【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ

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ロダ(Request)

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 ロダがヴァデルザ家にやってきたのは、先々代の頃のことだ。

 ヴァデルザ家領に住む民は多くないが、魔の森に暮らしていたりして、ふつうのネメド王国民よりは著しく強い。
 ロダも魔の森で生まれ育ち、鍛錬を重ね、魔の森にはとても詳しくなった。

 ロダが16の時だった。
 魔の山から降りてきたらしい強大な魔物が魔の森を荒らしまわり、人間にも魔物にも森にも甚大な被害が出たためヴァデルザ家当主は討伐隊を組織した。
 その道案内役として選ばれたのが、ロダだ。

「頼むぞ、ロダ」

 ロダと同い年だった当主ヴィエは、気さくに肩を叩いて笑ってくれた。

 小柄で華奢なヴィエは一見すると戦えるようには全く見えない。
 けれど対するだけで、圧倒された。

 ──凄まじく、強い。

 一瞬さえ必要なく理解したロダは、こうべを垂れる。
 ヴィエは、瞬いた。

「俺を侮らなかったのは、ふたりめだ」

 雪の髪を揺らして、ほんのり紅くなった頬で笑ってくれた。


 翼のある巨大な魔物は見たこともない闇を熔かしたような姿をしていて、見たこともない攻撃を放ってくる。
 人間と魔の森の魔物たちが惨敗した理由が理解できた時には、立っているのはヴィエとロダだけになっていた。

 人間は、おそらく全力で動くことは滅多とない。
 自らの能力を無意識に制限している。
 筋肉や骨に過度の負担を掛けないように。

 そんなことを言っていられないのが、魔の森だ。
 意識してその制限を外し、限界を超えた力を引き出すことができるのが、ヴァデルザ家当主だと言われている。

 覚醒することができた者だけが、ヴァデルザ家当主となれると。

 ロダにはそんな超人的な力はない。
 ただふつうに跳んだり蹴ったり斬ったりできるだけだ。
 けれどロダは魔の森で生まれて育ったから、魔物の間合いが解る、攻撃の瞬間が解る、どんな攻撃が来るか解る。それが見たことのない異形の魔物であっても。

「左! 上! 後退しろ、斬撃が来る──!」

 ロダの叫びに、微かに目を瞠ったヴィエが反応する。

「弱点は解るか!」

「見たこともない! とりあえず目か?」

「りょーかい!」

 ヴィエは飛んだ。
 そう、ほんとうに空を翔て、魔物の目を切り裂いた。

 グギャギャガギギギ──!

 あまりの速さと、あまりの強さに、眩暈がする。

 遥か高みにいるヴィエに並び立てない自分を、何の役にも立てない自分を恥ずかしく、情けなく噛み締める。


 並びたい。

 ともに闘いたい。

 あなたの、役に立ちたい。



 血を吐くほど願った瞬間、限界を超えていた。

 視界が、広がる。
 五感が、拡張してゆく。

 異形の魔物の動きが、ゆっくり、ゆっくり、止まったように見えた。

 ヴィエがどこに走り込むか、斬撃を繰り出すかさえ、見える。

「ロダ──!」

 あなたが名を呼んでくれるなら、何だって、できる気がするんだ。




 ロダとヴィエは、ヴァデルザ全盛期と謳われるほど無双の強さを誇り、魔の山の異変なのだろうか、頻繁にヴァデルザ家領に現れるようになった超常の強さを誇る異形の魔物たちさえ討伐した。

「背中を預けられるのは、ロダだけだ」

 あなたが、そう言って笑ってくれる。


 あなたとともに、戦える。

 あなたの背を守り、あなたの隣で駆ける。


 それ以上のしあわせを、知らない。




 ヴィエが伴侶に選んだのは、ロダではなかった。
 欲がなかったと言えば、嘘になるけれど。
 びっくりするほど巨漢な伴侶に、ちっちゃな子どもみたいに抱っこされて笑うヴィエがあまりに愛らしかったから、皆で笑ってしまった。

 ものすごく巨きい身体で、ものすごく強そうに見えるけど気はやさしい伴侶と、華奢で小柄で風が吹いたら倒れそうなのにネメド王国随一の強さを誇るヴィエは、とてもお似合いの伴侶だった。

 心から、祝福できたと思う。

 自分とそっくりの子どもを抱いて、ヴィエが笑う。

「次のヴァデルザ家当主、ヴィナだ。俺と同じように仕えてやってほしい」


『あなたにしか、仕えたくない』

 そんなことを言ったら困らせるのは解りきっているから


「はい、わがきみ」

 微笑んで、こうべを垂れた。



「次のヴァデルザ家当主、ヴィルだ。俺と同じように仕えてほしい」

 孫を抱いたヴィエが、とろけるように笑って告げるから


『あなたの傍にしか、いたくない』

 困らせたくないから


「はい、わがきみ」

 微笑んで、こうべを垂れた。




 共に並んで闘えた日々は、今もロダを震わせる。


 あなたの傍で、あなただけに仕えたかった。



 でもあなたの息子に、あなたの孫に仕えられたことも、ロダにとってはかけがえのないさいわいで。

「ロダ」

 あなたのしあわせの証左のような息子が、孫が、微笑んで名を呼んでくれるたび、指先までやさしい光で満たされてゆくのです。



「……ヴィルさま、あの、伴侶が3歳のご様子なのですが……」

「え、いや、支援する、つもり、で……」


 たのしいことも、いっぱいで。

 元気で身体が動くうちは、あなたのしあわせの子たちに、仕えたいと願うのです。









────────────

 読んでくださって、ありがとうございます!

 よーむー様のリクエストで、書いてる人も知らなかった(笑)ロダのお話でした!

 ロダ……!(涙)

 

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