【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ

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はじめての

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『俺、か、かわいい……!?』

 聞いたら『かわいい』催促するみたいで、はずかしいから、真紀の手をにぎる。

 ぎゅうぎゅう、にぎる。


「……真紀ちゃん、すごく、すごく、すごく、すごく、かっこいー」

 ぽそぽそつぶやいたら、紅い耳で手をひいてくれる。


「行くぞ、愛希」


 あなたが呼んでくれたら

『あき』

 天上の響きになる。


 くすぐったくて、頬が熱くて、胸が熱くて、どうしてだろう、涙があふれそうになる。


「……真紀ちゃん、だいすき」

 ささやいて、手をにぎったら、びっくりしたみたいに振りかえる真紀の耳朶が、ほんのり朱に染まる。


「……俺も、愛希がすき」

 ぎゅうぎゅうにぎってくれる指に、号泣しそうになるから、ぎゅっと目を閉じた。




 電車を降りても手をひいてくれる真紀の背を追いかけたら、春の空に螺旋をえがくレールが見えてくる。
 歓声が遠くで聞こえて、青や赤の風船が、ほわほわ揺れた。
 キャラメルポップコーンの甘い匂いが、鼻をくすぐる。

 皆のわくわくが、秋の空を満たしてる。

「彼氏と遊園地、夢だった! 真紀ちゃんと来られて、めちゃくちゃうれしい!
 ……けど、真紀ちゃんは、無理して来てくれた……?」

 心配で見あげたら、真紀の手がのびてくる。
 長い指が、くしゃりと俺の髪をかきまぜた。

「歳とると来にくいから、誘ってくれたの、うれしかった。ジェットコースター、久しぶり」

 切れ長の瞳が、きらきらしてる。

「いっしょに乗ろうね!」

 繋いだ手を振って、笑う。


 あなたが、笑ってくれたら
 その瞳に、俺を映してくれたら

 世界が虹に、輝きはじめる。




 朝いちばんで並んだから、そんなに待たずにジェットコースターに乗れたんだけど……!

「ぎゃ──! こ、こわすぎ……!」
「やばいだろ……!」

 ものすごい風圧で、ぶるんぶるんになっても、青くなっても、かっこいー真紀ちゃん!

 しかし、ジェットコースターは、厳重にがっちりホールドされてるので、抱きつけない!
 やっぱりここは!


「お化け屋敷で彼氏に『きゃー!』って抱きつくのが夢だった!」

『テンプレおつ』とか言わないで、襲いくるお化けに凛々しい眉をひそめつつ一緒に歩いてくれる真紀が、やさしい。


「……べつに、いつでも抱きつけばいいから」

 ぽそぽそささやいてくれる真紀の耳が、暗闇でも、真っ赤だ。


「真紀ちゃん、だいすき」

 ぎゅう

 抱きついたら


「愛希、だいすき」

 紅いまなじりで、笑ってくれた。






 はじめての彼氏(2番目の彼氏ができる予定は一生なくていい)と、はじめての、お化け屋敷だよ! きゃ──♡

 大変わくわくしていたのですが!
 お化け屋敷で『きゃ──!』で抱きつくのは、俺にはとっても難しいことを知りました……

 だって『うわっ!』ってなったときって、ビクってするだけで、抱きつくという行動に移れないよ!
 そして逃げそうになる足!

 きゃ──!

 どろどろしてる何かとか、冷たい風とか『きゃ──!』なのに!


 仕方ないので

「きゃ──♡」

 真紀ちゃんに、抱きついてみた!


 ぽんぽん、真紀ちゃんが、頭をなでてくれた。



 ……な、なにかが、ちがう……!







 遊園地の芝生で、お重のお弁当を広げたら、真紀の瞳がまるくなる。

「……これ、つくったの……? 愛希が……?」

「お父さんに、ちょこっと手伝ってもらってけど、おおむね俺!」

「すごいな……!」

 切れ長の目が、きらきらしてる!

「味はこのみがあるから、ちょっと心配なんだけど……」

 俺には最高においしくても、真紀ちゃんには違うかもしれない。
 レストランの評価が分かれるのって、そういうことだよね。口がちがう。

 卵焼きに手をのばした真紀の瞳が、まるくなる。

「だしがきいてて、あまくない。うますぎる……! 愛希、天才だ!」

 抱きついて、よろこんでくれた。


「伴侶になったら、毎日俺のご飯が食べられるよ」

 冗談めかして、でも、めちゃくちゃ本気で、どきどきの胸をたたく。


「絶対、伴侶になる」

 とろけるように、笑ってくれる。



 とくとく鼓動が、駆けてゆく。

 あなたに向かって

 あふれる想いが、駆けてゆく。

 あなただけを映す瞳が、うるんでく。






 夜が、降りる。

 ドォン──!

 びっくりするほどの轟音と振動といっしょに、光の花がひらいてく。


「……俺、子どもで、ごめんね。3年、待ってくれる……?」

 見あげたら、笑ってくれる。


「何年でも待つよ、愛希」

 瞳が、かさなる。

 真紀のながい指が、俺の頬をやさしくなでた。



「あいしてる」


 吐息が

 想いが

 くちびるが


 かさなる





 最愛の真紀と

 はじめての、キスをしました。







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