【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ

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そっと

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 戦々恐々とする家族をよそに、カティはクヒヤ殿下を徹底的に避け、ハーレム構築に向けて邁進していた。


「しないでくれ……!」

 泣いて頼むルティの頭を、カティのちいさな手が、なでなでしてくれる。


「泣かないで、ルティ。かわいいなあ」

 にこにこしたカティが、ルティと同じ顔なのに、涙や頬にちゅっちゅしてくれたら、頭も心も、ぽわぽわする。

 何もかもを、ゆるしてしまう。

 ぴんくの髪の主人公効果が、家族にまで波及してきた。こわい。





「まあカティのすることだし、だいじょうぶじゃないかな。ほんとうに酷いことにはならないようにしてくれると思うよ」

 ルティが相談したら、トトは気楽に笑った。

 王都の下町にある小さなルティの家のちっちゃな庭は、トトと逢えるしあわせの庭だ。
 夕暮れに染まるトトの髪は茜と闇にきらめいて、うっとり見惚れたルティは、熱い頬で相談を思いだす。

「……で、でも王子殿下だよ?」

「雲のうえの人だって思ってたけど、カティのおかげで、おんなじ人間なんだなあって思うよ」

 微笑むトトに、複雑な気持ちで、ルティはうなずいた。

「……まあ、うん」

「カティが見てるのは、身分じゃないだろ。平民だって、きらきらしてれば突撃だから」

 トトが笑う。
 ルティも笑う。

 ふしぎだ。
 トトが『だいじょうぶだよ』笑ってくれたら、ほんとうにだいじょうぶな気がする。


「カティの見てる世界は、真っ平で、いいなって思う。
 最愛の人が見つかるといいな」


 トトの微笑みが、やさしさと、いたわりにあふれてる。

 息をのんだルティは、目を剥いた。


「トトのほうが、家族みたいだ……!」

 ショックを受けたルティに、トトは首を振る。
 下町のほこりっぽい風に、闇の髪がぱさぱさ揺れた。


「ルティがカティを大事に思ってること、カティはちゃんとわかってるよ。だからお説教だって聞くんだよ」

 うろんになってしまう目で、ルティはぽそぽそ打ち明ける。


「はいはいはいはいはいって言われたよ……」

 喉を鳴らしてトトが笑う。

「でも、聞いてくれただろ?」

「……うん」

 トトの胸に、顔をうずめる。
 ごつごつの手が、頭をなでてくれる。



 恋人は、たった、ひとりでいい。

 最愛は、たった、ひとりがいい。


 トト以外、見たくない。


 ルティの考えと、皆に愛されたいカティの考えが違うからといって、家族を大切に思う気もちは、なくならない。


 カティもそうなら、とてもうれしい。



「だいじょうぶ」

 トトが微笑んでくれたら、そのとおりになる気がして、ルティはトトの胸に鼻をうずめる。

 トトの香りを吸いこんで、トトのぬくもりに包まれたら、安心する。



「……ルティ」

 トトの声が、かすれた気がして、ルティは顔をあげる。

「トト?」

 夕闇のおりる世界で、トトの闇の瞳がにじんで見えた。


「……ルティ」

 頬を包んでくれるトトのてのひらが、熱い。



 とくとく跳ねる鼓動が、ルティの指も熱くする。

 ためらいながら、トトの胸にすがる指が、あまえるように、ふるえてる。



 あまい、あまいトトのくちびるが降りてくるのを待って、ルティはそっと、目を閉じた。






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