【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
104 / 209

完全なる

しおりを挟む



 キーアが見あげる最愛の推しは、背が、高い。

 平面的な2次元でうっとりするのと、3次元で見あげるのとでは存在感がまるで違う。
 盛りあがる筋肉は使いこまれ、しなやかにたくましい腰を彩った。

 いい匂いがする。

 うっとりしたキーアが、あふれそうな鼻血が出ないよう鼻を押さえながら拝むのに、ゼァル将軍が瞬いた。


「どうした、気分がわるいのか?」

 うずくまっているように見えたみたいです。

 いやもう、動悸がね!
 頬は熱いし、目は潤むし、うっとりするし、どう見ても風邪で高熱が出てるっぽいよね!

 しかし、3次元の推し、尊い──!

 でっかい。
 凛々しい。
 たくましい。

 こう、盛りあがる筋肉が人類の理想の曲線をなめらかにえがいて、ふるいつきたくなるたくましい腰が──!

 きゃ──!


 もだもだするキーアに、何かを察したらしいネィトが跳びあがる。

「きーちゃん!」

 ぎゅう。

 うしろから抱っこされたキーアは、荒ぶる息を整えた。

 やばい。
 最愛の推しに目がくらんで、欲情しそうでした──!

 朝から!
 いや、朝だからか。
 いやいやいや、だめだから!
 校門だから!
 皆いるから!


「………………え…………?」

 ルゥイが茫然としてる。

「……まさか、キーアのこのみって……」

 レォの頬が引きつって、ガダ先輩が誇らしげに胸を張る。

「ははははは! 見たか、レォ・レザイ! 筋肉の勝利だ!」


 え、いや、レォもしっかり筋肉ついてるよ!

 ガチムチなガダ先輩とは違うけど、とってもきれいだと思います!

 親指をたてるキーアに、ちょっとうれしそうにしたレォは、眉をさげた。


「キーアは、ああいうのが、このみなの?」

『ああいうの』
 青磁の切れ長の目を流されたゼァル将軍が、引きつってる。


「ロデア大公国で、いちばんかっこいーと思います!」

 拳を握って叫んでた。


「はァア──!?」

 ハゥザ学園長と、ルゥイが、激おこみたいです。

 あわあわキーアは首を振る。


「え、えと、ハゥザ学園長は、ロデア大公国で一番きれいだと思います。ルゥイも!」

 にこにこしてみたキーアに、ルゥイのはちみつの眉が下がる。


「……もしかしなくても、キーアのこのみは、あれなの……?」

『あれ』
 若葉の瞳で刺されたゼァル将軍が、引きつってる。


「将軍、とってもかっこいーって伺ってて、お目にかかれて、めちゃくちゃ光栄です!」

 ふわふわ熱い頬で、キーアは腰を折る。


「キピア家次期当主、キーア・キピアでございます、ゼァル・ロデア大公兄殿下」

 キーアの最愛の推し、ゼァル将軍は、大公殿下の兄君なんだよ。

 前キーアの知識によると、ロデア大公国で1番かっこいいゼァル将軍が第1子、2番目に顔がいい大公殿下が第2子、1番顔がいいハゥザ殿下が第3子、ネィトのおかあさん(男)が第4子で、とってもおきれいだよ。ネィトによく似てる。
 大公殿下の第一子がルゥイね。
 すんごい家族だよね。輝きすぎてる。

 かるく手を挙げて、敬礼を解くよう促してくれたゼァルは、キーアの服の裾をぎゅっと握るネィトに目を瞠る。


「……きみは……」

「お久しぶりです、ゼァル伯父上。ネィト・トリアーデです」

 紫の目で、まっすぐ顔をあげて微笑むネィトに、息をのんだゼァルの瞳が、さまよった。


「……髪を、あげた、んだな」

「はい」

「…………そう、か……」

 うつむいたゼァルも、紫の瞳がこわいのかもしれない。

 キーアはネィトを守るように前に出る。


「紫の瞳にまつわる噂は、迷信です。俺は、ネィトの瞳が、世界でいちばんきれいだと思います」

 ゼァルの鋼の瞳が見開かれ、ほんのり潤む紫苑の瞳でネィトがキーアの手を握る。


「きーちゃん、ありがとう」

 きゅう

 抱きついてくるネィトを抱きとめた。

 伴侶(予定)なので!


「……きみは、たしか……」

 ゼァル将軍の目が、何かを思いだそうとするように細くなる。

 お目にかかったこと、あるのかな? もしくはネィトの伴侶(予定)って誰なんだろうと、遠くからご覧になったことが?

 前のキーアとは、かなり別人になってます。


「僕の伴侶です!」

 胸を張るネィトに、キーアは補足する。


「(予定)です」

 未定だよ。

 攻略対象に『きゃー♡ きゃー♡』していいんだよ!
 一緒に『きゃー♡ きゃー♡』しようよ! じゃない、『きゃー♡ きゃー♡』させてください、お願いします。

 ちょっともう最愛の推しの3次元とか、拝んでも拝んでも拝み足りないよ──!


 もだもだしちゃいそうなキーアとネィトを見つめるゼァルの瞳が細くなる。


「そうか」

 微笑んだゼァルの瞳は、子どもたちの恋を見守る大人な目だ。



 キーアは、完全なる恋愛対象外のようです。


 …………………………。


 …………よかった、のか、な…………?






しおりを挟む
感想 201

あなたにおすすめの小説

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...