【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
3 / 33

伴侶(予定)




 兄カティは、ルティが止めても止めても、止めても止めても、止まってくれない。

 ぴんくの髪の主人公だから。


 ルティは大きなため息をついた。

 BLゲームの世界っぽいと、『主人公』ですべての道理が引っこむ気がする……!

 
 カティを止められないなら、仕方がない。

 家の近くの井戸で首を洗うルティに、水を汲みにきた幼なじみのトトの闇の瞳がまるくなる。

 茜に世界を染めあげる夕陽のなかで短い闇の髪が揺れる。
 素朴な闇の瞳が瞬いて、ルティの顔をのぞきこんだ。
 着古した綿の服が、王都の下町の色んな匂いを混ぜた風にひるがえる。

「何してるの、ルティ」

「……そろそろ処刑かな、と思って。洗っておこうと。あんぽんたんなカティのせいで」

 鬱屈と激憤とあきらめを混ぜた声が、ルティの唇からこぼれた。
 心配してくれるトトまで、怨みがましく見あげてしまう。
 日焼けした頬で、トトは笑った。

「ああ、カティか」

 カティと言えば、下町で知らない人はいない。

 ちょこっとでも、かっこいー男は皆カティの標的にされ、次々と陥落させられるからだ。

 カティが幼い頃は笑って済ませられる、可愛らしいいたずらだったが、カティが長じるにつれ、だんだん皆が笑ってくれなくなってきた。当たり前だ!

「王立学園でも大暴れ?」

 下町のカティの大暴れっぷりを知っているトトだからこその問いに、ルティは肩を落とす。

「王子殿下にまで手を出したよ。どうしていいかわからない」

 ため息しかこぼれないルティを、たくましく大きく成長したトトの腕が抱きしめてくれる。


「処刑なんて、僕がさせない。ぜったい、ルティを守るから」

 微笑んでくれるトトの言葉は、あまいだけで実のない睦言じゃない。

 その言葉に足る実力を身につけたトトを、いちばん誇りに思っているのはルティなのかもしれなかった。





 生まれたときから、カティはカティだった。

「カティ! 僕の伴侶を誘惑して、お菓子食べ放題だなんて、ゆるさないんだから!」

「カティ! 昨日、僕のものになるって言ってくれたじゃないか! なんだその隣の男は──!」

「カティ! ああ、なんて今日も可愛いんだ! 抱擁と口づけを贈らせてくれ!」

 毎日毎日毎日毎日、町に出るたびに

「カティ!」

 叫ばれて追い回されるルティに、幼なじみでルティよりもちっちゃかったトトが奮起してくれたのだ。


「僕が、ルティを守る!」

 下町の純朴な小さな男の子だったトトが、厳しすぎる鍛錬に励みはじめたと思ったら、才能があったらしい、めきめき頭角を現し、騎士団長をあっさりぽこれるくらいにまで強くなってしまった。


「うおりゃあぁあアア──!」

 トトが闘気を解放すれば石畳の道が陥没し、竜巻が起こり、ちょっとした部隊まで吹き飛ぶ。

 筋肉で。

 トトが叫べば、道理が引っこむ。


「え、えぇ……!? すごいよ、トト──!」

 びっくりして拍手する、きゅるきゅる主人公なカティに、よろめかなかったのは、トトだけだ。


「トト、すごく、すごく、がんばったんだね」

 泣いたルティを抱きしめて、笑ってくれた。


「ルティのためなら、何にでもなる」

 赤い頬で、ささやいてくれた。


 いかずちに貫かれたように、ちいさなルティはトトを見あげる。

 ……ああ、トトは自分より大きくなったんだ。

 自らに厳しい鍛錬を課し、こんなに強く、たくましく、凛々しくなってくれた。


 ルティを守るために。


 ずっと、だいすきだったトトが、運命の伴侶(予定)になった。



 トトの見た目は平凡っぽく見えるかもしれないけれど、純粋さと誠実さが現れた風貌が、ルティはだいすきだ。
 その武力には誰もがひざまずく。というか膝を折らざるを得ない。

 トトみたいに真面目でやさしくて最強な伴侶(予定)ができるなんて、主人公の弟チートはあるのかもしれない。


「カティ……!」

 追いかけてくる男たちも、かなりなガチムチだが純朴な青年にしか見えないトトの実力を知ったらしい、真っ青になって後退るようになった。


 トトが抱っこしてくれていると

「あ、ルティだ」

「いつもおつかれさま」

「お菓子あげるよ。元気だしな」

「いつも大変だねえ」

 下町の皆が、ねぎらってくれるようになった。


『トトが抱っこしている = ルティ』

 皆が思ってくれるほど、トトはルティの傍にいてくれる。

 ずっとルティの傍で、ルティを守って、微笑んでくれる。



 ちっちゃい手を繋いで、一緒に笑った幼い日々も、かけがえのない大切な思い出だけれど。

 おっきくて、たくましくなった腕に、胸につつまれたら、うっとりしてしまう。


「……はやく18にならないかな。トトの伴侶になりたい」

 もごもご大きな胸に顔をうずめてささやいたら、聞こえなかったらしい。

「ん?」

 耳を寄せてくれるトトがやさしくて、恥ずかしくなったルティは首を振った。

「な、なんでもない」

 自分ばかりがはやく伴侶になりたがっているみたいで、照れくさく熱い頬を隠した。


「……ルティはほんとに、かわいいね。……どんどん可愛くなってく」

 切なげにかすれるトトの声に、ルティは眉を寄せる。


「よろこんで、くれないの……?」

 あまえるような、すがるような声は、カティとそっくりだ。いつもなら背が震えるほど厭なのに。今だけは、トトの前にいるときだけは、カティのすべての男を陥落させる顔に、声に、指になればいい。


 そっとトトの服に指を這わせたら、やさしく髪を撫でてくれる。


「ルティはいつだって、世界一、かわいい」

 微笑みが、どこかさみしげで、ルティは首をかしげる。


「トト?」

 ルティのぴんくの髪がふわふわ揺れて、トトは静かに目を伏せた。









感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

当て馬に転生した俺、メインヒーローに懐かれすぎて物語が崩壊しています ~最強の騎士様、俺じゃなくてヒロインを追いかけてください!~

たら昆布
BL
処刑される元貴族に転生していたので婚約破棄して雑用係になった話

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまの第2回BL小説漫画コンテストで『文が癒されるで賞』をいただきました。応援してくださった皆さまのおかげです。心から、ありがとうございます! 表紙は、ぱくたそ様よりsr-karubi様の写真をお借りしました。ありがとうございます!

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、溺愛と溺愛の物語。 幼馴染み組もなんかしてます。 ※諸事情により、再掲します。

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!