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ちいさな背
しおりを挟むギィイン────!
魔物を切り裂こうとしたゼァルの剣を、キーアが抜いた双剣の交差させた柄が止めた。
「──っ!?」
鋼の瞳を瞠ったゼァルが、息をのむ。
「……俺の剣を……止め、た……?」
鍛えてもあんまりもりもりしないキーアの腕がビリビリする。
魔力を一時的に筋力増強に使ったけど、それでも腕は勿論、腹筋と背筋、足まで痛いよ!
さすが将軍の剣、重さが半端ない……!
師匠のトマが教えてくれたとおり、柄を使って刃を滑らせる。
シャ──!
将軍の剣をなめらかに受け流したキーアは、あんぐりしてるゼァルとルゥイを背に、ふわふわのでっかい魔物を振りかえる。
「俺たちを殺しに来たんじゃないんだよね?」
3つの瞳が、きらめいた。
ブォアァォオ──!
噴きつける、すさまじい瘴気を、キーアの頭のうえにちょこんと乗った光さまが浄化してくれる。
「あ、ありがとうございます、光さま……!」
光さまがいらっしゃらないと、たぶん、死んでる。
勿論、拝みました。
お礼です。
ひきつるキーアの前で、真っ暗なおっきな魔物のしっぽが、ぽふぽふ揺れる。
『魔界、穴、開いた──。落ちた──。
闇々の、かわい──のいた──。
あ──そ──ぶ──!』
ぴょこぴょこ跳ねる魔物は、とってもかわいくて、楽しそうだ。
……もしかして、こんな風にじゃれるつもりの魔物を、人間は……殺してきたのかな。
魔界に穴が開いて、こちらの世界に迷いこんで、遊ぶつもりが、殺された……?
「うわあん──! ごめんなさい──!」
泣きだしたキーアに、ルゥイもゼァルもぎょっとしてる。
「どうしたの、キーア!」
「と、とりあえず、魔物を討伐──」
「したらだめ──!」
魔物を背に庇い、キーアは両腕を広げた。
「……し、しかし、キーア、このままでは民が死傷する」
凛々しい眉をしかめるゼァルに、キーアは息をのむ。
………………。
そうでした。
魔物は遊ぶつもりでも、人間は弱いので、怪我をしたり、殺されたりしちゃうんだ!
遊ぶつもり ≠ 殺すつもり
遊びたい ≠ 殺したい
魔物に傷つけられてきた人間たちは、魔物は人間を憎むもの、本能的に人間を殺しにくるものと思っていたからこそ、誤解の末に、魔物を討伐しようとしてきたんだ。
文化も、風習も、見た目も、何もかも違って、言葉が通じないって、そういうことだよね。
「……あの、ルゥイも、ゼァル将軍も、魔物の言葉、聞こえませんか」
「キーアは、話せる、の……?」
はちみつなかんばせの、ルゥイの顎が落ちそうです……!
ゼァル将軍の目も、点になってる。
ふたりとも、かわいい。
とか言ってる場合じゃないよ!
……精霊さんチートなのかな?
なら、自分が何とかするしかない!
うなったキーアは、自分の頭のうえを見あげる。
「闇さま、一昨日、魔界への扉を開いてくださいましたよね? あれで、こっちに来た魔物を送りかえすことってできますか」
闇さまは、ふるふる首を振った。
『あれ、ちょこっと、覗くだけ。
魔物送ったら、きー、倒れる』
闇さまが、頭をぽふぽふしてくれる。
うんうんうなったキーアは、ひらめいた!
「……瘴気を魔力に変換する必殺技を使ったら?」
キーアと一緒に、闇さまが首をかしげる。
『……できる、かも……?』
「やりましょう! 穴に落ちちゃっただけ、遊んでもらいたいだけの魔物を殺しちゃうなんて、絶対、絶対、だめだから──!」
拳を握るキーアの頭を、闇さまも光さまも、ぽふぽふしてくれる。
「きーちゃん!」
散り散りに逃げたはずのネィトが、レォが、巨大な魔物が動かなくなったのを感じ取ったのだろう、真っ青な顔で駆け戻ってきてくれる。
「ぼ、僕がきーちゃんを守るんだから──!」
魔物からキーアを守ろうと、背に庇ってくれるネィトのちいさな背中が、震えてる。
「逃げて、きーちゃん……!」
ゼァル将軍しか戦えないほど強い、石化の魔物だ。
自分が石になってしまうかもしれない
殺されてしまうかもしれない
それでもキーアを守るように、前に立って両腕を広げてくれる。
ちっちゃな、愛らしい、ネィトが。
「……ネィト……」
「キーア、はやく走れ!」
キーアを背に庇い、剣を掲げて突撃してくれようとするレォを、あわあわ止める。
「闘ったらだめ! この子は魔界の穴に落ちて、こっちに来ただけ、遊んでほしいだけなんだ!」
振りかえったレォもネィトも、あんぐりしてる。
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