の日、心臓が口から出そうになりながら遥斗は両親と一緒に結果を待った。
どきどきしすぎて、視界が揺れる。
りょーくんだいすきのどきどきとは違う、命の危険を感じそうなどきどきだ。心臓にわるい。
あぁあ──! 合格していますように……!
祈る遥斗の前で、両親がパソコンをのぞきこむ。
「出た! 出たよ、はる!」
「……197番……197番…………あった!」
「合格したよ! 遥斗!」
「やったあぁあぁあ──!」
両親といっしょに抱きあって、飛び跳ねて喜んだ。勿論りょーくんも合格だった。
すぐにお隣に駆けたら
「ハル、合格してた。俺も。よかった」
ふうわり、笑ってくれた。
白王高校の受験の前日、手づくりなんてうざいかなと心配しながら、遥斗は涼真のすきなマドレーヌを焼いた。
……出来は……はじめて作ったし『子どもでも簡単!』という書名が、うそつきだということをふたたび発見した。あんまり膨らまず、ぽそっとした仕上がりになってしまったけれど、涼真なら『ハルらしい』笑ってくれる気がした。
受験会場で食べたら、リラックスしてくれるかもしれない。
遥斗の応援なんて、すごく頭のいい涼真にはちっともいらないかもしれないけれど、それでも遥斗は気持ちをこめて、お菓子を焼いた。
「りょーくん、がんばれ!」
今度は、口にだして言える励ましをこめて。
試験会場で開いて、ちょっとでも元気がでたらいいなと『りょーくんなら、だいじょうぶ!』カードも添えた。
贈り物を抱きしめると、どきどきする。
『りょーくん、だいすき』
想いが、ひそやかに、沁みてゆく気がする。
受験当日、遥斗は朝早くに迷惑かなと心配しながら、お隣の涼真の家の扉の前で声をかける。
「おはよー、りょーくん、遥斗ですー」
チャイムを鳴らしたら、受験の準備で忙しい一条家の迷惑になるかもしれない。もうすぐ家を出てくるだろうから、しばらく待ってみよう。
ちいさな包みを抱えた遥斗は、どきどきしながら扉の前で待った。
りょーくんに逢える。
思うだけで、飽きることを知らぬ胸は、毎日とくとく駆けてゆく。走るのがだいすきな遥斗みたいに。
遥斗は、3階建てでそびえたつお隣さんの出窓を見あげる。
涼真の部屋の出窓にはカーテンが敷かれたままだ。
しばらく待ったけれど、出てこない。
分厚いコートとマフラーで完全防寒な遥斗の足の指が、冷たくなる。ああ、靴下が薄かったかも。失敗したな。
ぴょこぴょこ飛び跳ねながら待つ遥斗の前で、扉が開いた。
ちょうど受験に行くだろう時間に来たのに、出てきたのは、ぴょこぴょこ跳ねた夜空の髪に白いパジャマの涼真だった。
「……ハル……?」
どう見ても、寝ぼけてる。
ぽやんとしたりょーくんも、かっこいー♡ じゃなかった!
「え、りょーくん、どうしたの! 今日、白王高校の受験の日だよね!?」
ぱちりと瞬いた涼真は、今起きたみたいな顔をして、首をかしげる。
「そう?」
「もう支度しなくちゃ、間に合わないよ! 僕、手伝うから!」
あわてる遥斗に、涼真は告げる。
「受けない」
「…………え…………?」
「白王、受けない」
ぽかんと遥斗は、口を開けた。
「……どうして……だって、合格、絶対確実だって……皆のあこがれの高校だよ……?」
夜空の瞳が、まっすぐ、遥斗を見つめる。
「白峰、行く。ハルと、いっしょに」
胸が痛くて、息が、できない。
あふれる涙で、涼真が見えない。
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