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おまけのお話 ディゼの初恋
俺の唯一
しおりを挟む「ふぇ……ふえぇ……ぃ──!」
おっきな紫の瞳に、涙がもりあがって、ちっちゃなちっちゃな手が、俺に向けて伸ばされる。
魔王の闇の瞳が、絶対零度を突破した。
「かあちゃんが、変なのを城に入れたから────!!
リユィが、はじめて見た男をすきになっちゃった────!!」
あわあわする魔王に、ぽこりと拳が降ってくる。
「こら。人のせいにしないの」
「だって、だってかあちゃん、リユィがぁあああ──────!!」
魔王が目を♡にして抱きつくのは、さらさらの栗色の髪に、ちいさな紫の瞳の、素朴な青年だった。
なんというか見たことを忘れてしまうような感じなのに、控えめな紫の瞳のきらめきだけが忘れられないような、そのはんなりした微笑みをずっと憶えているような、不思議な魔物だった。
♡の尻尾がふわりと揺れて、淫魔なのかと驚いた。
尻尾を二度見した。
こ、これで淫魔か────!
ヒュアァ──────!!
仰け反る俺の首に、銀に輝く刃が刺さる。
「お前、今、万死に値することを思ったな?」
首の皮が切れて、血が流れた。
痛みに眉を顰める隙もなく、口を開く。
「……淫魔という種族には少ないであろう、大変おやさしそうなお姿と微笑みに驚嘆致しました」
「だろ!?!??♡♡♡♡♡」
にこにこする魔王は、うむうむ頷いて、俺の首から刃を外してくれた。
…………首をぶっ飛ばされなくて、よかった。
そして魔王の扱いが若干解ってきた気がする……!
「ぃ──!」
俺の首からダラダラする血を心配してくれたらしい、赤子が真っ青になって、俺へと手を伸ばしてくれる。
「大丈夫だ」
思わず微笑んだ俺は、自分の首に指を滑らせ癒しの魔力を流し、血を止めた。
「ぃ──」
ちっちゃな、ちっちゃな手を、俺に向けて伸ばしてくれる。
魔王はぶっすり膨れて、淫魔は仕方ないなって笑ってくれた。
ちいさな、ちいさな手が、俺の手に、触れる。
ちっちゃな、あったかい身体が、俺の腕のなかに、おさまる。
「でぃー」
ぷくぷくの紅いほっぺを輝かせて、俺の名を呼んでくれる。
どうして俺の名を、知ってるんだろう。
不思議な思いは『まあ、この城の皆、こわいからな』に溶けた。
「ぃー」
俺の頬を、ちっちゃな手で撫でて、笑ってくれる。
おっきな紫の瞳に、俺だけを映して、笑ってくれる。
ちっちゃな、ちっちゃな手を壊さないように、そっと、そっと、にぎる。
相手は、赤ちゃんなのに
わかるんだ。
きみが、俺の唯一だ。
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