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兄、やばい
『ぴんくの髪の主人公』という言葉をご存知だろうか。
ゲームや小説に出現する平民や成りあがり底辺貴族の子で、魔法学園や王立学園などに通い、貴族社会の空気を読まずに無邪気にあざとく、きらきらしい攻略対象たちを次々と陥落させる主人公だ。
自分が主人公としてゲームをプレイするなら全く気にならない、むしろ楽しくて仕方ないが、本人以外から見ると、厄災だ。
そう、ルティの兄は、ただしく、災厄だ。
たしかに、かわいい。
さらさら揺れるぴんくの髪に、きゅるきゅるなぴんくの瞳、ふるりとしたぴんくの唇、なめらかな肌も華奢にのびた手足も、まるで愛でられるために生まれてきたかのような形をしている。
「はー♡ 今日もコタ王子かっこよかったー♡ つい落としちゃったー♡ てへ♡」
舌を出すさままで、可愛い。
その可愛さによろめくのは、家族以外だ。
その可愛さですべてを許してしまうのは、家族以外だ!
「カティ、なんてことを! あれほど高位貴族の皆さまには決して近づくなと言ったのに、まさか王子殿下にまで手を出したのか!」
「あぁあアア──! カティのせいで、うちは終わりだ!」
両親が泣いている。
ドディア帝国の属国であるココ王国では、大陸のなかで卓越した魔法技術の供与を受けられ、男性同士でも魔法で子どもができるので、両親はともに男だ。
凛々しい母と、可愛い父(魔力が高いほうが母になる)容色に恵まれたふたりから生まれたカティは大変愛らしく、その世界最強かもしれない武器を間違った方向に全力で発揮していた。
ぴんくの髪の主人公だから。
「なあ、カティ。ここはBLゲームの世界っぽいけど、ゲームじゃないんだ。男を落としまくって楽しむのは平民だけにしないと、一家全員で国家転覆を企んだ反逆罪で処刑されても文句が言えないんだぞ」
重めの忠言をするルティに、カティは鼻を鳴らす。
「わーかってるよ、うるさいなー。おんなじ顔してるのに、ルティは真面目だよね。つまんなーい!」
「つまらないとかいう問題ではない!」
目を吊りあげるルティの髪も、ふわふわのぴんくだ。
カティの双子の弟ルティの見た目は、さらふわぴんくの髪に、きゅるきゅるなぴんくの瞳、なめらかな肌も華奢な手足もカティにそっくりだが、理知的に引き結ばれた唇や、眼光の鋭さはカティにはないものだと自負している。
カティに毎日毎日毎日毎日まちがわれるが、きっとどこかが違うはず……! そうであってくれ! なルティの信条は『質実剛健』地道に着実に一歩ずつ、平民だからって侮られるのは許せないが派手に目立つのも望まない、ひっそりしっかり成りあがろう。男を陥落させるんじゃなく、脳力で!
カティの信条は『可愛いは正義』すべては可愛いの前にひれ伏す、というかひれ伏せ、すべての攻略対象は攻略するためにある、きらきら男はすべて僕のもの♡
見た目そっくりだが、性格が180度違うルティの悲哀は、カティの双子の弟として生まれてすぐにはじまった。
「ココ王国のカティ!? 髪はー、ぴんく! ってことは、僕、BLゲームの主人公だ──!」
発声ができるようになってすぐ叫んだカティに引きずられるように、ルティも前世の記憶を思いだした。おぼろであいまいだが、地球に産まれて、特筆することもなく生きた記憶を。
カティのように詳細な記憶はないが、前世の基本的な知識はあった。オンライン小説を読みふけっていたのだろう『ぴんくの髪の主人公』の知識もあった。
理解した途端、血の気が引いた。
『兄が、やばい』
BLゲームのなかだと、どんなにきらきらしい高位貴族の男たちを手玉にとろうと不問にされるが、現実でやったら、えぐいことになる。
ココ王国の高位貴族は、たいてい生まれながらに伴侶(予定)が決まっている。王族や高位貴族のお相手が。
その人たちすべてに、一介の平民が喧嘩を売ることになるのだ。
国家転覆罪で処刑、は何も誇張じゃない。あるあるだ。貴族の圧、こわい。
そんなことくらい、しばらくこの世界で生きていたら理解できると思うのに、兄カティは揺らがなかった。
「えー、せっかくBLゲームの世界の主人公に生まれたのに、攻略対象を攻略しないとか、嘘でしょ」
「カティ、頼むから目を覚ませ。平民が高位貴族や、ましてや王族に声なんてかけたら首が飛ぶ!」
肩をつかんで揺さぶるルティに、ちっともわるびれないカティは片目をつぶる。
「ちょっとだけだから!」
「ちょっとで飛んでゆくんだ、カティだけじゃない、両親や俺の首まで──!」
「え、今、何か言った?
はー♡ リアルな王子さま、やっぱりかっこいーねー♡」
ルティの必死(真の必死)の静止は全く意味をなさなかった。
止めても止めても止めても止めてもカティは攻略対象の高位貴族や王族のもとに走ってゆき、ことごとく落としてきた。
さすがぴんくの髪の主人公、ぐうの音も出ない。
「物知らずの平民のすることだから」
「たかが平民」
「何の権力も財力もない、色恋だけが生きがいの憐れな子だから」
「……しかし、あんなに可愛いとか反則だろ……」
「まあ、あれは、よろめくのは仕方ないか。よろめくくらいなら……!」
口元を引きつらせながらも寛容であろうとしてくださった伴侶(予定)の皆さまや貴族たちが、王子殿下にまで手を出されて、すんごい形相になってきた。
そろそろ一家の首が飛びそうだ……!
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