きみの騎士

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 じいちゃんの鍛錬についてゆくことができるようになり、シリウスと阿吽の呼吸で駆けられるようになり、見違えるほど剣と槍を扱えるようになった。

「至光騎士戦に出る!」

 拳を掲げるリイに、じいちゃんがこくりと頷いてくれるまで、5年も掛かった!

 ……ルフィス、覚えてくれてるかな。
 5年も待たせて、ごめんなさい。

 半泣きで至光騎士戦の登録に村役場に行ったリイを待っていたのは

「身長が足りない」

 だった。

「…………は?」

「身長。騎士規定。
 170メレ以上じゃないとだめ!」

 至光騎士戦では村ごとに志願者を審査して、規定に達しない者を外している。
 村役場の役人たちに追い払われたリイは、厚底の靴を作った。

 ちょっとよれよれしながら、再挑戦!


「靴を脱げ!」

 怒られた。


「えぇえええ――――!!」

 役人たちも肩を落とす。


「リイ坊なら初戦くらいは勝てそうな気がするけどなあ」

「10歳の子どもが出るとかやばいだろ」

 うむうむ頷く役人たちに却下された。



 最大の難関、身長がリイの前に立ちはだかる。

 畑を荒らしに来る鳥や鹿や猪を一撃で屠り、もりもり肉を食べ、野菜を食べたけれど、中々にょきにょき伸びてくれない。

 ぶら下がってみる?
 大樹の枝までひと跳びであがり、掴まってぶら下がってみたら、枝がミシリと音をたてた。

「ご、ごめんなさい!」

 あわあわ手を離して着地したリイは、うんうん唸って、岩山のちいさな裂け目に倒木を渡してみた。
 落ちてもリイなら軽々飛び降りられる高さだ。

 ぶら下がってみた。

 ……いまいちな気がする。

 ぐるんぐるん大車輪してみた。
 ぶら下がって、身体をのばして回転する技だよ。

 おお! 向心力と遠心力で、身体が引き伸ばされる感じがする!

 毎日1時間ぐるんぐるんするようになったリイに、じいちゃんもシリウスもぽかんと口を開けてた。


 ちょこっと伸びたよ!
 厚底の靴で、颯爽と歩けるようになったよ!

 1年後、再挑戦したリイを待っていたのは

「靴を脱げ!」

 だった。

 もっと早く身長を伸ばさないと!

 仕方なく、もりもり食べるに骨を追加した。
 よく煮てやわらかくした骨をばりばり食べる。

 カルシウム補給だ!
 頼む、伸びてくれ!

 祈るように食べに食べに食べて、ぐるんぐるんぐるんぐるん回ったリイの背が騎士規定を満たしたのは、さらに4年経った時だった。


 
 リイが村役場に向かうと、役人たちが跳びあがった。

「また来た!」

「靴を脱げ!」

 靴を脱いだリイの背に、意地悪く笑いながら身長計をあてる。


「――――くっ!」

「……ご、合格だ。
 めちゃくちゃ伸びたな!」

「ふふん」

 胸を張ったリイに、役人たちは意地悪く目を光らせる。


「馬と鎧と槍はあるか?」

「農耕馬と手編みの鎧と物干しざおでも出場できるが、馬がねえとだめだ!」

 リイは胸を張る。


「あります!」

「嘘だろ!」

 仰け反る役人たちを後ろに、役場近くの森で待機してくれていたシリウスをちょいちょいと手招くと、駆けてきてくれた。


「……うへえ、すんごい馬持ってるな」

「さすがリイ坊」

 顔を見合わせた役人たちは、吐息した。


「……リイ坊がなあ」

「でっかくなったなあ」

「女が騎士になったことねえけど、ほんとに出場するのか」

 こくりと頷く。


「性別を書けっていう欄が、そもそもねえんだ。
 女だと解ったら、不浄がねえとかいう理由で至光騎士戦に出場できなかったりすると思うぞ。
 多分、聞かれねえと思うけど、聞かれたらさくっと男って言っとけ」

「リイ坊なら疑われねえ!」

 揃って親指を立ててくれる役人たちは、いい人なんだと思うよ……!
 なんか刺さるけど!


「一応、負けましたって言うか、気絶するか、どっか怪我したら試合終了になるんだけど、落馬して首の骨を折ったり、当たりどころが悪かったりして、毎年誰かが死ぬんだ」

「大怪我して、寝たきりになることもある。
 それでも、出るか」

「はい!」

 頷いたら、役人たちは書類を持ってきてくれた。


「ここにリイ坊の署名をしてくれ。
 大怪我したり、死んだ時は見舞金が支払われる。
 受取人の名前をここに書いてくれ。
 リイ坊は、母ちゃんはいなかったな。父ちゃんの名前をここに書いてくれ」

 ふんふん頷いたリイは、書類に自分の名と父の名を書き込んだ。

 字は、父ちゃんが教えてくれた。
 前世の世界の文字とは大分違う。

『おお、ファンタジーだ!』
 喜んだ幼い自分を思い出すと、笑みが零れた。

 慣れるとふつうに読み書きできる。
 前世の文字の方が遠くなった。


「よし!
 じゃあリイ坊、頑張って行ってこい!」

「負けても恥ずかしくねえからな!
 胸張って帰って来いよ!」

 にこにこして、手を振ってくれた。





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