【完結】オメガの俺に、推しの愛が届かない

  *  ゆるゆ

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きみは

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 鼻がもげそうな匂いの後に、とろけるように甘いのに、春の風のように爽やかで、涼やかささえ香る、めちゃくちゃいい香りの人が来てくれた!

 身体の奥から、ゾクゾクする。

 薬のせいじゃない、きみを見つめる目が、うるんでく。


「……きみ、は……」

 なんとかだした声は、みっともなく熱でかすれた。

 やわらかそうな、きみの薄紅のくちびるが開かれるさまを見つめてしまう。


「ルゼといいます」

 世界でいちばん、すてきな名だ。


『ルゼ』

 きみの名が心に落ちたら、あまいしびれが指先まで駆け抜けた。


「オメガです」

 最高だ……!

 きみがオメガで、俺はアルファ、まるできみに結ばれるために生まれてきたみたいに、ぴったりだ──!


 ……いや『オメガいっぱいいるだろう』とか、『アルファも、もっといっぱいいるだろう』とか、聞こえない!

『ほんのさっきまでオメガ大きらいだっただろ──!』とか聞こえない……!


 めちゃくちゃいい匂いがするから、オメガだってわかってる。

 だって、こんなにうっとりする香りの人が、ベータやアルファであるはずがない。

 わかっていても、きみの唇からこぼれる『オメガ』は、なんてあまい匂いがするんだろう。



「ご迷惑をおかけしないことを誓います。苦しいなら、お手伝いできます」

 ……手伝ってくれるって、そういうことだよな?

 期待していいんだよな?


 俺、アルファ。

 きみ、オメガ。

 俺、めちゃくちゃ発情中。
 力の強いアルファなので、オメガを発情させられる。

 これはもう、子づくりしかない──!


 どうしよう。
 理解した瞬間、鼻血が噴出しそうなんだけど。

 どうしよう。
 初対面なのに発情しまくりの、最高に情けなくて、最高にかっこわるいアルファになりそうなんだけど……!

 きみに、きらわれたら、泣いちゃうどころじゃないよ……!

 どどどどうしよう……!


 鼻を押さえて鼻血を防御したい俺に、ルゼが告げる。


「絶対、襲いません!」

 …………えぇ…………?

 襲ってくれないの……?


 そ、そうなの?

 俺のこの、鼻血のあふれそうな、たぎる欲情は……もしかして、ひとりでがんばれ……?

 ………………泣いていいかな…………?
  




 ぼうぜんとしてしまったのが、よくなかった。

「こうなったら課金あいてむ追加!
 『オメガの蜜』!」

 意味のわからないことを叫んで、発情誘発剤を再びぶっ掛けようとする、くちゃいオメガが、いかがわしそうな小瓶を振りあげる。

 あまりにも驚愕して、何もできなかった俺を、かわいい、かわいい、めちゃくちゃいい匂いのするオメガが、その身を投げだすように、かばってくれた。

 ──かっこいい……!

 ほれちゃう……!

 どうしよう……!


 どきどきする。
 はあはあする。

 鼓動が、うるさい。

 これはきっと、発情誘発剤の効果じゃない。


 きみに、発情してる。



「ジークさま……っ」

 きみが、呼んでくれる俺の名は、なんてあまやかに響くのだろう。
 熱く濡れたオメガの蜜が、耳にふれるみたいだ。

 ゾクリと背がふるえるのを、止められない。


 視界が、ぶれる。

 息が、揺れる。



「……きみの、名は……?」

 さっき教えてくれたのは、名だけだ。
 家名も、ちゃんと、聞かせて。


「ルゼ、です、ジークさま」

 …………家名は……?

 ……俺には、教えたくない……?



 家名を聞かなくては。
 きみに、また逢えるように。

 きみに、また逢いたいと思ってもらえるように、ちゃんとしたアルファになって、家名もしっかり名乗って、記録の残る部屋で、きみを伴侶として抱きしめたい。


 思う気もちと裏腹に、身体は限界を超えた。

 ちゃんと記録の残る部屋に行かなければならないとわかっていた。

 痛いくらい、わかっているのに、きみを俺の家に持って帰ってしまいたかった。



 この腕のなかに閉じこめるように抱きしめて、きみをひと晩じゅう、むさぼりたい。


 くちびるも、からだの奥も、オメガの蜜も

 きみを、なにもかも

 俺に、すすらせて。







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