【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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こわい

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 押し寄せる瘴気がすごい──!

 あたたかなルゥイの腕のなかで、キーアはびくりと跳びあがりそうになって、あわあわ止まる。

 ルゥイが、おひめさま抱っこしてくれてる! きゃ──! とか言ってる場合では微塵もありませんでした、ごめんなさい……!

「ご、ごめん、ルゥイ!」

 キーアをおひめさま抱っこで走ってくれていたルゥイの腕から、飛び降りた。

「わ……!」

 思ってたより速かった……! さすがルゥイ!

 つんのめりそうになったキーアを、しゃっと伸びたルゥイの腕が支えてくれる。

「だいじょうぶ? 走れる?」

 心配そうな若葉の瞳に、うなずいた。

「走る! 重いのに、ほんとにごめん! 魔物が襲ってくるのに寝てたとか、起きないとか最低だ──!」

 半泣きなキーアに、ルゥイが首を振る。

「僕が休んでって言ったんだ。起こしてごめん」

「魔物襲撃は起こすよ! むしろ気づかず寝ててごめん……!」

 あったかい、いー匂いする、とかって抱きつこうとしてた気がするよ、真剣にごめん……!

 恥ずかしさと情けなさで燃える頬で、キーアはルゥイと一緒に走りだす。


「他の皆は!?」

 叫ぶキーアに、ルゥイが答える。

「散り散りに逃げてる! ハゥザ叔父上が『闘うな、逃げろ』って! ゼァル伯父上を召喚する魔道具は機動した!」

 ルゥイめがけて魔物が走ってきたのは、キーアを抱えてくれていたからだろう。

 一番遅いから捕まえやすいと、魔物に思われたはずだ。


 ふつう、立派な男の子(ちっちゃくない)をおひめさま抱っこして、走れない。

 走ったとしても、数歩でよろめいて終了すると思う。

 ルゥイ、爆速で走ってたよ……?
 微笑み、輝いてたよ……?

 魔物もびっくりだよ!

 たぶん、ネィトを追いかけたほうが、はやく捕捉できたと思われます。
 ……ネィト、真実を告げてごめんよ……!

 しかし、ネィトが無事でよかった──!

 眠りこけてる伴侶(予定)で、ほんとにごめん……!

 しかし、ルゥイと一緒に爆速で走ってるけど、魔物がついてきてるみたいだよ……!

 足音と振動と、瘴気が後ろから押し寄せてくる……!


「あれ、やばい魔物なの?」

 ルゥイと一緒に走りながら、そうっと振りかえろうとしたキーアは、伸びたルゥイの腕に止められた。

「ハゥザ叔父上によると、目を見ると石化するらしい。耐性のある人しか戦えない。
 討伐隊のなかでは、ゼァル伯父上とフィリ先生だ」

 な、なるほど、ロデア大公国で最強な2人しか相手にできないほど、やばい魔物なんですね……!

 ──そんなこわい魔物が、季節外れの春にやってきた……??


 走りながら首をひねったキーアは、ひらめいた!

 BLゲームでは、キーアは顔も名前も声もないモブ、悪役令息の伴侶(予定)だからたぶんあんまり何にも関係ないと思われ、主人公マェラ、もしくは悪役令息ネィトが魔力Max、魔術Maxでもなく、勇敢Max、武術Maxでもなく、ロデア大公立学園に1日しか通っていない(2日目で魔物討伐遠征だよ! 今3日目だよ。忘れがち!)からほとんど何のイベントもこなしていない。

 ということは、魔物討伐は『失敗』するしかない。

 魔物討伐失敗ルートで、フィリ先生かゼァル将軍が来てくれないと、どうにもならないあれだ!

 しかも石化とか、やばいよ!
 死んじゃうよ!


「精霊さま! 何とかなりませんかー!」

 走りながら叫ぶキーアに、頭のうえにくっついたままの闇さまが、首をかしげる。


『きー、なんで、走ってる?』

「魔物が襲ってくるからです! 石化しちゃうって!」

 闇さまが、頭をぽふぽふしてくれた。


『あの子、きーに、遊んでほしいみたい』


 …………………………。


「……殺しあいのことを、遊ぶっていう、あれ……?」


 きゃ──!

 こわい!






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