【完結】もふもふ獣人転生

  *  ゆるゆ

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とんがり帽子

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「こ、このような夜分に、いくらジェディス家の御曹司と仰られましても、あまりにもご無体な──ヒ! じ、獣人ですか──!?」

 悪魔を見たかのように、寝衣にとんがり帽子で灯篭を掲げた男が後退る。
 その背には立派な御殿が聳えていた。
 リトなど近づくだけで殺されそうだ。

 鞍から飛び降りたジゼは、毛布にくるんだリトをサザの背から抱き下ろしてくれた。

「帝都への転移を。今すぐ頼む」

 まだ幼いジゼと、その腕のなかの更に幼い獣人を見た男は首を振った。

「じ、獣人が転移扉を使うなど、許されることではありません!
 ルディア帝国でも王族と貴族の最高位であられる方々しかお使いになれないものなのですよ!」

「責はすべて俺が負う。
 治癒士に今すぐ見せないと、死ぬ」

 ジゼの気魄に押されるように、男は下がった。

「頼む」

 ジゼが頭をさげる。
 息をのんだ男は跳びあがり、その目が左に右に彷徨った。

「……ジェディス家の御曹司に、私などの下級魔法士が刃向かえるはずございません。そういうことで、よろしいか」

「無論だ。
 ……ありがとう」

 ちいさな声に跳びあがった魔法士は、真っ赤な頬で手を挙げた。

「他の者が来ぬ間に転移門を開きます!
 お早く!」

 見あげるほど高い門が、魔法士の指に開きゆく。
 ジゼが入ってすぐ門を閉めた魔法士は、とんがり帽子と太鼓腹を揺らしながらぽてぽて駆けた。
 毛布にくるまれたリトを抱えたジゼが魔法士のすぐ後に続く。
 霞む目で、リトはジゼととんがり帽子を見あげた。

 太い指が高速で動き、次々と扉を開け、最奥の部屋へと案内してくれる。

 不思議な部屋だった。
 天井にも壁にも床にも不思議な紋が描かれ、淡く光を放っている。

「こちらへ!」

 中央を示されたジゼは、リトを抱えたまま進み出た。
 その後ろで魔法士は魔紋に触れ、不思議な言葉を紡いだ。
 リトが聞いたことのない旋律が、光の部屋をゆるやかに満たしゆく。

「緊急転移、緊急転移、帝都転移門に告ぐ。
 ヌォム郡ビダ街より帝都への転移をロタ・ホィが実行する!
 ジゼ・ディオ・ジェディスさまの緊急要請である!
 帝都転移門、すみやかに応答せよ!」

 ロタの声に応えるように、部屋中の魔紋が輝きはじめる。
 命を吹きこまれたように、ゆるやかに明滅した。

「こちら帝都転移門、ジゼ・ディオ・ジェディス殿の魔紋確認」

 涼やかな声が、すぐ傍で聞こえた。
 前世の記憶の電話よりも澄んだ雑音のない声に、リトは息をのむ。

「もうひとつ登録のない魔紋があるが、何者か」

 詮議の声が厳しく響く。
 ごくりとロタの喉が鳴った。

「ジゼ・ディオ・ジェディスさまの、お連れ様である!」

 ジゼのリトを抱きしめる腕が、かすかに震える。
 遥か遠くを結ぶと思えぬほど明瞭に、ちいさな吐息が聞こえた。

「……二名の緊急転移、ルァル・シ・ルディアの名のもと認可する」

 告げられた名に、ジゼもロタもリトも硬直した。

「な──!?」

 うろたえるロタを遮るように涼やかな声が降る。

「帝都転移門、開きし。
 ヌォム郡ビダ街転移門と接続──完了」

 わたわたしたロタは、ひとつ息を吸い、ふるえる声を張りあげた。

「ロタ・ホィの名のもと、帝都への転移を実行する!」

 ロタの掌が、まばゆく輝く魔紋にふれる。

「お気をつけて!」

 かすかに目を瞠ったジゼは、微笑んだ。

「……ありがとう、ロタ」

 真っ赤になって、ぶんぶん手を振るとんがり帽子のロタが、溢れる光の向こうに消えてゆく。







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