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ありがとう
しおりを挟む「トェル、だいすき」
「あいしてる、リル」
あまい睦言が、くちびるに、まぶたに、指先に降るたびに、降らせるたびに、月のひかりが、ちらちら揺れた。
あなたに、愛をささやけるなんて、夢みたい。
ぼわぼわする僕に、緊迫の声が降る。
「トェル! リィフェルさまのお加減は? 大丈夫か!」
なかなか出てこないから心配してくれたのだろう守護帥の声に、僕は跳びあがり、リィフェルは不思議そうに瞬いた。
「ご心配をおかけしてごめんなさい!
魔族さんと話をさせてくれたことも、お部屋もありがとうございました」
扉を開けて胸に手をあてる僕に、ちょっと目を見開いた守護帥が、ちいさく笑った。
「リィフェルさまは」
部屋をのぞきこむ守護帥に、リィフェルはかるく手をあげる。
「世話になったようで、ありがとう。トェルを攻撃しないでくれて」
僕も守護帥も息をのんで、僕はそっと膝を折る。
「ありがとうございます」
「……いや、リィフェルさまを抱いていなかったら……」
目を伏せた守護帥は、吐息した。
「立場や種族、気質や信念の違いで争うことを、哀しく思う。
相手を知っていると、よけいにな」
頭をふった守護帥が、後ろからつつかれて瞬いた。
「あぁ、そうだ、面会が来てるんだ。緑の精の──」
「のー!」
守護帥の大きな背中の後ろから、ぶっすりふくれたノォナが、ちいさな顔をだした。
月のひかりをきらめかせるリィフェルに、ほっとしたように、まぶしそうに、緑の瞳をほそめる。
僕に目を落とし、ふたたびぶっすりしたノォナが、唇をひらいた。
「……これ」
僕の背丈くらいの樹を差しだした。
根っこの部分が、生成りの布に包まれている。
心配になる見た目なのに、緑の葉はつやつやしていた。
「……お前が植えた精桃の樹だろ」
僕は息をのむ。
「精霊の泉の傍で、瘴気を放ちはじめた。
皆で浄化の焔で焼こうとしたけど、傷ひとつ付かない。仕方ないから引っこ抜いた。
持ってって」
びっくりしながら受けとった僕の手の中で、緑の葉がさやさや揺れる。
「投げ棄てないで、持ってきてくれたの……?
反対も、あったよね……?」
ぶっすり、ふくれたままのノォナが、顔をそらす。
憎くて、憎らしくて、たまらない敵だろうに、ノォナはいつだって、ほんとうは僕にやさしかった。
服を作ってくれたのも、とんちんかんなリィフェルとアライアを押しのけて、僕の世話をしてくれたのも、ノォナだ。
「……ありがとう、のー」
ふるえる声に、ノォナが、ぎゅっと唇を噛む。
「ずっと頑張って、生きてたんだね」
葉をなでた僕の指を喜ぶように、桃の樹がきらめいた。
……あぁ、たしかに、あの双葉だ。
ふれたら、わかる。
ふしぎなひかり、一緒に逃げたあのときに感じたひかりが胸に燈る。
こんなに大きくなっていたんだ、僕が眠っているあいだに。
毎日月の水を半分こして、お世話したかった。
抱きしめる腕のなかで、緑の葉が僕の頬をやさしくなでた。
忌々しげに精桃の樹と僕をにらみつけるノォナの瞳が、暗い焔を噴きあげる。
「魔族の血が流れ、人間の血も混じってる、さっさとしぬだろうお前に、リィフェルはふさわしくない!」
叫ぶノォナを、僕は真っすぐ見つめかえした。
もっと酷い暴動が起きるんじゃないかとか、リィフェルが害されるんじゃないかとか、もう恐れたりしない。
リルは、僕が、まもる。
迷惑じゃないかとか、ふさわしくないとか、捨てられるんじゃないかとか、もうおびえて泣いたりしない。
リィフェルを、あいしてる。
「リルは、僕が、しあわせにします」
言い切った。
鼻白むかと思ったノォナは一瞬まぶしそうに僕を見つめ、すぐに憎々し気に目をそらした。
僕の後ろでリィフェルの月のひかりが、嵐になってる。
「トェルは、私がしあわせにする!」
叫んでくれるリィフェルにとろけて笑った僕は、ノォナを思ってすぐに顔を引きしめた。
「僕がしんだら、おとーたをお願いします」
胸に手をあてる僕に唇を噛んだノォナは、目をふせる。
「……リィフェルは、しあわせ……?」
ちいさな、ちいさな声だった。
「とても」
微笑んだリィフェルが、息を吸う。
「ずっと私を想ってくれたこと、私とトェルの世話をしてくれたこと、ありがとう」
強く目を閉じたノォナが、かき消えた。
「……僕がしんだら、のーと、しあわせになってね」
ほんとうは、あまり言いたくない願いを告げた僕を、リィフェルの腕が抱きしめる。
「トェルがしんだら、私もしぬ」
「そんな……!」
リィフェルはゆるく首をふる。
「精霊の愛とは、そういうものだ。
トェルが私に教えてくれた」
ささやきが、耳朶に降る。
「ひとめ逢えるなら、しんだってよかった」
ぐしゃぐしゃに歪む僕の顔を、リィフェルが抱きよせる。
「愚かしく、烈しく、狂おしい
あたたかで、やさしく、慕わしい
これがきっと」
あいしてる
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