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元王子になりました
しおりを挟む「俺、魔王やめる」
超絶美形のお兄さんにしか見えない親父の宣言に、俺は仰け反った。
魔力と瘴気を練りあげて造られる魔水晶で築きあげられた魔王城も、漆黒の床から天井へと聳える玉座も、その後ろの壁面を彩る窓に透ける、紫紺の瘴気に包まれた魔界さえ、一気に霞む。
世界一の美貌と、世界一の強さを誇る親父が、魔王引退──!?
「え、何それ、待って。
俺、王子じゃなくなったら、何にもいいとこないんですけど!!」
絶叫する俺に、凛々しい眉をあげた親父は、頬を膨らませる。
「だって、かっこわるいんだもん」
いやいやいや、だもんじゃねえよ!
かっこわるいで魔王さま辞めるなよ!
俺のいいとこ、身分だけだったのに!
「魔界は力が強いもんが上、弱いもんが下、はっきりしてるから、まだいいけどさ。
この間、魔界と人界の親善、とかいう、人界の宴会に行って来たんだよ。
そしたらさあ、人間が作った、何の意味もない身分で、何の能力もない輩が、すんげー家に住んで、ぎらぎら着飾って、人を見下したり、蔑んだり、暴利を搾取したり、人の尻を狙ったりしてんだぞ!!」
……めちゃくちゃ尻を狙われたんだな。
親父、見てるだけで、口のなかに涎が溜まるほどの麗しさだからな。
しかも、魔族の力の源と謳われる角が、親父にはない。
最愛のかあちゃんに捧げたからだ。
だから、ぱっと見、顔だけで魔王になった弱っちい美形に見えるんだと思う。
めちゃくちゃ顔とか肩とか尻とか揉まれそうになったんだと思う!
人界との戦争になったらだめだから、指一本で吹っ飛ばしたいのを、いつもはない理性を総動員して我慢したんだな。
よくやった、親父!
逆立つ親父の漆黒の髪に、俺はすべてを理解した。
まだ激おこなのだろう、ぷりぷりする親父が頬を膨らませる。
そんなことして可愛い親父がすげえなって、いつも感心する!
「果てしなく、かっこわるくね?
魔王なんて名乗ってたら、俺も一緒だと思われるじゃんか!
絶対やだ────!!」
だだをこねる親父まで、可愛い。
ちがう、果てしなく、かっこわるいのは、俺のことか────!
よろけた俺は、親父を見あげる。
「え、あの、本気で魔王、辞める?
俺、王子じゃなくなっちゃうの?」
親父は、こっくり頷いた。
「俺が魔王で、魔族の皆が果てしなくお前を甘やかしたのも、よくなかった。
リユィ、お前も、もう18歳だ。
ちょっと一般人になって、人間の世界に行って、根性叩き直して貰って来い。
お前が今までやり放題だった、身分を振り翳して無理矢理言うこときかすのが、どれだけクソかを納得するまで、帰って来んな」
親父の漆黒の爪で、ぴんと弾かれた。
次の瞬間、俺は、見たこともない、みすぼらしい部屋の隅っこで、ぴらっぴらの服をそよがせて立っていた。
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