【完結】きみの騎士

  *  ゆるゆ

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月の華?

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「光がこぼれるようね」

「涼やかなお声!」

「ふるいつきたくなる細い腰!」

「長い御髪は減点だけど、切ってもらえばいいだけだから!」

「あら、あの御髪がいいのよ。
 ほどいた髪に指をからませられるのは私だけ!」

「きゃあ!」

「月華の騎士さまー!」

 歓声の中身に、引き攣った。


「……腰見られてるぞ、リイ」

 キールが、によによする。

「月華の騎士だってー!」

 ぷくりと涙目のコルタがふくれた。

「何かの間違いだから!
 コルタが一番の美少年だよ!」

 胡桃の髪をなでなでしたら、真っ赤になったコルタの胡桃の瞳がうるうるする。

「リイが僕を落としに来てる――!!」

「行ってないよ!!」

 コルタがもっと涙目になって、隣でキールが爆笑して、ザインが頭を抱えた。

「…………もうちょっとふつうのご挨拶がよかった…………」

 遠い目になるザインに、光騎士たちが肩を揺らして笑った。





 噴水の飛沫が中天にかかる夏の光を弾き、吹き抜ける風がリイの髪を揺らす。

「色目使ったら許さないって言ったでしょう!」

 振りかざされた拳で、花のきみに叱られた。

「使ってません。
 こんにちは、レミリアさま。お目にかかるさいわいを賜り――」

「うそつき!
 ロエナ姉さまのこと気に入ったんでしょう!」

 拳で糾弾されたリイは、首を傾げる。

「ルフィスのことを母上に聞いてみてくださるとの仰せに、感謝で笑ったのは覚えています」

「うそつき!
 見蕩れたくせに!」

 涙目で叫ぶレミリアに、リイは首を傾げる。

「お顔を凝視してしまったのは、ルフィスに似ておられるかもしれないと思ったのですが――……よくご存知ですね?」

 まなじりを赤くしたレミリアは、もごもご呟いた。

「……ラトゥナ第二妃とロエナ姉さまが、お茶会に招いてくださったの。
 王位や政財界、権力や収賄にも興味のない、おやさしい方たちなのだけれど。
 そこで、リイがロエナ姉さまに見惚れたって――」

「ロエナさまが?」

「ラトゥナ妃が。重鎮たちから聞いたらしいわ。
 ルフィスのこと、姉さまが探して欲しいって言ったら――『難しいことには何の興味もないわらわですが、隠し子の捜索ならレミリアを追い抜かせるかもしれませんね。ロエナがリイの吐息を奪ったように』って――!」

 花のかんばせが、くしゃりと歪む。

「リイ、ひどい!」

 目を瞬いたリイは、微笑んだ。

「ロエナさまにお逢いして、レミリアさまと余りに違われて驚きました」

 涙目のまま、レミリアはぶっすりふくれた。

「私と違って、たおやかで、貴やかで、やさしい人でしょう」

「似ておられるのかなと思っていたのですが、レミリアさまの星のきらめきに、痛み入りました」

 熱い頬で笑うリイに、目をまるくしたレミリアのぷっくりした頬がしぼんでゆく。

「…………あ、ああの、そ、そう……?
 ……でも、姉さまのこと、いいなって思った、で、しょう……?」

 拗ねたように尖る唇の後ろで、背に隠すように握られたレミリアの拳を見つけたリイが、笑う。

「レミリアさまに毎日お逢いしていると、他の方は小鳥にしか見えません」

 瞳を瞬いたレミリアが、真っ赤になった。

「…………そ、そそそそう……?」

「誰よりも輝ける、レイサリアの花のきみ」

 あこがれをのせて微笑むリイに、金の眉がゆがむ。

「……その言い方、だいきらい」

「え?」

 レミリアは細い指を握りしめた。

「誰もが私に幻想を押しつけて、現実の私に幻滅する。
 想像と違う、こんなに短気なひめなんて、がっかりだって」

「そ、んな……!」

「リイだって、思ったでしょう。
 思ってたのと違う、これが花のきみかって」

 握られた細い指が、ふるえてる。

 ゆがむ星の海の瞳に、リイは微笑んだ。

「レミリアさまにお逢いして、姿絵は霧のようだと思いました。
 レミリアさまは、字も読めない底辺の平民を蔑んだりなさらない。
 レイサリア光国の政財界に精通され、あざやかに表情を変えて、俺を叱ってくださる。
 想像の花のきみより、ほんとうのレミリアさまの方がずっと、星みたいです」




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