【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました

  *  ゆるゆ

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 自分の声とは思えない、高く、あまく、かすれて、消える声を、どこか遠くで聞いていた。


 からだが、熱くて

 吐息が、熱くて


 ゼドがふれたところが、燃えるようで


 くるしいのに

 もっと、ほしいなんて、うそだ。


 いやなのに。

 ほんとうにいやなのか、わからなくなるなんて、うそだ。



「やぁ……! 中、洗って、なぃ……!」

 お尻を割り開かれて、あわてて押し退けようとするのに、ゼドの指先が輝いた。


「清浄魔法だ。戦場で有用かと覚えたが、こんなところで役立つとはな」

 あまい花の香りが立ちのぼる。
 とろりと垂らされた香油が、肌をすべった。


「や、や……! おねがぃ、それ、は──!」

 泣いてすがるのに、香油をまとった指が、くちゅりと中に入ってゆく。


「やぁ──!」

「大丈夫だ。息をしろ。すぐによくなる」

 抱きしめて、ささやいて、口づけてくれる唇はやさしいのに、中をいじる指は止まらない。

 自分のなかに、他人がいて、動かされる。その異様な感覚に、恐怖に震えた。


「や、おねがぃ、やめて、ゼドさま、おねがい……!」

 すがりつくのに、抱きしめて、あやすように髪を、背をなでてくれるのに、中で動く指は、止まらない。


 くちゅり、ぐちゅり

 なめらかな香油をまとう指は、さほどの抵抗なくレーシァのなかを、やさしくおかした。


「や、やぁ……!」

 いやなのに。

 こわいのに。

 精霊の御子で、なくなってしまうのに。


「ぁっ……やぁ……あんっ……んぁ……」

 泣き声に、あまい声が混じりはじめる。

 硬直して凍えてしまった身体の奥から、火照るような熱が、ふたたび燈ってゆく。


「あっ……や、やぁ……あぁんっ……や、やぁ……」

 自分の意志を全否定するような悦びに、ふるえる身体が、揺れる。


「ここだな。きもちいい?」

「や、やぁ……そこ、やだぁ──! あぁんっ……ひぅ……や、やぁ……ゼドさまぁ……っ」


 涙が、あふれた。

 いやなのか、いやじゃないのか。
 きもちわるいのか、きもちいいのか、わからない。

 自分でいじったことのないそこは、かつて感じたことのない悦楽に勃ちあがり、淫らに雫をこぼしていた。


「レーシァ、かわいい」

 涙でぐしゃぐしゃの顔に、ゼドのくちびるが降る。


 ちゅ

 口づけてくれるくちびるは、とろけるようにやさしいのに、中をいじる指をやめてくれない。


「おねが……抜いて、ゼドさま……おねがぃ……!」

「かわいいレーシァの頼みは聞いてやりたいが」


「な、なんでもするから、これだけは……!」

 涙の哀願に、ゼドは吐息した。


「レーシァは義理堅いだろう」

「……え……?」

 レーシァの顔の輪郭を、ゼドの指がたどる。


「はじめて目を見てくれた。はじめてさわってくれた。化け物と忌避された生活から救ってくれた。
 ヨアの国に、メィスに恩義を感じて、操を立てる。
 自分だけを愛せという言葉に呪われて、メィス以外を想えなくなる」

 息をのむレーシァの頬を、ゼドのごつごつの手が包みこむ。


「レーシァも分かっているだろう。ヨアが欲しかったのは『精霊の御子』だ」

『レーシァじゃない』

 やさしいゼドは、言わないでいてくれた。



 メィスは、確かに初めて目を見てくれた人だ。
 初めてふれてくれた人だった。
 手をひいてくれた。

 でもゼドみたいに、指をからめてくれたことは、一度もない。

 親愛として、額や頬に口づけてくれたことも、一度もなかった。


 伴侶になったら、してくれた……?

 精霊の御子は純潔を求められる。
 口づけも不可と言われたら、決してメィスは口づけてくれないだろう。


 名も、聞いてくれなかった。

 名がないことに、ヨアの国の人は、ひとりも、気づいてくれなかった。



 ほんとうのレーシァは、ただ色が薄く、肌が弱いだけ。

 精霊の御子じゃない。

 それなのに、精霊の御子のようにふるまって。
 養ってもらい、伴侶にまでなろうとした。


 メィスが欲しいのは、精霊の御子だ。

 レーシァじゃない。

 ただの人間だとわかったら、きっとレーシァは処刑される。



 なら、ゼドは……?



「俺がいくらやさしくして、手を繋いで、口づけようと、二番目だったことは変えられない。
 十年待とうと、百年待とうと、レーシァはメィスに操を立てて、メィス以外を見ようとしないだろう」

 光の瞳が、切れあがる。


「なら十年待ってから奪うより、今奪う」


 くちびるが、降る。


「……や……」

 ささやくこえは、あまえるように、かすれた。



 ……いや……?

 ほんとうに……?



 ゼドを受けいれたら、精霊の御子ではなくなってしまう。

 お飾りでしかないけれど、メィスの伴侶には、決してなれなくなってしまう。

 自分を決して見てくれることはないだろうメィスの伴侶に。

 ずっと、ずっとなりたかった、メィスの伴侶に。



「やめ、て……ゼドさま、おねがぃ……!」

 懇願に、哀願に、ゼドは、いたましそうに瞳を細めた。



「ゼドさま、やめ、て──!」

 開かれた足が、しどけなく揺れる。


「レーシァ」


 名を呼んでくれる声は、とろけるようにあまく

 腰を抱いてくれる手は、抵抗をゆるさぬほど強く

 あてがわれた昂りは、燃えるように熱く



「やぁ、あぁ……!」


 精霊の御子で、なくなってしまうのに

 メィスさまの伴侶に、なれなくなってしまうのに



 唇からこぼれるのは、悦びの声で

 身体は、歓喜の白濁を噴きあげた。








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