【完結】残念な悪役の元王子に転生したので、何とかざまぁを回避したい!

  *  ゆるゆ

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まっしろな世界

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「リユィ────!!」


 ディゼの悲鳴が、遠くで聞こえる。


 ああ、俺を、心配してくれてる?

 うれしいな。



 淫魔の魔力の源、命の源、♡の尻尾を千切られた俺の身体が、霞んでく。



 ゲームの世界では、溺愛エンドと闇エンドに分かれてた。

 でもほんとうの世界では、分かれてない。


 皆に、きらきら輝くやさしいところと、真っ暗な闇があって、混じりあって溶けている。


 光を掲げて生きるか

 闇を掲げて生きるか

 選ぶだけ。



 前世の俺は、闇を掲げて生きた。

 さみしくて、つらくて、ひとりぽっちで、絶望の果てで、すべてを怨んだ。


 でも俺は、また生まれる機会をもらえたから。

 かあちゃんと親父が、メファが、アルフォリアが、トエが、ディーが、俺に笑ってくれたから。

 俺の気持ちひとつで、世界は変わることを知った。



 憎しみを振り翳せば、憎しみが返るように。

 笑ったら、笑ってくれる。


 闇を掲げれば、闇が襲い

 光を掲げれば、光が舞う。



 でもね、自分のなかの闇を、きらって、避けて、なかったことにしても、闇はより大きく強く、噴きあがる。

 溺愛エンドより充実する、闇エンドみたいに。


 自分の情けないところ、弱いところ、卑怯なところ、最低な性癖、ぜんぶ、抱きしめられたら。

 きっと、ディーの闇も、愛せると思うんだ。



 やさしいディゼのなかにも、闇がある。

 その闇こそが、ディーの光に、必要なんだと思うんだ。


 酷いこと、辛いこと、苦しいことこそが、光へと向かう、力になるから。

 
 だから、一緒に、光のほうへ。





 俺の指先から、ありったけの魔力があふれてく。
 ♡の尻尾が、俺の手のなかで輝いた。




 俺は、俺じゃなくなって

 他の誰かに、生まれ変わって

 残念な悪役でも、主人公でもなくなった、強制力の消えた世界で


 ほんとうの俺になって

 ほんとうのディーに、逢いにくるから。



 俺だって、わからなくても

 ほんとうのディーが、俺を、大きらいでも



 大すきだよって、伝えるために。






 俺の身体が、あふれる紫紺の光に、溶けてゆく。

 俺の命が、きらめく紫紺の光に、溶けてゆく。





「リユィ──────!!」


 トエが、泣いてる。

 …………なんだ、やっぱり、ともだちじゃないか。



「リユィ──────……っ!」

 ディーが、泣いてる。



 ゲームで、振り返ることなく去っていったディーの、さみしい背中を憶えてる。


 俺の愛を、確かめたかったんだよね。

 薬を使われて、それでもディーを愛してるって、言って欲しかったんだよね。


 ディーが欲しかったのは、きっと、どんなに真っ暗な自分も愛してくれる、唯一の存在。

 ディーの、夢だ。



 真っ暗なディゼにされたこと、ゆるしてあげたいから。



 大丈夫。

 ちゃんと、帰るよ。

 ディーのところへ。



 俺の指が、光に溶ける。

 まっしろに輝く世界に、溶けてゆく。



「ほんとうの、世界へ」



 はるかな次元を超えた向こうで、紫紺の光になった俺の指が、世界を縛り、時を止める檻を、撃ち砕いた。









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