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ごめんなさい
しおりを挟む「……あぁ、だめだ、ここまでだな」
トゥヤのつぶやきに、セゥスの胸が潰れた。
いつもトゥヤの肩で揺れていた光が、弱くなっている。
精霊さまには、海から吹く風も、海の近くにいることも、つらいのかもしれない。
青い闇のようにうねる海に、白い波頭が飛沫をあげる。
「ここから船に乗った人がいないか、聞きこみをしてみよう。何とか船に乗せてもらえるよう交渉を」
はじめて見る船と海をセゥスが見回したときだった。
白い帽子をかぶり、長い杖を支えにした、おじいさんが手をあげる。
「ほうほう、いらっしゃいましたの。これはこれは、優秀な。
セゥスさまですかのう」
警戒しなければならない、わかっているのに、口は勝手に音をつむいだ。
「ユィリはどこに行ったか、知っているのか──!」
おじいさんは、微笑んだ。
「海さまは追ってくるのではないかと仰っていましたが、いやはや。このような大陸の果てまで来られるとは」
感心したように白い髭をなでるおじいさんに、セゥスの目が切れあがる。
「ユィリを、どこへやった──!」
絶叫だった。
ノゥスとカイが剣を抜こうとするのにも、トゥヤの瞳が切れあがるのにも、トコハがしずかに剣の柄に指をかけるのにも、おじいさんは、揺るがない。
「わたくしは伝言を、お伝えに」
透きとおる青の瞳が、皆を見渡した。
「『つよつよな僕は、おともだちといっしょに、お家に帰ります。
皆、いい子で待っててね!』」
ユィリが目の前で、手を振ってくれた気がした。
…………………………。
「…………え……?」
ぼうぜんとする皆に、おじいさんが微笑む。
「ユィリ殿は、おそらく皆さまが思うよりずうっと、おつよい方ですじゃ。
おひとりで、立派に、お帰りになります。
力の強い、あなたがたが、救わなくとも」
──……頭を、思いきりなぐられた気がした。
……ユィリは、ちいさくて、あいらしくて、よわくて、守ってあげなければならない存在だと思っていた。
ユィリを守ることこそが、自分の使命なのだと。
……ユィリが強いだなんて、思ったこともなかった。
だから必死で、ユィリを追った。
ユィリがひどい目に遭うに違いないと。
……なんて、傲慢だったのだろう……
ユィリは、立派な、稀代の治癒士だ。
ひとりで、立って
ひとりで、帰ってこられる。
さらわれても
それでも
きっと
ひとりで、立派に、帰ってきてくれる。
弱いから、たすけにいかないと。
自分がユィリを守らないと。
ユィリが、ひどいことをされてしまう。
ユィリは、弱いから。
──それは、すさまじい、侮辱だ。
ユィリを愛しているといいながら……自分は何を見てきたのだろう。
ラディを治そうと懸命にがんばるユィリを、目の当たりにしていたのに。
「……ごめんなさい、ユィリ……」
にじんでゆく視界に、ノゥスは首をふる。
「さらわれたら、追いかけるのは当たり前だろ! 心配するのも、当たり前だ!」
おじいちゃんが、微笑む。
「追いかけてもらえぬのも、さみしいもの。
あなたがたは、よくがんばりました。
多大なるご心配をおかけしたことを、謝ることができぬことを、残念に思います」
魔法の杖が、輝いた。
「はやく、お家に帰りなされ。
ユィリ殿が、きっと、ぷりぷりしながらお待ちですぞ」
面識のない王族に泣いて頼みこんで転移門を使わせてもらい、ラゼン王国へと帰ってきた。
白い離宮で、ユィリが手をふる。
「セゥスさま!」
きみが、笑ってくれる。
それだけで涙があふれて、止まらない。
「おかえりなさい、ユィリ……!
……遅くなって、ごめんなさい……!」
すがるように抱きしめたら、ほんのり潮の香りのする髪で、笑ってくれた。
「僕、つよつよになるの。
だから今度からは、いい子で待っててね」
やさしいささやきに、首をふる。
ユィリが強くても。
立派な、素晴らしい、ひとりで立てる治癒士でも。
それでも
「いなくなったら、追いかけたいよ、ユィリ」
ささやいたら、あふれる涙を、ちいさな手が抱きしめてくれた。
「うれしい、セゥスさま」
ちゅ
あまい唇が、額に降る。
「だいすき」
きみが真っ赤な頬で笑ってくれたら
ほかに、なにも、いらない。
────────────────
ずっと読んでくださって、ほんとうにありがとうございます!
ようやくセゥスとユィリが逢えたところなのに、雰囲気ぶち壊してごめんなさい……!
名前に読み方が、つきましたー!(笑)
今まで『どう読むんだ』『読み方がないってどういうこと!』みたいに思ってくださっていた皆さま!
* ゆるゆ になりましたー!
ゆるゆです!
短めひらがな、覚えやすくて検索しやすくて他の方があまりいらっしゃらないで一生懸命考えました(笑)
3文字で回文です!(笑)意味はないです!(笑)ゆるい?(笑)
『ゆるゆ』だけだと、すてきな皆さまのお名前に800%埋もれそうなので(笑) * ゆるゆ になっています。
これからは、どうぞおきがるに、ゆるゆとお呼びくださいねー!
出しやすくなりました!(笑) * どうやって出すんだってなりますよね!(笑)
インスタのIDも変更して、 @yuruyu0 になりました!
いっぱい色んなところに書いてしまったので、ぽちぽち直します……(笑)
プロフのwebサイトからは飛べるようになっているので、もしよかったら!
今までのお話のなかで、最速でお気に入りをいただけているのが、だいふくユィリなのです!
もう残すのは『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィルのみとなりました(笑)
お気に入りや、いいねや、エール、ご感想で応援してくださる皆さま、毎日読んでくださる皆さま、お忙しいなかお時間をつくって読んでくださる皆さま、ここまでずっと読んでくださった、あなたさまに、心から、ありがとうございます!
ユィリ「もっちもっちな僕を、応援してくれて、ほんとに、ほんとに、ありがとうー!」
セゥス「心からの感謝を、あなたに」
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