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ゼァル
伴侶
しおりを挟むゼァルと伴侶になったら、何かが決定的に変わるのかと思ってた。
伴侶(予定)と伴侶のあいだには、乗り越えられない壁があって、超えてしまったら世界は変わってしまうのだと思ってた。
心と、からだを、つなげる。
前世でも経験したことがなかった(たぶん)紀太にとっても、キーアにとっても、何もかもが、はじめてで。
やさしい、やさしいゼァルにすがるしかできなくて。
気を失うように眠って、起きたら、ゼァルの鋼と紫の瞳が、輝いた。
「おはよう、キーア」
あこがれの腕枕をしてくれたゼァルが、真白な寝台で、朝のひかりにきらめくように、微笑んでくれる。
夢みたい。
思う気もちを撃ち倒すのは、きしむ身体だ。
……あぁ、ほんとうに、あなたの、伴侶に。
最愛の推しの、伴侶に、なれたんだ。
あふれた涙に、ゼァルが目をむいた。
「キーア!? すまない、痛むか? すぐ治癒士を──!」
貴重な治癒士を手配してくれようとするゼァルに首を振る。
ぎゅうぎゅう、ゼァルに抱きついた。
「……キーア……?」
心配そうに、ゼァルが背を抱いてくれる。
髪をなでて、涙に口づけてくれる。
「つらい?」
首をふる。
キーアの闇の髪が、さらさら音をたてた。
「ゼァルの伴侶になれて、うれしい」
ささやいたら、鋼と紫の瞳が、まるくなる。
いつも凛々しいかんばせが、真っ赤に染まって、ぎゅうぎゅう、くるしいくらい、抱きしめてくれる。
「愛してる、キーア」
くちびるが、かさなる。
指が、からまる。
見えるのは、いつだって、あなただけ。
心と、からだを、つなげたら、世界は変わると思ってた。
たしかに、ゼァルはさらにかっこよく見えるし、きゅんきゅんしちゃうのが、心とからだになっちゃうけれど。
でも、それはきっと、最初から。
伴侶(予定)が、伴侶になっても。
あなたをだいすきな、心も、からだも、きっと、変わらなくて。
いや、もっと、あなたを、だいすきになってく。
「俺のこと、伴侶にしてくれて、ありがとう」
ぎゅうぎゅう抱きしめたら
「俺こそ。キーアの伴侶になれて、しあわせだ」
鋼と紫の瞳をほそめて、笑ってくれる。
こぼれる愛と、あふれるしあわせを奏でるように、くちびるが、重なった。
だいすき
あいしてる
告げても、告げても、足りなくて
くちびるを、重ねても、重ねても
からだを繋げても、繋げても、きっと、足りなくて
もっと、もっと、あなたが欲しくなって
もっと、もっと、あなたを愛するから
ずっと、ずっと、一緒にいようね
喧嘩したり、拗ねたり、笑ったり、泣いたり、一緒にしたい。
一緒に老いて、一緒に支えあって、ずっと、ずっと。
あなたと一緒なら、苦悩さえも、しあわせに変えてゆける気がするんだ。
隣にいてくれる、ただそれだけで、いとおしさが満ちてゆく。
「死ぬまでずっと、あいしてる」
ささやいたら、ゼァルが笑う。
「キーアは、生まれる前の記憶があるんだろう?」
きょとんとしてうなずくキーアのくちびるに、ゼァルのくちびるが、くっついた。
「また生まれたら、またキーアを見つける」
最愛の推しが
最愛の伴侶が
笑ってくれる。
「幾度生まれ変わっても、キーアだけを、愛してる」
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