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完全なる
しおりを挟むキーアが見あげる最愛の推しは、背が、高い。
平面的な2次元でうっとりするのと、3次元で見あげるのとでは存在感がまるで違う。
盛りあがる筋肉は使いこまれ、しなやかにたくましい腰を彩った。
いい匂いがする。
うっとりしたキーアが、あふれそうな鼻血が出ないよう鼻を押さえながら拝むのに、ゼァル将軍が瞬いた。
「どうした、気分がわるいのか?」
うずくまっているように見えたみたいです。
いやもう、動悸がね!
頬は熱いし、目は潤むし、うっとりするし、どう見ても風邪で高熱が出てるっぽいよね!
しかし、3次元の推し、尊い──!
でっかい。
凛々しい。
たくましい。
こう、盛りあがる筋肉が人類の理想の曲線をなめらかにえがいて、ふるいつきたくなるたくましい腰が──!
きゃ──!
もだもだするキーアに、何かを察したらしいネィトが跳びあがる。
「きーちゃん!」
ぎゅう。
うしろから抱っこされたキーアは、荒ぶる息を整えた。
やばい。
最愛の推しに目がくらんで、欲情しそうでした──!
朝から!
いや、朝だからか。
いやいやいや、だめだから!
校門だから!
皆いるから!
「………………え…………?」
ルゥイが茫然としてる。
「……まさか、キーアのこのみって……」
レォの頬が引きつって、ガダ先輩が誇らしげに胸を張る。
「ははははは! 見たか、レォ・レザイ! 筋肉の勝利だ!」
え、いや、レォもしっかり筋肉ついてるよ!
ガチムチなガダ先輩とは違うけど、とってもきれいだと思います!
親指をたてるキーアに、ちょっとうれしそうにしたレォは、眉をさげた。
「キーアは、ああいうのが、このみなの?」
『ああいうの』
青磁の切れ長の目を流されたゼァル将軍が、引きつってる。
「ロデア大公国で、いちばんかっこいーと思います!」
拳を握って叫んでた。
「はァア──!?」
ハゥザ学園長と、ルゥイが、激おこみたいです。
あわあわキーアは首を振る。
「え、えと、ハゥザ学園長は、ロデア大公国で一番きれいだと思います。ルゥイも!」
にこにこしてみたキーアに、ルゥイのはちみつの眉が下がる。
「……もしかしなくても、キーアのこのみは、あれなの……?」
『あれ』
若葉の瞳で刺されたゼァル将軍が、引きつってる。
「将軍、とってもかっこいーって伺ってて、お目にかかれて、めちゃくちゃ光栄です!」
ふわふわ熱い頬で、キーアは腰を折る。
「キピア家次期当主、キーア・キピアでございます、ゼァル・ロデア大公兄殿下」
キーアの最愛の推し、ゼァル将軍は、大公殿下の兄君なんだよ。
前キーアの知識によると、ロデア大公国で1番かっこいいゼァル将軍が第1子、2番目に顔がいい大公殿下が第2子、1番顔がいいハゥザ殿下が第3子、ネィトのおかあさん(男)が第4子で、とってもおきれいだよ。ネィトによく似てる。
大公殿下の第一子がルゥイね。
すんごい家族だよね。輝きすぎてる。
かるく手を挙げて、敬礼を解くよう促してくれたゼァルは、キーアの服の裾をぎゅっと握るネィトに目を瞠る。
「……きみは……」
「お久しぶりです、ゼァル伯父上。ネィト・トリアーデです」
紫の目で、まっすぐ顔をあげて微笑むネィトに、息をのんだゼァルの瞳が、さまよった。
「……髪を、あげた、んだな」
「はい」
「…………そう、か……」
うつむいたゼァルも、紫の瞳がこわいのかもしれない。
キーアはネィトを守るように前に出る。
「紫の瞳にまつわる噂は、迷信です。俺は、ネィトの瞳が、世界でいちばんきれいだと思います」
ゼァルの鋼の瞳が見開かれ、ほんのり潤む紫苑の瞳でネィトがキーアの手を握る。
「きーちゃん、ありがとう」
きゅう
抱きついてくるネィトを抱きとめた。
伴侶(予定)なので!
「……きみは、たしか……」
ゼァル将軍の目が、何かを思いだそうとするように細くなる。
お目にかかったこと、あるのかな? もしくはネィトの伴侶(予定)って誰なんだろうと、遠くからご覧になったことが?
前のキーアとは、かなり別人になってます。
「僕の伴侶です!」
胸を張るネィトに、キーアは補足する。
「(予定)です」
未定だよ。
攻略対象に『きゃー♡ きゃー♡』していいんだよ!
一緒に『きゃー♡ きゃー♡』しようよ! じゃない、『きゃー♡ きゃー♡』させてください、お願いします。
ちょっともう最愛の推しの3次元とか、拝んでも拝んでも拝み足りないよ──!
もだもだしちゃいそうなキーアとネィトを見つめるゼァルの瞳が細くなる。
「そうか」
微笑んだゼァルの瞳は、子どもたちの恋を見守る大人な目だ。
キーアは、完全なる恋愛対象外のようです。
…………………………。
…………よかった、のか、な…………?
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