【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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ちいさな背

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 ギィイン────!


 魔物を切り裂こうとしたゼァルの剣を、キーアが抜いた双剣の交差させた柄が止めた。


「──っ!?」

 鋼の瞳を瞠ったゼァルが、息をのむ。


「……俺の剣を……止め、た……?」


 鍛えてもあんまりもりもりしないキーアの腕がビリビリする。

 魔力を一時的に筋力増強に使ったけど、それでも腕は勿論、腹筋と背筋、足まで痛いよ!

 さすが将軍の剣、重さが半端ない……!

 師匠のトマが教えてくれたとおり、柄を使って刃を滑らせる。


 シャ──!

 将軍の剣をなめらかに受け流したキーアは、あんぐりしてるゼァルとルゥイを背に、ふわふわのでっかい魔物を振りかえる。


「俺たちを殺しに来たんじゃないんだよね?」


 3つの瞳が、きらめいた。


 ブォアァォオ──!

 噴きつける、すさまじい瘴気を、キーアの頭のうえにちょこんと乗った光さまが浄化してくれる。


「あ、ありがとうございます、光さま……!」

 光さまがいらっしゃらないと、たぶん、死んでる。

 勿論、拝みました。

 お礼です。


 ひきつるキーアの前で、真っ暗なおっきな魔物のしっぽが、ぽふぽふ揺れる。


『魔界、穴、開いた──。落ちた──。
 闇々の、かわい──のいた──。
 あ──そ──ぶ──!』

 ぴょこぴょこ跳ねる魔物は、とってもかわいくて、楽しそうだ。


 ……もしかして、こんな風にじゃれるつもりの魔物を、人間は……殺してきたのかな。

 魔界に穴が開いて、こちらの世界に迷いこんで、遊ぶつもりが、殺された……?


「うわあん──! ごめんなさい──!」

 泣きだしたキーアに、ルゥイもゼァルもぎょっとしてる。


「どうしたの、キーア!」

「と、とりあえず、魔物を討伐──」

「したらだめ──!」

 魔物を背に庇い、キーアは両腕を広げた。


「……し、しかし、キーア、このままでは民が死傷する」

 凛々しい眉をしかめるゼァルに、キーアは息をのむ。


 ………………。

 そうでした。

 魔物は遊ぶつもりでも、人間は弱いので、怪我をしたり、殺されたりしちゃうんだ!


 遊ぶつもり ≠ 殺すつもり

 遊びたい ≠ 殺したい


 魔物に傷つけられてきた人間たちは、魔物は人間を憎むもの、本能的に人間を殺しにくるものと思っていたからこそ、誤解の末に、魔物を討伐しようとしてきたんだ。

 文化も、風習も、見た目も、何もかも違って、言葉が通じないって、そういうことだよね。


「……あの、ルゥイも、ゼァル将軍も、魔物の言葉、聞こえませんか」

「キーアは、話せる、の……?」

 はちみつなかんばせの、ルゥイの顎が落ちそうです……!
 ゼァル将軍の目も、点になってる。

 ふたりとも、かわいい。

 とか言ってる場合じゃないよ!


 ……精霊さんチートなのかな?

 なら、自分が何とかするしかない!

 うなったキーアは、自分の頭のうえを見あげる。


「闇さま、一昨日、魔界への扉を開いてくださいましたよね? あれで、こっちに来た魔物を送りかえすことってできますか」

 闇さまは、ふるふる首を振った。

『あれ、ちょこっと、覗くだけ。
 魔物送ったら、きー、倒れる』

 闇さまが、頭をぽふぽふしてくれる。

 うんうんうなったキーアは、ひらめいた!


「……瘴気を魔力に変換する必殺技を使ったら?」

 キーアと一緒に、闇さまが首をかしげる。


『……できる、かも……?』

「やりましょう! 穴に落ちちゃっただけ、遊んでもらいたいだけの魔物を殺しちゃうなんて、絶対、絶対、だめだから──!」

 拳を握るキーアの頭を、闇さまも光さまも、ぽふぽふしてくれる。


「きーちゃん!」

 散り散りに逃げたはずのネィトが、レォが、巨大な魔物が動かなくなったのを感じ取ったのだろう、真っ青な顔で駆け戻ってきてくれる。


「ぼ、僕がきーちゃんを守るんだから──!」

 魔物からキーアを守ろうと、背に庇ってくれるネィトのちいさな背中が、震えてる。


「逃げて、きーちゃん……!」

 ゼァル将軍しか戦えないほど強い、石化の魔物だ。


 自分が石になってしまうかもしれない

 殺されてしまうかもしれない

 それでもキーアを守るように、前に立って両腕を広げてくれる。


 ちっちゃな、愛らしい、ネィトが。


「……ネィト……」


「キーア、はやく走れ!」

 キーアを背に庇い、剣を掲げて突撃してくれようとするレォを、あわあわ止める。


「闘ったらだめ! この子は魔界の穴に落ちて、こっちに来ただけ、遊んでほしいだけなんだ!」


 振りかえったレォもネィトも、あんぐりしてる。

 





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