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落とさないで!
しおりを挟むゼァル将軍の威圧と冷笑のおかげで、キーアと学生の皆は、遠巻きにされるようになりました。
喧嘩を売られるとか、見下されるとか、そういうのじゃなくなったから、よかったと思うな!
お馬さんは宿に預けて、徒歩で隊列を組んで、皆で魔の森へと進軍する。
ネメド王国との国境に広がる、闇の森が見えてくる。
闇の森とも呼ばれる、深い、深い緑と闇に包まれた森は、迷いの森である以上に、ネメド王国のヴァデルザ領と接する魔物の森だ。ロデア大公国の民は、誰も近づかない。
ごくごくまれーに、珍しい薬草があるとか、毒キノコの研究をしたいとか、森の生態系を調査したいとか、頭が学術熱で、ぱーん! した人々が森に入って遭難したり、帰らない人になったりしてる。こわい。
秋から冬は魔物がやってくるので、近くに住んでいる民もほとんどいない。
ネメド王国からロデア大公国は放置されているので、進軍とかも何もないので、魔物の氾濫に備えた衛士の砦があって、魔物討伐のときの宿舎になるくらいだ。
春なので、山菜を採ろうとしていた民を避難させたら、魔物が森の外に出てこないように結界を張る。
大魔法使い、フィリ先生の出番です!
「よし、魔力充填、結界張るよ──!」
フィリが掲げた魔法の杖から、幾重にも中空にあらわれる魔法陣が輝きはじめる。
まるく球をえがいて溢れゆくのは、闇だ。
高く高く撃ちあげられた魔法陣から、やわらかな闇が降りてくる。
星空を見あげたときみたいに、皆を包みゆく、やさしい闇がとてもきれいで、思わずキーアは拍手していた。
「フィリ先生、すごいです!」
「……でしょ?」
ふふんと胸を張るフィリが、肩で息をしてる。
苦し気に途切れる息に、あわてて駆け寄った。
「大丈夫ですか、フィリ先生──!」
さすがの大魔法使いでも、こんなに広大な森全体に、魔物が外に出ないようにする結界を張るのは、ものすごく大変みたいだ。
支えるキーアに、フィリは喉を押さえながら、ちいさくうなずいた。
「……へいき。ありがと、キーア。
魔の森、めちゃくちゃ広いから……ちょっと、疲れた、よ。結界の維持も大変だから、後はゼァル、お願い」
「承知」
フィリを壊れもののようにやさしく支えた将軍が、華奢な肩をたたく。
「よくやってくれた。ありがとう、フィリ」
ほんのり唇の端をあげるゼァルに、フィリが引きつってる。
「……気持ちはうれしいけど、顔が、こわい」
ひどい!
のけぞったキーアは、悲鳴をあげる。
「えぇえ! こ、こんなにかっこいーゼァル将軍に、フィリ先生、なんてことを!」
あわあわするキーアの後ろで、ゼァルはさみしそうに目を伏せた。
「……いや、そう言ってくれるのはキーアだけだ……」
もしかして、だからゼァル将軍は滅多に笑わないの──!?
かなしすぎる!
「あ、あの、俺、ゼァルさまの笑顔は、世界一かっこいーと思います! どうぞ心置きなく、笑ってください!」
最愛の推しなので!
輝いてます、ゼァル将軍──!
力説するキーアに、瞬いたゼァルが、ちいさく笑う。
「じゃあ、皆を怖がらせないよう、キーアの前でだけ」
ゼァルの唇に、ほんのり笑みが浮かんで、ごつごつの手がキーアの頬にやさしくふれた。
めちゃくちゃかっこいー微笑みと一緒に、ふわりと屈んで、耳元で、腰を直撃するイイ声で、囁かないでください。
最愛の推しだから!
一瞬で落ちるから!
伴侶(予定)がいるのに、落とさないで──!
きゃ──!
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