【完結】悪役令息の伴侶（予定）に転生しました

まて

　キーアもあんぐりしたから、気もちはとってもよくわかるのですが、遊びたい子をぽこるなんて、絶対だめなのです！

　むんと、ちっちゃな拳をにぎるキーアに、皆の頬がちょっと赤くなってる。かわいい。

　とかうっとりしている場合ではないのです。

　遊びたくてじゃれついて、間違って殺しちゃう魔物さんたちを、何とかしないと！


「そうだ、ネィトも闇の魔法、すんごいのが使える！　ネィトと一緒ならできるかも？」

　BLゲームで悪役令息ネィトの必殺技は、魔界召喚だよ。

　魔法対決で、主人公の魔力や魔術が低いと、浄化するどころか、闇でドロッドロにされて負けちゃうという、一部で大歓喜されるスチルが出ました……

　濡れ濡れのあれね、えっろいの♡
　紀太も大すきなスチルでした！

　確かBLゲームでは必殺魔法になってたけど、キーアが使ったのと同じで、ちょこっと魔界を覗くだけの魔法だった。

　こんなに見あげるほど巨大な魔物を送りかえすような大きな扉じゃない。


　でも、ふたりの力をあわせたら。


　期待に満ち満ちて見あげた闇さまが、首をふる。

『きー、僕、見える。
　ねー、僕、見えない。
　ねー、しんどい』

　なるほど。

「わかりました、じゃあ俺が──」

「なんだかわからないけど、僕が、きーちゃんをたすけられるなら、なんだってやる！」

　ちっちゃなネィトが、手を挙げる。

　心配そうに闇さまの眉がさがった。

『闇の力、ものすごい、力が、きーと、ねーに、入る。
　きー、たぶん、へーき。
　ねー、しんどい。身体、変わっちゃうかも』


　跳びあがったキーアは、ネィトの両肩をつかんだ。

「ネィト、気もちだけもらうよ、ありがとう。俺が頑張るから──」

「でもひとりじゃ、危険なんでしょう。僕だって、闇魔法、つかえる！　僕が、きーちゃんをたすけるんだ！」

　ネィトがキーアの手をにぎってくれる。


「でも、すごくつらくて、身体が変わっちゃうかもって、闇さまが──」

　うつむくキーアの顔を、ネィトの紫の瞳がのぞきこむ。


「身体が変わったら、きーちゃん、僕のこと、いやになっちゃう？」

「そんなわけない！」

　叫んだキーアに、ネィトはそうっと唇を開いた。


「……伴侶（予定）じゃなくなっちゃう？」


「そんなことしない！」

　とろけるように、ネィトが笑う。


「きーちゃんと一緒に、がんばる。
　きーちゃんと一緒なら、きっと、何だってできる」

　ちっちゃな手で抱きしめてくれるネィトが、やさしくて、あったかくて、キーアはそっと腕を回す。


「……ネィト……」

　ぎゅう。

　大切な背を抱きしめたら、声が降る。


「……あー、その、魔物がずっと待ってるんだが……」

　ゼァル将軍が、引きつってる。


　おすわりして待ってくれている魔物のしっぽが、ぱたぱたしてる。


　そうでした。

　ぬくぬく抱っこして、ネィトも、いー匂いする！　とかやってる場合じゃありませんでした。


『あ──そ──ぶ──？』

　わんわん不思議な声が頭に響いて、キーアは笑った。


「そうだね、せっかく来てくれたし、ちょっとあそぼっか」

　キーアが手を伸ばしたら


「いやいやいやいや、死ぬから──！」

　ゼァル将軍に、全力で止められました。


　めちゃくちゃ危険みたいです。