【完結】悪役令息の伴侶（予定）に転生しました

そんな場合じゃなかった

　石化してくる魔物と殺しあうだなんて、初撃を入れる前に石になっちゃう、闘う以前に終了するあれじゃないですか──！

　ぎゃ──！

　魔物から爆速で逃げながら跳びあがるキーアの頭のうえで、一緒に跳びあがった闇さまが、ぷるぷる首を振る。


『魔物、皆、やさしーよ。
　なのに人間、いつも怖がって、攻撃するの。殺しちゃうの。ひどい』

　ちっちゃな闇さまの、おっきな闇の瞳が、うるうるしてる！


「……え…………そ、そうなんですか……！」

　こくこく闇さまが、うなずいたときだった。

　キーアとルゥイを守るように、襲い来る魔物との間に、輝く魔法陣が現れる。

　魔道具を持っているのだろうハゥザ学園長からは離れているけれど、おそらく強い魔物がいるところに、召喚魔法が発動するようになっているのだろう、闇の森を切り裂くように、まばゆい光がほとばしる。


「待たせた──！」

　ひかりの魔法陣から現れたゼァル将軍が、剣を抜いた。


　ドォン──！

　あふれる闘気に、森が揺れる。

　即行、魔物をぽこりに行きそうな将軍の抜き身の刃が輝くのに、跳びあがったキーアは悲鳴をあげる。


「きゃ──！　ゼァルさま、待って待って待って！」

　あわあわ、魔物と将軍との間に飛びこむキーアに、剣を掲げていたゼァル将軍が目を剥いた。


「危ない──！　何やってる！」

「ま、まま待ってください、ゼァル将軍！
　魔物さん、遊んでほしいみたいですー！」

　
　闘う気満々だったのだろうゼァルの闘気まで、停止した。


「………………は…………？」


　ルゥイも一緒に

『………………は…………？』ってなってる。


　きもちわかる。

　さっきなったよ。


　うむうむしたキーアは、声を張る。


「魔物さん、突撃停止！　石化能力、止めてくださいー！　遊んであげるから！」

　こわいので、背を向けたまま叫ぶキーアの頭を、闇さまが、ぽふぽふしてくれる。


『きー、石化、しない』

「……え……そ、そうなんですか？」

　もしかして、知らない間に石化耐性の能力を会得しちゃった？

　異世界転生チートみたいな？

　おぉお！

　きらきらになっているだろう目で闇さまを見あげたら、ぷるぷる首を振られました。


『ちがう』

　頭のなかまで読んでくれる闇さまが、すごいです。


『俺がいるからな』

　ふふんと、ちっちゃな光さまが胸を張る。かわいい。

　かわいいだけじゃなくて、頭のうえに、ちょこんと座ってくれているだけで、石化しちゃうのを防いでくれるとか、やさしすぎる……！

「ありがとうございます、光さま！」

　うれしそうに、ちょっと赤い頬で、えへんと胸を張る光さまが、かわいーです！


「じゃあ、ルゥイとハゥザ学園長も石化しない？」

『きー、俺と闇と一緒に魔法をかけただろう。皆、しないぞ』

「おお！」

　緊急事態なので、こしょこしょせず、大っぴらに闇さまと光さまとお話してしまいました。

　キーアの突然の挙動不審と『魔物さんが遊んでほしい』で突撃を止められて、あんぐりしてるゼァルとルゥイを振りかえる。


「ルゥイも皆も、石化しないみたい！　ゼァル将軍は耐性があるからだいじょうぶ？」

　光さまが首をかしげる。

『ゼァル、耐性、ないぞ？』


　闇さまが、キーアの頭をぽふぽふした。


『こんじょー、で、石化、しない』


　……………………。


「すごすぎる──！　さすが、ゼァル将軍──！」


　拝みました。

　勿論です。

　最愛の推しの根性は、石化も撃ち砕くみたいです！



「……いや、キーア、祈っている場合ではなく、魔物……」


　そうでした！

　襲ってきてた！

　推しを拝んでいる場合では、ありませんでした！

　……いやでも、拝んじゃうよね？