悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

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泣いちゃう

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「身分も頭も顔も才能もない、何にもないクズのくせに、セゥスの伴侶(予定)におさまって、セゥスを幻惑した最低の輩に、そんなことができる訳がないだろう!
 セゥスを魅了して手に入れるための虚言に決まってる!」

 セァナが僕に叫んだ瞬間

 パァン──!

 長い薄青の髪がひと房、千切れ飛び、その頬に紅い線が走った。


「……敵だと言ったでしょう。
 次は心の臓を撃ち抜きますよ」

 セゥスの瞳が、冴え凍る。
 指先が、魔力に輝いていた。

 セゥスが使える光魔法は、浄化の魔法だ。
 攻撃力なんて、ない。
 皆がそう思っている。

 でもセゥスは光の特性を研究し、攻撃できるように改変したんだ。

 光魔法で攻撃できるなら、最強の武器になる。

 ──光の速さを、誰も超えられない。

 何が起こったのかさえ、見えなかった。


「──っ わ、わ私の顔に、き、きき傷、を──!」

「ご自慢なようですので。痕の残る傷にしてあげてもよろしいですよ。
 ユィリを侮辱する気もなくなるほど、切り刻んで差しあげましょうか?」

 セゥスの身体から、莫大な魔力が立ちのぼる。
 やさしいはずの光の魔力が凍てついて、喉をふさぐような強さで叩きつけられたセァナが膝を折った。

 氷の瞳で、セゥスは告げる。


「あなたはもう、僕の父じゃない。
 僕はもう、あなたの人形じゃない。
 僕はもう、ロベナ王国の王太子じゃない」

 凍える声で、セゥスは告げる。


「さよなら、セァナ・フォクト殿下。
 行こう、ユィリ」

 冷たい指に手を取られた僕は、首をふる。


「僕を想ってくれるセゥスの気もちは、うれしいよ。ありがとう、セゥス。でも、こんなこと、しちゃだめだよ。
 さよならなんて、言っちゃだめだよ……!」

 セゥスを守るように、抱きしめる。

「ふたりとも、泣いちゃうから……!」

 くしゃりとセゥスのちいさな顔が歪んだ。


「……泣いてるのは、ユィリだよ」

 ふるえるセゥスの腕が、僕を抱きしめてくれる。

「僕のために……ごめん、ユィリ」

 ぶんぶん僕は首をふる。

「僕、ほんとに何にもできない、何にもしようとしない癖に、人のことを見下す、ほんとうに、やな人だったの。
 セァナさまがおっしゃるのは、当然だよ」

 セゥスは首をふった。

「はじめて逢ったときから、ユィリは一生懸命で……ずっと、やさしかった」

 僕の頬をつつんで、涙のにじむ瞳で微笑んだ。

「……わからない人が、節穴なんだ」

 セゥスの声が、低くなる。


「身分だの、頭だの、顔だの、家だの、誇りだの、くだらないことばかりを大事にして、人を踏みにじって嘲笑うから、母上は仕方なく伴侶にさせられた、あなたが、大きらいなんですよ」

「セゥス──!」

 あわてて止めたけれど、セァナには聞こえてしまっただろう。

 セゥスとおそろいの緑の瞳が、揺れる。


「……くだらないものしか、僕にはないから。だから大事にしてるんだよ」

 ちいさな声が落ちた瞬間、扉が開く。


「す、すまない、遅くなった──!」

 真っ青な顔で駆けこんできたのは、王陛下だ。

 元凶も来ちゃった!

 あわあわする僕と、ほっとしたようなノクさまと、真っ青なセァナと、冷たい目を向けるセゥスに、王は告げる。

「皆に心労をかけて、ほんとうにすまない。
 セゥス、ノゥス、クゥス、心からの助言だ。伴侶は絶対に、ひとりにしなさい。
 二人いると、皆が泣いちゃうから!」

 王も泣いてる。


「お茶を淹れよう。
 皆、落ちついて、おいしいお菓子でも食べよう。ね?」

 ノクさまの大きな手が、僕の、セゥスの背をやさしくたたいた。


「セァナさまも」

 白布を差しだすノクを、セァナが見あげる。
 力なくうなずくセァナに、ほっとしたように、ノクさまも、のーすちゃんも微笑んだ。


「じゃあ俺、茶、淹れるわ。ユィリ、お菓子並べて」

「はあい!」

 元気なお返事をした僕の指が、緑に光る。


「僕、ちょこっとしたすり傷なら、治せるんですよ」

 緑のひかりが、セァナの頬を、つつんでく。






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