123 / 148
ゆらゆら
しおりを挟むノゥスとカイ、セゥスは馬で早駆けしてバギォ王宮へと向かう。
同じ帝国の属国で親善国ともなったバギォ王国の王は、さきほども突然やってきたセゥスたちに馬を貸してくれ、今もまた快くノゥスとカイ、セゥスを迎えてくれた。
「ああ、いらっしゃい、待ってたよ。転移門だね、どうぞ使って」
やさしく微笑んでくれたバギォ王は、トゥヤとトコハとお茶を飲んでた。
「……えぇえええ……?」
転移門は、帝国の各地と属国を繋ぎ、一瞬で移動を可能にする魔導門だ。
朝早くに出立したのに、まだ陽は中天に差しかかってもいない。
あっという間にラゼン王宮に戻ってきたノゥスとカイ、セゥスに、皆があんぐり口を開ける。
「は、はやくない……!?」
トトラといっしょに、アーシェも、ラディまでのけぞってる。
離宮のユィリが使っていた寝室に入ると、いつも鋭いトゥヤの瞳がさらに切れあがった。
「ここでユィリがいなくなったんだな。ちょっと皆、出ていてくれ」
仕切ってくれるトゥヤに、皆がすぐに従った。
14歳の少年なのに。
その強さが分からないだろうトトラもアーシェも、ぷるぷるしてる。
「……僕は残っても構わないだろうか。隅で気配を消しているから」
セゥスの言葉に、ちょっと眉をあげたトゥヤが、ちらちら瞬く光と話をしてる。
「わるい、出てくれるか。
他の人の気配があると、あまりに微かな残滓は消えてしまう」
「……わかった。すまない」
胸に手をあてて、心からの謝罪を表したセゥスに、トゥヤが微笑む。
「ユィリのことが、ほんとにすきなんだな」
「ああ」
うなずいたら、トゥヤは不思議そうに首をかしげる。
「それでも伴侶(予定)契約を破棄した?」
「……間違った。……僕は、人形で……父上の屈辱をそそぐことが僕の使命だと……思っていたんだ。
それでユィリを傷つけた。周りの皆も」
「反省した?」
ふかく、うなずく。
「ユィリを、大事にする?」
まっすぐ顔をあげる。
「命を懸けて」
──きみのためなら
どんなことも、成してみせる。
きっと、間違わないほうがいい。
ユィリを傷つけるなんて、絶対だめだった。
でも間違ったからこそ僕は、きみへの愛を、知ったんだ。
「なら、たすける」
いつも鋭い目をほそめたトゥヤが、ふうわり、笑ってくれた。
* * *
「着いたぞ、ゆり。またしばらく揺れる。今度は馬だ」
丸太みたいにかつぐんじゃなくて、おひめさま抱っこして船から降ろしてくれたらしい海の言葉に、目隠しされたままの僕は、しょんぼりだ。
「まだ揺れるんだね……」
「とうぶん揺れる。疲れただろう、寝てていい」
「いや、僕はさらわれてるだけだから、疲れてるのはウミでしょう」
とんと、海の胸をたたいたら、低い声が落ちる
「……ゆりをさらった悪人に、あんまりやさしくするな」
「ウミは、わるい人じゃないでしょう」
僕を抱きしめる腕が、強くなる。
「弟のために、ゆりをさらう、酷い人だ」
声は、馬のいななきに、かき消された。
目隠しされたままの僕の身体が、揺れる。
強い潮の匂いが遠くなり、大地の緑の香りが鼻をかすめる。
あったかい海の腕に抱っこされて、揺すられて、酔い止めの治癒魔法で、ぽかぽかしてる僕は、ゆらゆらされて…………馬って、想像以上にものすごく揺れるんだけど、海の抱っこが、かんぺきだ……!
ゆらゆら……ゆらゆら……ゆらゆら……
…………ぐぅう…………
……寝ちゃったみたい、で、す……!
緊張感の、まるでない僕……!
891
あなたにおすすめの小説
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
【本編完結】攻略対象その3の騎士団団長令息はヒロインが思うほど脳筋じゃない!
哀川ナオ
BL
第二王子のご学友として学園での護衛を任されてしまった騎士団団長令息侯爵家次男アルバート・ミケルセンは苦労が多い。
突撃してくるピンク頭の女子生徒。
来るもの拒まずで全ての女性を博愛する軽薄王子。
二人の世界に入り込んで授業をサボりまくる双子。
何を考えているのか分からないけれど暗躍してるっぽい王弟。
俺を癒してくれるのはロベルタだけだ!
……えっと、癒してくれるんだよな?
【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~
蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。
転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。
戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。
マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。
皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた!
しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった!
ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。
皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる