【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
70 / 151

楽しみなのです

しおりを挟む



 おどろおどろしい闇がエヴィの背から噴きあがる。

「早速ポーテ家に不敬で処断を請求しよう。お兄さまを侮辱して糾弾するなんて、家を取り潰して欲しいみたいだな」

 ふふふふふ

 嗤うエヴィの目が、本気だ。

「だめ」

 ふるふるヴィルが首を振る。

「だって、お兄さま──!」

「不敬、じゃ、なくて、ノィユを、心配、してた。ノィユ、追いかけて、あげて」

 ごつごつの大きなヴィルの手が、頭を撫でてくれる。


 それは、とても心広く、心やさしいことだと思うのに。

 見あげるノィユの頬が、ぷくりとふくれた。


「……ヴィル、やきもちは……?」

 耳まで真っ赤になったヴィルが、とろけて笑う。


「ノィユ、も、俺と一緒、のきもち。……うれしい」

 きゅうっと抱っこして、ふわふわ朱い頬で笑ってくれた。




 追いかけたノィユは、図書館の中庭の白いベンチに腰掛けているネニを見つける。
 ちいさな肩が落ちていた。
 ぎゅっとしかめられた顔が、苦しそうに歪んでる。

「……ネニさま……」

 声をかけたノィユに、ネニはきつく唇を噛んだ。

「……両親やヴァデルザ家の前だから、ほんとうのことを言えなかったんでしょう? ノィユなら王太子の伴侶にだってなれる。ほんとうは借金の形なんだ、じゃないとよりにもよって、辺境の貧乏ヴァデルザ家なんて──!」

 息をのんだノィユは拳を握る。

「北の最果てで、敵国を前に、魔物の森に囲まれて、それでも領地を、国を守ってくれるヴァデルザ家には尊敬と感謝しかありません。僕のことは何と仰ってもいい。でもどうかヴィルを、ヴァデルザ家を悪く言うことだけは、お止めください」

 ふかく、頭をさげた。

 緑の葉を透かす陽の光が、ちらちら揺れた。
 そろえたノィユの指を、木洩れ日が照らす。

「……最初は友達でいい、まだたっぷり時間はあるから、少しずつ仲良くなって、僕のことを知ってもらって、成人したら、ノィユの伴侶に──思ってた僕が、あんぽんたんだ」

 かすれて歪んだ声が、落ちてゆく。

「……お気持ちを、ありがとうございます、ネニさま」

 ノィユは、顔をあげる。


「僕は、ヴィルの伴侶です。ヴィルを、あいしています。気持ちが変わることは、死んでもありません。僕は死んでも、ヴィルの伴侶です。ごめんなさい」

 ふかく、ふかく、頭をさげた。


 ネニの瞳からあふれる涙をぬぐってあげられないことを、さみしく思う。

「……ごめんなさい、ネニさま」

 もう一度頭をさげてヴィルのもとに戻ろうとしたノィユの背に、声が降る。


「僕、ぜったい、絶対いい男になる。優秀なお金持ちになって、バチルタ家の莫大な借金さえ、鼻歌で返済してあげられるようになるから。だから、15年後──!」

 振り向いたノィユは、微笑んだ。

「僕は、自分の力で、代々連なるバチルタ家の借金を、返済します。借金を肩代わりしようとしてくれるのではなく、僕の頑張りを後押ししてくれようとするヴィルを、僕を信じてくれるヴィルを、誇りに思います」

「どうして楽な道を選ばないんだ──!」

 叫ばれたノィユが、笑う。


「莫大な借金まみれのバチルタ家の最貧の領地復興なんて、楽しみしかありません」





しおりを挟む
感想 327

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。 本編、舞踏会編、完結しました! キャラ人気投票の上位のお話を更新しています。 リトとジゼの動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編は、他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きしているので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。 ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。 読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...