【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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おうえん?

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 ちょいちょい達也に招かれた遥斗は、1組を振りかえる。

「りょーくん、もう帰ってきそう?」

「なんか、コンテストがどうとか言ってたぞ。ほら、プログラミングの。まだかかるんじゃね?」

「俺ら、しばらくいるからさ、一条が帰ってきたら、佐倉が待ってたって伝えておいてやるよ。3組?」

「うん! ありがとー!」

 手をふった遥斗を手招きした達也は、教室棟の奥にひっそりある資料室の扉を開けた。

「勝手に入っていーの?」

 心配で眉をひそめる遥斗に、達也は笑う。

「鍵が掛かってないから、大丈夫でしょ。ちょっと内緒の話がしたくて」

 学内をよく探検して慣れているのか、ためらいなく達也は遥斗を招き入れた。

 ちいさな資料室には、今までの生徒会の議事録や学校の歴史の資料などが置かれているらしい。本棚に並ぶファイルの背表紙が日焼けしている。窓から射しこむ陽に照らされたこまかな埃が、きらきら舞った。ふるい本の匂いがする。

 遥斗を資料室のなかに押しこめた達也は、他に人がいないことを確認してから、扉に内側から鍵をかけた。

「おお、厳重だな」

 本気の内緒話だ。

 びっくりする遥斗に、達也は深くうなずいた。


「だいじな話があるんだ」

 傾いた春の陽に、達也の眼鏡がしずかに光る。


「……なに?」

 おそるおそる聞いた遥斗に、達也は声をひそめた。


「一条くんと遥斗って、つきあってるの?」


 扉の向こうで、さわぐ一年生たちが通りすぎる。

 遥斗は静かに息をすった。


 もう、何度も聞かれてきた。言われてきた。それこそ、幼稚園のころから。

『一条と佐倉って、できてんじゃねーの?』

『仲、よすぎ!』

『きもちわるーい!』

 からかわれたことは、数えきれないくらいある。

 幼稚園のお兄ちゃん先生みたいに、理解のある大人ばかりじゃない。眉をひそめる教師もいた。

『仲よすぎると、誤解する人もいるからなー、気をつけろよ』

『マイノリティは、大変だぞ。ふつうのふりをしといたほうがいい』

 助言のつもりなのかもしれないけれど、ふつうって、なんだよ。

『おともだちとは適切な距離を保つようにね』

 適切って、なんだよ。


 ふくれた遥斗と涼真は手をつないで登下校をつづけた。今も、ずっと。


 でも、つきあっていない。

 ……遥斗は、涼真とつきあいたいけれど。

 恋人になりたい。

 伴侶になりたい。

 心から、願っているけれど。

 きっと、涼真にそんな気もちは、微塵もない。

 涼真は遥斗のことを、幼なじみだと思っている。ともだちに、ちょこっと毛がぴよんとしているくらいの。

 だから絶対に告白なんて、できない。


 今の至上のしあわせが壊れてしまうと、遥斗もこわれてしまうから。

 涼真と幼なじみでさえ、いられなくなるなんて、遥斗の命が、終わってしまうから。



 何度も何度も聞かれたことに答える用意は万全だ。
 遥斗は毛ほども動揺することなく、いつもの答えを繰りだした。

「幼なじみだよ」

 透きとおる遥斗の答えに、ぶんぶん達也は首をふる。


「違うよ! 批難とか、やめとけとか、そういうのじゃなくて、応援したいと思って!」


 ぽかんと遥斗は口を開けた。





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