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愛の果て
しおりを挟む「……ジァルデは、儂のひ孫だ。
儂の孫たちの、可愛い子だ。
何とか、守ってやりたかったが……守っては、やれなんだ」
ヨァトォの言葉が、落ちる。
「……守ろうと、してくださったんですね」
ふるえる僕の言葉に、ヨァトォは首を振った。
「──生まれたばかりでも、ジァルデは輝くように麗しかった。
見ているだけで、魂を抜かれるようだった。
血が濃い時魔は、いつもそうだ。
凄まじい力と、凄まじい麗しさを誇る。
だから我らは、禁忌とする。
争いを封じるために」
ヨァトォのしゃがれた声が、静かに落ちる。
「なのに、ジァルデは生まれてしまった。
時魔の一族が、ジァルデを巡って争いになることが、生まれた瞬間に視えるような子だった。
ここは、絶海の孤島。
時魔が無事に生きてゆきたいなら、誰も出てゆくことは、できない。
ジァルデが騒乱の種となるのが視えていて、置いておくことは、できなかった」
漆黒のゼドの瞳が、歪む。
「我らは同族殺しを禁じている。
よってジァルデは、外界に捨てられた。
すみやかな死を願って」
僕は、唇を噛み締めた。
ジァルデは、愛されて、望まれて生まれてきたのに、捨てられた。
僕は、望まれずに生まれてきて、捨てられた。
いや、僕を産んでくれた母にも、何か事情があったかもしれない。
暴行を受けて、中絶できなかった子なのかもしれない。
愛されて生まれるはずだったのに、黒目黒髪、悪魔の子、災厄を呼ぶから、捨てられたのかもしれない。
もしかしたら、悪魔の子として殺されるはずだった僕を、懸命にたすけようとして、僕を人界の端、エルフの隠れ里の近くに捨てたのかもしれない。
ジァルデの両親の愛に触れて初めて、僕は、母を、父を想った。
前世の記憶が大きすぎて、赤ちゃんだった今世の記憶が少なすぎて、悪魔の子として、捨てられたから。
僕が生まれてきたのは、母と、父のおかげなのに。
感謝することなんて、一度もなかった。
僕が産まれた時、お母さんは、痛みに苦しみ、血を流した。
それでも、僕を、産んでくれた。
なのに、僕は、ちっとも、母を、思わなかった。
握りしめた指が、ふるえる。
僕も、ジァルデも、捨てられた。
それはきっと、僕が負うべきもので、ジァルデが負うべきものだ。
誰を怨んでも、自分が傷つくだけ。
自分が、哀しいだけ。
自分が、醜く歪んでゆくだけ。
怨みも、呪いも、誰にも届くことなく、自らに降り積もり、自らを穢してく。
わかっているのに、ジァルデの哀しい過去は、心が裂ける。
とても、愛されて、望まれて生まれてきたジァルデだから、尚更。
涙を拭った僕は、顔をあげる。
ヨァトォは、目を伏せた。
「ジァルデを外に出したは、間違いだったとは、思わぬ。
逃げ場のないこの孤島にジァルデが居たなら、もっと陰惨な目に遭っただろう。
誰もがジァルデを望み、争い、時魔はもう滅んでいたやもしれぬ」
組まれた皺の手が、かすかに震えた。
「──ジァルデを見た従兄が、外界に捨てられたジァルデを追いかけた。
ひと目で、生涯を奪うような子だった」
ヨァトォの声が、落ちる。
「暗い欲望とともに溺愛され、さらに輝かしくなったジァルデを、真っ黒な獅子が攫った。
残された従兄は、おかしくなった。
ジァルデを取り戻すために、エルフの血を啜り、魔王を超えると」
レトゥリアーレの指が、震えた。
「ズァビエは、長い時をかけ、隠れ里を出たエルフを屠り、力をつけた。
行方不明となったエルフの多くは、おそらく、ズァビエが。
魔物軍を動かし、勇者の村を襲わせ、エルフの里を襲わせ、魔王を殺し、魔王を超えようとした」
ヨァトォの老いに白く濁る瞳が、レトゥリアーレを見つめる。
「我らは、ズァビエを止められなかった。
我らの同族が、エルフの一族に与えた苦しみと血を、衷心よりお詫びする」
レトゥリアーレは、唇を噛んだ。
「──……エルフの長として、時魔の長の謝罪を受ける。
けれど、殺されたエルフは、ノェスは、かえらない」
ヨァトォは、頷いた。
ただ深く、頭を下げた。
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