【完結】残念な悪役の元王子に転生したので、何とかざまぁを回避したい!

  *  ゆるゆ

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おまけのお話 ディゼの初恋

俺の唯一

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「ふぇ……ふえぇ……ぃ──!」

 おっきな紫の瞳に、涙がもりあがって、ちっちゃなちっちゃな手が、俺に向けて伸ばされる。

 魔王の闇の瞳が、絶対零度を突破した。


「かあちゃんが、変なのを城に入れたから────!!
 リユィが、はじめて見た男をすきになっちゃった────!!」

 あわあわする魔王に、ぽこりと拳が降ってくる。


「こら。人のせいにしないの」

「だって、だってかあちゃん、リユィがぁあああ──────!!」

 魔王が目を♡にして抱きつくのは、さらさらの栗色の髪に、ちいさな紫の瞳の、素朴な青年だった。

 なんというか見たことを忘れてしまうような感じなのに、控えめな紫の瞳のきらめきだけが忘れられないような、そのはんなりした微笑みをずっと憶えているような、不思議な魔物だった。

 ♡の尻尾がふわりと揺れて、淫魔なのかと驚いた。

 尻尾を二度見した。

 こ、これで淫魔か────!


 ヒュアァ──────!!

 仰け反る俺の首に、銀に輝く刃が刺さる。


「お前、今、万死に値することを思ったな?」

 首の皮が切れて、血が流れた。
 痛みに眉を顰める隙もなく、口を開く。


「……淫魔という種族には少ないであろう、大変おやさしそうなお姿と微笑みに驚嘆致しました」

「だろ!?!??♡♡♡♡♡」

 にこにこする魔王は、うむうむ頷いて、俺の首から刃を外してくれた。

 …………首をぶっ飛ばされなくて、よかった。
 そして魔王の扱いが若干解ってきた気がする……!


「ぃ──!」

 俺の首からダラダラする血を心配してくれたらしい、赤子が真っ青になって、俺へと手を伸ばしてくれる。

「大丈夫だ」

 思わず微笑んだ俺は、自分の首に指を滑らせ癒しの魔力を流し、血を止めた。



「ぃ──」

 ちっちゃな、ちっちゃな手を、俺に向けて伸ばしてくれる。

 魔王はぶっすり膨れて、淫魔は仕方ないなって笑ってくれた。



 ちいさな、ちいさな手が、俺の手に、触れる。

 ちっちゃな、あったかい身体が、俺の腕のなかに、おさまる。



「でぃー」

 ぷくぷくの紅いほっぺを輝かせて、俺の名を呼んでくれる。


 どうして俺の名を、知ってるんだろう。

 不思議な思いは『まあ、この城の皆、こわいからな』に溶けた。



「ぃー」

 俺の頬を、ちっちゃな手で撫でて、笑ってくれる。

 おっきな紫の瞳に、俺だけを映して、笑ってくれる。


 ちっちゃな、ちっちゃな手を壊さないように、そっと、そっと、にぎる。





 相手は、赤ちゃんなのに


 わかるんだ。



 きみが、俺の唯一だ。











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