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おまけのお話
ジアの朝
しおりを挟むぽやぽや、目が覚める。
ふわふわの漆黒の毛に、包まれる。
「お、おはよう、ジア」
紅い頬で、ゼドが笑う。
照れくさそうに、うれしそうに、この世界で一番大切で、一番愛しい者を
見つめる瞳で、笑ってくれる。
漆黒の瞳のなかで、俺が笑う。
照れくさそうに、うれしそうに、この世界で一番大切で、一番愛しい者を
見つめる瞳で、笑ってる。
恥ずかしくて、うれしくて、わあわあ叫びたくて、くすぐったい。
ゼドのおっきなもふもふの腕に包まれるたび、世界中のしあわせが、ここにあると思うんだ。
ろーがうちに住んでた時は、俺はいちおう、おかあさんだったみたいなので、
かあちゃんらしく、威厳たっぷりに、しゃんとしてた。……と思う。
ろーは、うちの子だ。
魔力が強すぎて、子ができない魔王と、血が濃すぎて、子ができない俺との間に
やってきてくれた、息子だ。
俺と、ゼドの子だと思ってる。
照れくさいから、あまり、言えないけれど。
ろーが、俺に甘えてくれるたび。
ろーを、抱きしめるたび。
ああ、ろーは、俺とゼドの子だと思う。
そう思える息子が、ろーでよかったと、心から思う。
自慢の息子だ。
その息子の前で、かあちゃんな俺が、とうちゃんなゼドに、あまりにも
寄りかかり、あまりにも甘え、あまりにもくっつくのは、かあちゃんとしての威厳がどうなんだ、と思い、我慢してた。
かっこいいかあちゃんは、俺の理想だからだ。
時魔の力で見た、俺のかあちゃんは、かっこよかった。
禁忌だからと、泣いて諦めようとする俺の親父を張り倒し、躊躇うことなく
親父を愛し、親父の子を産んだ。
俺が、自分を殺すと解っていても。
俺を、この世界に産んでくれた。
だから俺は、ゼドに逢えて。
こんなにも、しあわせになれた。
ありがとうと、しあわせが、俺の両親に、届けばいい。
俺よりずっとずっと、しあわせになってくれたらいい。
祈る気持ちで、俺は毎日、両親を思う。
そんな俺の理想のかあちゃんと俺は、見た目は似てると思うが、かっこよさが
圧倒的に足りない。
だが愛する息子の前ではかっこうよくいたかったので、随分無理をしてた。
ちゃんと、かっこいいかあちゃんに、なれてたかな。
今も、ちょっと、不安だ。
ろーは、うちを出て、レトゥリアーレと暮らすようになった。
それは、とてもさみしく、びっくりするほどさみしいことだった。
ずっと、ゼドとふたりきりで暮らしてきた日々が遠くなってしまうほど、
ろーとクロは、この家に、あたたかな笑いと、ぬくもりと、しあわせを
運んでくれた。
火が消えたようって、このことか!
理解するほど、しゅんとした。
ゼドも、俺と一緒にしゅんとしたのに。
俺を慰めようと、懸命に甘やかして、抱っこしてくれる。
もふもふの漆黒の毛は、とろけるようにやわらかで。
一度ふれたら、ずっと、ずっと、ふれていたくなる。
ゼドが、ぎゅうぎゅう抱っこしてくれたから。
俺は、ろーがいなかった日々を思い出した。
俺は、かっこいい理想のかあちゃんとは、だいぶん違う。
ゼドにべったり甘えて、ゼドにべったべったに甘やかされたい、あまえただ。
たぶん、ゼドしか、知らないと思う。
俺の顔は、ゼドの前でしか、動かないらしいから。
最近は、ろーとクロの前でも、動くと思う。
それを、とても、うれしく思う。
ゼドはいつも、俺に朝ご飯を作ってくれる。
俺はいつもゼドにくっついて、野菜を洗ったり、果物の皮を剥いたり、小麦粉を
こねるゼドの邪魔をしたりする。
ゼドはそのたび、可愛くてたまらないものを見るような瞳で、俺を見つめる。
ゼドのまっくろな瞳に映る俺は、こんなに甘ったるくて情けない顔をしても
いいのかと不安になるほど、溶けてる。
小麦粉をこねてるゼドは両手が使えないので、ふわふわの尻尾で、俺の頬を
なでてくれる。
俺の顔はもっととろけて、ゼドの胸にくっついて、ゼドの香りを胸いっぱいに
吸いこむ。
「……ジア」
あんまりぎゅうぎゅう抱きついたら、ゼドの顔が真っ赤になって、困ったみたいに眉がさがる。
こんなにかわいいのが、魔王でいいのか。
いつも思ってたけど、ろーのおかげで、ゼドは魔王じゃなくなった。
それも、とても、うれしく思う。
身分で誰かを分けるのが愚劣だからでもあるけれど。
ゼドは、俺のものだから。
俺だけのもので、いて欲しいから。
魔界の王だなんて、魔界の皆がゼドを頼り、慕うだなんて、いつだって、
最高につまらないと思ってた。
ルルとクロがうちを出て、魔王じゃなくなったゼドは、俺のもので、
俺だけのもので、俺は、ひっつき放題だ。
あんまりくっついてると、真っ赤になったゼドがわたわたして、困った顔に
なって、熱くなって、とろけて笑った俺と繋がって、もっともっと甘いことに
なったりする。
息子やクロがいると、控えようね、となってたことが、朝でも昼でも夜でも、
したい放題、くっつき放題、あまえ放題になったら、俺の顔は、とろけて溶けた。
蜜月って、こういうことか!
理解するほど、とろとろだ。
最初、ゼドと暮らした時は、俺が固まっていて。
ゼドと愛しあえるようになった頃は、ゼドは魔王で職務があって。
だから、こんなにべったりするのは、朝も昼も夜も唇をくっつけて笑えるのは、
はじめてなことに、気がついた。
ろーが教えてくれた、ぱんというのを焼いてる間に、ゼドが俺の髪を撫でて
くれる。
「ジア」
まっくろな瞳に、俺だけを映して。
大切でたまらない、愛しくてたまらない者を見る瞳で、俺を見つめて。
とろけるように、笑ってくれる。
もふもふの腕が、俺を包んで。
ゼドのたまらなくいい匂いで、指先までいっぱいになる。
ゼドの瞳には、大切でたまらない、愛しくてたまらない者を見る瞳で、
とろけるように笑う俺が、映ってる。
こんな朝が、いつもの朝だなんて。
これ以上のしあわせなんてないと、思うんだ。
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なるさんにリクエスト戴いたジアの番外編をお届けしました。
ジアのしあわせを、つめこんでみました。
いつもありがとうございますの感謝の気持ちを、めいっぱいこめて!
なるさん、お誕生日おめでとうございますー!
来る1年が、やさしくてあったかくてしあわせな、素晴らしいものとなります
ように!
はじめましての方も、いつも見てくださる方も、楽しんでくださったら、
とてもうれしいです。
ルルとレトゥリアーレのしあわせな蜜月とらぶえっち(笑)は、Kindle様で公開の
2でお読みになれます。
試し読みだけでも、らぶえっちがあるので(笑)もしよかったら!
次は風磨たんのつがいの番外編です。
応援ありがとうございます!
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