きみの騎士

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できた!

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「しっかしリイ坊、最近更に力がついたんじゃねえか?
 足腰もしっかりしてるし、さっきの蹴り!
 気持ちよかったなあ」

 太鼓腹を揺らして、おじさんが笑う。
 うれしくなったリイも笑った。


「最近、頑張って鍛錬してるんだ。
 山の隅に住んでるじいちゃんに稽古をつけてもらってるんだよ」

「……山の隅って、リイ坊の住んでるあの霊山か?」

 目を見開くおじさんに頷く。


「あそこは山守のリイの父ちゃんしか住んじゃあいけねえんじゃ……」

「温泉ぽこぽこ湧いてるからさ。
 あんまりお金ない人が湯治に来て暮らしてるみたいだよ。
 ばあちゃんとじいちゃんばっかりだし、いいんじゃないかな」

「え、いや、あの山には、確か誰も入れないって……」

「この間、貴族の子が迷子になって、探しに来た騎士とかもいっぱい入ってきたよ」

「ああ、前の騒動な。
 そりゃこっちの山だろう。
 リイ坊の住んでる山は、何だかよく解らんが、入る人間を選ぶらしい」

「ふうん?」

 リイは首を傾げる。

 でもルフィスは、家に来たよね?
 ばあちゃんもじいちゃんも皆、暮らしてるよね?


「じゃあ俺らは、選ばれし者たちか!
 皆、潰れそうな小屋に住んでるけど」

 笑うリイに、おじさんも笑う。


「あの山に住んでるから、リイ坊は力持ちなのかもしれねえなあ」

「だったら父ちゃんに感謝だ」

 ルフィスの力になれるなら、何だってうれしい。







 饅頭売りが終わって、畑をちょっと手伝ったリイは、饅頭の売れ残りと一緒に師匠の元へと向かう。

 ご指導ご鞭撻の報酬が売れ残りの饅頭だなんて申し訳なくて涙が出るけれど、これが今のリイにできる精一杯だ。

 じいちゃんはいつも仄青い瞳をやわらかに細めて、饅頭を大切そうにもらってくれる。

 お昼ご飯を一緒に食べたら、鍛錬開始だ。


 じいちゃんは、速い。

 見えないと思っていた時は、何がなんだか解らなくて『ぽか――ん』だったけれど、少しずつ、少しずつ目が慣れてくるにつれて、その豪速の動きが微かに見える。

 目で追うのさえやっとの動きを行うということが、どれほど難しいのか、リイは身に染みて知った。


 剣が見えても、止められない。

 ぽこり。

 木刀をあてられるたび、悔しくて、もっと、もっと強くなりたくて、ルフィスの傍に行きたくて、零れそうな涙を振り払う。

 じいちゃんが、動く。
 その軌跡を目で捉えるのではなく、感覚で追って、渾身の力で木刀を振りあげた。

「でりゃあぁあああ――――!!」

 カァン――――!

 振り下ろされた木刀を、初めて止めた!


「や、やった!
 やったよ、じいちゃん――!!」

 跳びあがって喜ぶリイの頭を、ぽこりと木刀がはたく。


「えへへ。
 ちょっと解って来た!
 がんばるよ!」

 夢と希望でいっぱいになったリイは、じいちゃんがどれだけのんびりゆったり動いてくれていたのか一瞬で知ることになった。


 瞬殺で撃ち砕かれた夢と希望に、項垂れたのだった。




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