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おまけのお話 キーザの初恋
変える未来
しおりを挟む「…………え!?」
誰よりうろたえたのは、僕だった。
「ずっと、ずっと、キーザさまが、大すきです……!
お願いです、抱いてください……!」
え、あ、あの、僕に縋ってくれる、めちゃくちゃ可愛い子を、こ、断るの?
「すんごい♡キーザさまを、もう一度、嵌めてください♡♡♡」
濡れた唇で誘ってくれる可愛い子を、こ、断る?
「キーザさまが嵌めてくださるの、百番目でも待ってます……!」
うるうるの瞳で泣いてくれる子を、こ、こ断る……?
え、これ、何の試練なの──────!!
泣いた僕は、とりあえず、リユィに縋った。
放課後、メファのお仕事にゆこうとしているちっちゃなリユィを引っ張ってきたのは、学園の校舎裏にひっそり佇む、噴水の庭だ。
「というわけなんだよ!
ど、どどどどうしたらいいのかな」
涙目な僕を、リユィは笑ったりしなかった。
ちっちゃい身体と、おっきな瞳で、いつも一生懸命、話を聞いてくれる。
脳みそのしわがあんまりないからなのかな。
ひと言も聞き逃さないぞ! な感じで聞いてくれるから、話す僕はいつもうれしい。
リユィに、とても大切にされている気がするから。
ディゼはいつも、こんな気持ちを味わっているのかな。
思うと、いつも、すこし悔しい。
「自分のこと、すきって言ってくれる人を断るのは、つらいと思う。
その人も傷つくし、キーザも傷つく。
でも、その人を受け容れることで、キーザの大切な人は、もっと傷つかない?」
息をのんだ僕に、リユィは目を伏せた。
「……俺、ディーが、大すきだから。
ディーを傷つけたくないから、俺をすきって言ってくれる他の人には、応えられない。
ものすごく、申し訳ないよ。
ものすごく、苦しい。
そんな悩み、俺が持つなんて、思ってもみなかった。
……でもやっぱり、俺の大事な唯一は、ディーだと思うんだ。
キーザには、いない?
大切な人」
問われて浮かんだのは、榛の髪、藍の瞳。
リユィが、微笑む。
「いちばん大切な人を、いちばん大切にしてね」
ちいさな手で、僕の手を握ってくれる。
僕は、こくりと頷いた。
僕の前に、『断る』 が、燦然と輝いた。
「ご、ごごごごめんなさい!!
ほんとにほんとにごめんなさい!!
ごめんなさ────い──────!!」
今日も僕の絶叫が響く。
僕を慕ってくれる人には、ほんとうにほんとうに申し訳ない。
今まで、いちゃいちゃしてたのに、何だよって言われたら、もうほんとうにごめんなさいって埋まりたくなる。
でも、リユィが、僕を縛る強制力を壊してくれたから。
僕は、断れる人になったんだ!
だから僕は、初恋を大切にしたい。
下半身の貞操が皆無で、性病が心配な僕なんて、ジェミは全然このみじゃないだろうし、心を入れ替えましたって言われてもね、過去の所業が酷すぎるよねって言われたら、ぐぅの音もない。
真っ暗な歴史は、変えられない。
でも、僕の未来をつくるのは、僕だから。
僕だけが、僕のゆく先を、変えられる。
リユィが背中を押してくれたから。
僕は、やってみるよ。
「キーザさま、捨てないで────!」
泣いて縋ってくれる子には
「ほんとにほんとにほんとに、ごめんなさい!!」
涙目で謝り倒してたら、ごつごつの掌が降ってくる。
「リユィが、壊してくれたんだな。
こっちが、ほんとのキーザか」
ジェミが、唇の端をあげて、笑ってくれる。
初恋のきみの面影は、もう殆どないけれど。
でも僕は、ずっと、ずっと、きみがすきで。
リユィのおかげで、ようやく、その気持ちに気づけたよ。
僕の過去は、変えられないけど。
僕の未来を、変えてみせるから。
初対面のときにできなかった『なかよくしてね』
叶えられるように、がんばるね。
笑ったら、ジェミが、かすかに藍の瞳を見開いた。
眦を紅くしたジェミが、ささやく。
「……はじめて逢った時、手、握れなくて、ごめん。
人形みたいで、あんまりきれいで、びっくりして。
俺が触っていいと、思えなかったんだ」
ちいさな声に、目を瞠る。
檻の中で、ぐるぐる回っていた世界が、砕け散る。
僕らの未来が、はじまってゆく。
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