【完結】最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
39 / 131

魔王さまのちっちゃな村、出現!

しおりを挟む



「ほわぁあああああああ!!!!」

 精霊の樹のお家に感激したキュトは、鼻血を噴いて倒れた。

 きゅるるる、ジァルデが氷枕を出してくれる。
 ジア、大活躍!


「すごいな」

 感心したように、ゼドは大樹を見あげた。
 精霊の樹は、僕たちを幹のなかに入れても、へいちゃららしい。


「皆が感動してくれたから、精霊の樹も喜んでる」

 レトゥリアーレの言葉に、さやさや、翠の葉が、風に揺れる。


「……葉っぱ1枚で、屍が蘇るんだよ。
 精霊さえ宿る、ものすんごい樹なんだよ。
 伝説どころか、尊すぎる!!!
 エルフの存在意義とまで言われる、精霊の樹────!!
 この目で見られて、中に入れるなんて────!
 ありがとうございます、ありがとうございます…………!!!」

 キュトは泣き崩れた。

 泣いてくれるキュトの言葉を喜ぶように、精霊の樹が、さやさや揺れる。


「ああ、よき友となってくれるだろう」

 ふうわり微笑むレトゥリアーレに頷くように、大樹が揺れた。


「ひゃあああああ!
 ねずみに一方的にともだちになってもらってた僕の、は、はじめてのともだちが、精霊の樹────!?
 ほわぁあああああ!!」


 鼻血を噴いたキュトは、倒れた。


 本日、2度目です。


 









 ぱぱらっぱっぱっぱー!
 魔王さまのお家の隣に、伝説の魔導士のお家と、エルフの長のお家が建ちました!


 精霊の樹が、どんどん大きくなってるよ!
 辺りに清浄な大気が広がって、精霊さんたちが遊びに来てくれるようになった。

 精霊の樹の隣に、こぽこぽ湧いた泉は、精霊の泉らしい。
 飲むと不老長寿らしいよ! エルフの秘薬!

 レトゥリアーレの美貌を支える、秘密の水!
 めちゃくちゃ大事!

 いやあの、僕、しわしわのおじいちゃんなレトゥリアーレも大すきですよ。
 レトゥリアーレなら加齢臭も愛しいよ!
 だいじょうぶ、僕の最愛の推しへの愛は揺らがない!!


 胸を張る僕を見つめるレトゥリアーレの瞳がやさしくて、伸ばしてくれる手が、愛しくて。

 どきどきが、止まらなくなる。


 僕の顔は、いつも熱くて。

 クロはいつも、わふわふしながら、僕を支える準備万端でいてくれる。
 ジアの指はいつも、氷魔法完備だ。



「ほわぁあああああ────!! 伝説しかない!!」

 キュトの目はきらきらしっぱなし、潤みっぱなしだ。


 皆のために、家庭菜園も始めたよ。
 魔山羊のお母さんとお兄ちゃんのために、魔草の種もいっぱい撒いて、魔草の平原も制作中!

 精霊の泉の水を撒くと、野菜はぐんぐん育ち、実は泣くほど美味しい。
 魔草の種に泉の水を撒くと、きらきらした草が生えてきた。


「こ、これ、魔草じゃなくなった?
 お母さん、お兄ちゃん、食べれますか」

 ちょっと食べてみた魔山羊のお兄ちゃんとお母さんが、きらきらした。
 重々しく、頷いてくれる。

「めええ」

 めちゃくちゃ美味しいらしい。
 よかった!







「ひめさま────!!」

 涙目で、ぜえぜえしながら走ってきてくれるのは、勇者エォナの兄、チチェだ。

 クロの背には、勇者エォナが乗っている。


「ちちぇ、はしった。えらい。
 ろー、ほめて」

 クロがぶんぶん尻尾を振って、僕は仰け反った。

 クロが、エォナとチチェふたりを乗せるのはあんまりだからと、チチェは根性で走ってきたらしい。

 さすが、勇者兄!
 人界から魔界まで走って来るとか、根性が違う!


「チチェ、すごい!
 さすが勇者兄! えらい!」

 ぱちぱち拍手したら、チチェが真っ赤になって笑う。


「村の復興の目途がついたから、遊びに行っていいって皆が言ってくれたんだ。
 ひめは、村の様子をよく見に来てくれるけど。
 ひめが、どんなところで暮らしてるのか、ずっと、見てみたかった」

 ふわふわ紅い頬で、照れくさそうに、うれしそうに、チチェが笑ってくれる。


「ようこそ、魔王さまのお家へ」

 ふうわり笑って、きゅ、とチチェの手を握ったら、真っ赤になったチチェが、くずおれた。


「ひ、ひめさま、きらきらすぎる────!!」

 顔を覆ってうずくまるチチェに、首を振る。


「ひめじゃないよ」

 僕の言葉を全力でスルーしたらしいエォナが、畑を指して跳びあがる。


「ひめさま、畑!」

 ぐるんと首を回したチチェの目が、輝いた。


「すんごい!!」

 両手を挙げたチチェが走ってゆく。
 畑に顔を近づけて、土をひとつかみ掬い、うっとり栗色の目を細めた。


「土、ふかふか! みみずいっぱい! 腐葉土だらけ!
 すんごい!!」

 チチェの何かを押したらしいよ。
 目がギラギラしてて、キュトたんみたいになってるよ。


「ひめさまに、ちょっと逢えないだけで、変わっちゃう!」

 涙目のエォナを抱っこして、笑う。


「僕の中身は変わってないよ。大丈夫」

 ふわふわのエォナの頭を撫でたら、エォナが真っ赤になって、チチェの目がきらきらした。


「ひめさま、俺も!」

 チチェに頭を差し出された僕は、笑って、くしゃくしゃ、チチェの頭を撫でる。
 真っ赤になったチチェが、とろけて笑った。


「チチェ、畑のこと、教えて」

「任せとけ!」

 紅い頬で、チチェが胸を叩いてくれる。


「ぼ、僕も教えられます!」

 ちっちゃなエォナが胸を張る。


「おねがい」

 手を合わせて微笑んだら、チチェとエォナが崩れ落ちた。


「ひめさま、尊い────!!」


「ひめじゃないよ」

 何度でも言うよ。










 季節が、春から初夏へと移りゆく。

 日本のゲームだから、この世界にも四季があるみたいだよ。

 大樹が風にそよぎ、青々した草原の向こうで、赤い実が揺れる。
 広がる草原で駆け回るクロの目が、きらきらしてる。
 ぶんぶん振られる尻尾の向こうで、魔山羊のお兄ちゃんとお母さんが、草を食んでる。


 なんか、ちっちゃい村っぽくなってきた!

 精霊の樹のおかげで、辺りはめちゃくちゃ清々しい。
 精霊が踊ってるのが時々見えるとか、メルヘンだ!

 魔界って言われたら、嘘でしょってなる。
 魔王さまのお家って言われたら、もっと仰け反る。


「魔王さま、ジア、精霊の樹の清らかな感じ、苦しくない?」

 心配で聞いた僕に、ふたりとも首を振った。


「俺らは、魔力がめちゃくちゃ高いだけだからな。
 苦手な属性も魔力もない」

 ジァルデの言葉に、拍手する。

「ふふん」

 誇らしそうに胸を張る、もふもふゼドが、めちゃくちゃ可愛い。





 鳥の歌と、魔山羊のお兄ちゃんとお母さんのめえめえをBGMに、おともだちの精霊の樹の木陰で、キュトは複雑な魔道具をつくってくれる。


 キュトが僕の手を握るたび、レトゥリアーレが隣で目を吊りあげて、

「約束!!」

 叫ぶと、キュトは赤い頬でふくれた。


「魔道具に、ひめの魔力が必要なの!」


 めちゃめちゃぶすくれたレトゥリアーレは、エルフのための魔道具だから、と我慢してくれてるみたいだ。


 …………何を??







しおりを挟む
感想 191

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

処理中です...