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ほんとうは
しおりを挟む「まさかここまで、我の補佐をしてくれるとは思わなかった」
「勿体ないお言葉ばかりで、霹靂が轟きそうですよ」
胸に手を当て敬礼しながら笑うリイに、レイティアルトも笑う。
「リイの言い回しは変わっていて楽しいな」
ことわざ通じない異世界でした!
「ド田舎出身なので」
えへ、と笑ってごまかす。
書をめくる指は、止まらない。
しかし、頑張っても頑張っても頑張っても書の峰は見あげるばかり、減ったと思ったらまた追加!
「──お茶にしましょう、レイティアルトさま。
ひと段落なんて、しようがない!」
叫ぶリイに、レイティアルトは笑った。
「リイが傍にいると、休憩が多くていい。
お茶くみの光騎士は、ひとりはつけるべきだな」
「主な任務がお茶くみじゃなく、暗算暗算暗算暗算また暗算になってますがね!」
リイの言葉に、レイティアルトが声をたてて笑った。
月光石の分厚い扉さえ擦り抜けて、ほがらかな声は響いてゆくらしい。
扉の向こうから、かすかに声がする。
「レイティアルト殿下は、お元気になられましたな」
「リイは随分と殿下を助けてくれている」
「歳近いから、殿下も気をゆるしておられるのでしょう」
「よきことです。レイティアルト様の孤独を癒せる人は少ない」
謁見に来たのだろう重鎮たちの声がする。
眉をあげたレイティアルトは、手を挙げた。
「これから休憩だ。
しばらく後に出直せ」
レイティアルトの言葉を扉を開けたリイが伝えると、かくしゃくたるご老体の皆さまは、ほほほと笑った。
「リイ、その顔により磨きをかけ、レイティアルトさまの御心を、ぎゅうっと掴むのじゃぞ」
「色恋の何たるかを教えてあげてくださいね」
「でもまあ、あまりリイだけに溺れさせぬよう、お願いしますよ」
「……リイが女だったなら、レイティアルトさまの子を産んでくれたやもしれぬのにのう」
「そうなれば最高でしたのに!」
ぽふぽふ背を、やさしいしわのおばあちゃんの手で叩かれたリイは、目を剥いた。
『女ですが、産みません!!』
言えないリイは、ぽつりと思う。
…………もし産めるなら、ルフィスの子がいい。
思うだけで、発火した。
「ダルムの菓子があるだろう。茶を」
レイティアルトの言葉に、リイは沢山の瓶のなかからセレネの花が刻まれた瓶を選び出す。
レミリアとレイティアルトを思って、瓶にまで精緻な細工を施して献上された茶葉だ。
勿論、毒見は済んでいる。
セレネの花を模ったダルムの菓子とよく合う、華やかなのに奥ゆかしい、セレネの香りのするお茶だ。
しかも、こっそり薬草茶!
疲労回復、集中力向上、栄養補給までできるのに美味しいお茶!
こんなお茶ありませんかとリイが泣きついたら、食堂に食材を卸してくれるおばあちゃんがお勧めしてくれたお茶だ。
これならレイティアルトも気に入ってくれるかも!
どきどきしながら、リイは瓶の蓋を開ける。
「ゼノンから素晴らしい茶葉が献上されました。いかがでしょう」
花の瓶を開け、香りとともに微笑むリイに、レイティアルトが吐息する。
「──……月華の騎士、か。
……レミリアが落ちるわけだ」
「……は!?」
目を剥くリイに、レイティアルトは声をたてて笑った。
なんかありえないこと言われた気がする!
ふくれたリイは、お茶の入った瓶を掲げる。
「茶葉の香りは? 気に入りました?」
「淹れてくれ」
頷くレイティアルトに、リイは息をのむ。
レイティアルトがリイの勧める茶で納得してくれたのは、初めてだった。
緊張に微かにふるえたリイの指が、茶を淹れてゆく。
立ちのぼる香りが部屋を満たし、水色は紅玉に輝いた。
震える指を握りつぶすように、リイは唇を開く。
「…………殿下はルフィスを、ご存知ですか」
レイティアルトの深翠の瞳が瞬いた。
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