【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
10 / 33

おにいちゃん




 よろめきながら、ルティは腕のなかに飛びこんできた人に目をみはる。

「カティ?」

「クヒヤ殿下に、何か言われたの!?」

 ぴんくの瞳が、心配に揺れている。
 おそろいのぴんくの髪をなでたルティは、首をふった。

「俺が無礼を働いたのをゆるしてくださったんだよ」

 ぽかんとカティが口を開けた。

「……無礼? ルティが?」

「ちょっと間違った。失礼なことしちゃった」

 ぴんくの瞳を瞬いたカティが、ルティの頭を慰めるように、なでてくれる。

「ルティでもそんなことあるんだね」

「山ほどあるよ」

 ほんとうはめちゃくちゃ緊張していたのだろう、ようやく肩の力がぬけて、カティと笑った。


「ルティがお使いから帰ってこないから『トトといちゃいちゃしてるんだろう、連れ戻せ、夕飯が作れない』って、おとうさんがおこだよ。探しに来たら、クヒヤ殿下と話してるから、びっくりしたんだ」

「そっか、ごめん」

 首を振ったカティが、ルティを上目遣いで見あげる。


「……クヒヤ殿下、何か言ってた?」


「何かって?」


「……僕のこと」

 ちいさな、消えてしまいそうにちいさな声に、ルティは目をみはる。


 ──ああ、これは、もしかしたら

 きっと、カティは──……


「本人に直接聞くといいよ」

 ふうわり、笑った。


「……いじわる」

 ふくれたカティが、ルティの頬をてのひらでつつむ。


「また僕に似てるからって、声を掛けられたの?」

「いや、こんな下町にいるから、びっくりして『クヒヤ殿下』って口にしてしまったのは俺なんだ」

「そうなの?」

 ルティは自分とおそろいのぴんくの瞳をのぞきこむ。

 そっと、告げた。


「クヒヤ殿下は、俺とカティを間違えなかったよ」

 カティが息をのむ。


「……ほんとに?」


「全然ちがうって」

「……そっかあ」

 カティの声に、喜色が混じる。


「俺も、うれしかった」

 微笑むルティに、カティの唇がすねたみたいに尖る。

「……も?」

 ふくれるカティの頬が赤くて、つついたらカティは吹きだして笑った。


「も、だろう?」

「そうかもしれないね」

 カティの耳がほんのり朱くて、ルティは笑う。


「お使い、まだなんだ。手伝ってよ」

 カティの手をひいたら、ぴんくの眉がさがった。

「僕が行くと、皆、タダにしてくれるから、わるいなって思うんだよ」

「……ほんとに思ってる?」

「ちょっぴし?」

 ふたりで笑って、手をつなぐ。



 こうして肩を並べて歩けるのは、あと少しなのかもしれない。


 大人になって、大すきな人ができて、伴侶ができて、魔法で子どもに恵まれたら、どんどん離れてしまう。

 だからこそ、今はこんなにきらめいて。

 夕陽に染まるカティの笑顔が、沁みてゆく。



 つながる指があたたかくて、ふたりで歩いた。

 生まれたときからずっと一緒だった、かたわれ。

 喧嘩ばかりだったけれど、離れる日は、そう遠くないのかもしれないと思ったら、カティの笑顔に泣きたくなった。



「どうしたのー、ルティ!」

「抱っこして」

 腕をのばしたら、笑ってくれる。


「はいはい」

「はいは、1回でいい」

 ふくれるルティを、抱きしめてくれる。


「はいはい、いい子いい子」

 ちいさな手が、頭をなでてくれる。


 カティはいつだって、ルティの、おにいちゃんだ。




「おお、カティとルティじゃないか!」

「一緒にいるなんて、珍しいな!」

「おまけしてあげるから、買っとくれ!」

「カティとルティに食べてほしくて、新作のお菓子だよ!」

 皆の元気な声に呼ばれて、両手がもらいもので、いっぱいになってゆく。


「カティまで帰ってこないじゃないか! 夕飯ができてないと、かあさんが泣くだろう──!」

 走ってきた父に笑った。



 ずっと、ずっと、こんな日が続くと思っていた。

 明日は今日の続きで、変わり映えはしないのだと。



 それが幻想だったと、わかるのは


 明日は、まっさらな日で、今日を撃ち倒すこともあるのだと気づくのは



 すべてが崩壊したときだ。







感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、溺愛と溺愛の物語。 幼馴染み組もなんかしてます。 ※諸事情により、再掲します。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています