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そっと
しおりを挟む戦々恐々とする家族をよそに、カティはクヒヤ殿下を徹底的に避け、ハーレム構築に向けて邁進していた。
「しないでくれ……!」
泣いて頼むルティの頭を、カティのちいさな手が、なでなでしてくれる。
「泣かないで、ルティ。かわいいなあ」
にこにこしたカティが、ルティと同じ顔なのに、涙や頬にちゅっちゅしてくれたら、頭も心も、ぽわぽわする。
何もかもを、ゆるしてしまう。
ぴんくの髪の主人公効果が、家族にまで波及してきた。こわい。
「まあカティのすることだし、だいじょうぶじゃないかな。ほんとうに酷いことにはならないようにしてくれると思うよ」
ルティが相談したら、トトは気楽に笑った。
王都の下町にある小さなルティの家のちっちゃな庭は、トトと逢えるしあわせの庭だ。
夕暮れに染まるトトの髪は茜と闇にきらめいて、うっとり見惚れたルティは、熱い頬で相談を思いだす。
「……で、でも王子殿下だよ?」
「雲のうえの人だって思ってたけど、カティのおかげで、おんなじ人間なんだなあって思うよ」
微笑むトトに、複雑な気持ちで、ルティはうなずいた。
「……まあ、うん」
「カティが見てるのは、身分じゃないだろ。平民だって、きらきらしてれば突撃だから」
トトが笑う。
ルティも笑う。
ふしぎだ。
トトが『だいじょうぶだよ』笑ってくれたら、ほんとうにだいじょうぶな気がする。
「カティの見てる世界は、真っ平で、いいなって思う。
最愛の人が見つかるといいな」
トトの微笑みが、やさしさと、いたわりにあふれてる。
息をのんだルティは、目を剥いた。
「トトのほうが、家族みたいだ……!」
ショックを受けたルティに、トトは首を振る。
下町のほこりっぽい風に、闇の髪がぱさぱさ揺れた。
「ルティがカティを大事に思ってること、カティはちゃんとわかってるよ。だからお説教だって聞くんだよ」
うろんになってしまう目で、ルティはぽそぽそ打ち明ける。
「はいはいはいはいはいって言われたよ……」
喉を鳴らしてトトが笑う。
「でも、聞いてくれただろ?」
「……うん」
トトの胸に、顔をうずめる。
ごつごつの手が、頭をなでてくれる。
恋人は、たった、ひとりでいい。
最愛は、たった、ひとりがいい。
トト以外、見たくない。
ルティの考えと、皆に愛されたいカティの考えが違うからといって、家族を大切に思う気もちは、なくならない。
カティもそうなら、とてもうれしい。
「だいじょうぶ」
トトが微笑んでくれたら、そのとおりになる気がして、ルティはトトの胸に鼻をうずめる。
トトの香りを吸いこんで、トトのぬくもりに包まれたら、安心する。
「……ルティ」
トトの声が、かすれた気がして、ルティは顔をあげる。
「トト?」
夕闇のおりる世界で、トトの闇の瞳がにじんで見えた。
「……ルティ」
頬を包んでくれるトトのてのひらが、熱い。
とくとく跳ねる鼓動が、ルティの指も熱くする。
ためらいながら、トトの胸にすがる指が、あまえるように、ふるえてる。
あまい、あまいトトのくちびるが降りてくるのを待って、ルティはそっと、目を閉じた。
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