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撃退?
まぶしくて、かっこよくて、いい匂いがするだなんて、シァルが手をひいてくれるだなんて、絶対に絶対に絶対に絶対に畏れ多すぎる夢だ。
「人のいないところで話をしたいから、俺の家はどうだろうか」
ふわふわする足と胸で、セィムはうなずく。
救国のシァルに『否』とか『いや』とか『無理』とか言えるはずがない。
どんな家にお住まいなのだろう。
英傑の家まで見せてくれる夢とか、あまりにも出血ご奉仕すぎないか?
突っこみどころは満載だが、セィムの答えは勿論
「はい」
他にない。当然だ。
シァルが残念な自分の手をひいてくれる。
一緒に街を歩くなんて、夢としか思えない。
つながる指を、きゅ、とにぎると、ぎゅ、と握りかえしてくれる。
人類の理想のようなかんばせで、とろけるように、やさしく笑ってくれる。
絶対、絶対、絶対、夢だ。
思うのに、頬は、熱い。
鼓動が、跳ねる。
自分を叱咤しつつも、恋愛小説の主人公になった心地のセィムを連れてきてくれたのは、選王宮にほど近い、国の中枢を担う人々の大邸宅が立ち並ぶ区域だ。
さすが救国のシァルさま、国で一番立派な住まいで当然だと思う。
納得のセィムの手をひいたシァルは歩きつづけ、国一番の高級住宅街を越えてしまった。
「……え……?」
通りすぎてしまいましたよ?
首をかしげるセィムの手を、シァルが引く。
「騎士の寮に住んでいるんだ」
「…………救国の英傑が……?」
あんぐり口を開けるセィムに、シァルが笑う。
「すべて俺の手柄のように言われて、俺のほうがびっくりだ。選王国の魔導士たち皆で頑張ったんだ」
そ、そうなのかな……?
確かに、たったひとりで連合国軍を葬ることなど……シァルならできそうだけど──!
「そ、それにしてもシァルさまの武技と魔術あってのことだと──!」
国を救った英傑を、寮に押しこめたままにしているとか、選王は何を考えている──!?
のけぞるセィムが引っ張ってこられたのは、厳重な警備の門と衛士たちを越えたその向こう、選王宮の裏手にある大邸宅だった。
「前は騎士の皆と一緒の寮に住んでいたんだが、選王がこっちに引っ越せと。住宅街の一角に家をくださろうとしたんだが、多くの人が押しかけてしまって」
なるほど、シァルさまに貢ぎたい人と抱いてほしい人で死にそうになったために、選王宮の真後ろ、一般民が立ち入れない場所に邸宅を用意したんだな、理解した。
「ここが俺の寮だ」
飛沫がやわらかに弧をえがく噴水まで備えた大邸宅だが、シァルさまが寮と仰るなら寮だ。理解した。
選王、ちゃんと考えてた。ごめんなさい。
反省するセィムの耳元で、シァルがささやいた。
「俺と手を繋いでいて。でないと雷撃魔法が降ってくる。絶対に離さないで」
シァルが手を握ってくれる。
『こちらから手を離すなんて、そんなもったいないことを、するはずがないでしょう!』
キレそうになったほど、シァルの指を離したくない。
「はい」
しとやかに肯いたセィムは過剰防衛気味な防犯装置におののくよりも、シァルのぬくもりにときめく胸で、そっとごつごつの手を握る。
ほんのりまなじりを朱に染めたシァルが握りかえしてくれる。
な、んて素晴らしい夢なんだ──!
ぬくもりも、触感もあって、いい匂いまでする……!
あぁ、シァルさま──!
ひざまずいて拝みたくなるセィムと繋がっていない右手で、シァルは大邸宅の巨大な扉の中央に掲げられた空色の魔石にふれる。
「シァルだ。帰還した。話してあった伴侶と一緒だ。通してほしい」
伴侶……!?
セィムがのけぞる間もなく青い魔石が光を放つ。ふたりの身体をなぞる青い光に、セィムは息をのんだ。
「……鑑定魔法……?」
通常は魔力を測定したりするものだが、武器を持っていないか、悪意がないか看破することもできるらしい。
「善意の人も多いのだけれど、いろいろ困ったことがあって」
色欲的に襲われたんだな。救国の英傑は大変だ。
『おかえりー』
真っ暗な魔法使いの衣をまとう、髪と髭でもしゃもしゃの毛玉みたいな人が魔石に映って手を振った。通信機能もあるらしい。元気な『おかえり』にシァルが手をあげる。
『おぉ、そちらが伴侶の?』
「セィムだ」
紹介してくれるシァルに、今度こそ仰け反る。
ここで『はい、俺が救国のシァルの伴侶です』言える人は、脳みそが沸点を超えている。
「……あの、すみません、突然お邪魔して。国務院で窓口業務を行っております、セィムと申します」
もしゃもしゃが、傾いた。首をかしげたらしい。
『まどぐち?』
「大変な仕事を担ってるんだ」
『なるほど』
シァルの言葉に納得してくれたらしいもしゃもしゃさんは、いい人だ。
『僕はユリ。シァルに寄ってくる変な人を撃退する係の、シァルの幼なじみだよ』
即行、撃退されそうです。
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