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来た──!
しおりを挟む振り向いたリイは、蛍光色の氾濫した衣と、太い指と太い首と大きな頭にギラギラ光る張りぼてみたいな宝石と、ふんぷんたるおしろいを塗りたくって元の造作もよく分からない顔面と、きつい香水の匂いに塗れたゲルク王女らしい人に、目を瞠る。
レイティアルトが怒り狂った訳が、ひと目で解った。
宝玉ゼロ、肘や膝をつくろったことがわからないように刺繍し、前王や現王のお古を現代向けに縫い直して多用、自らの装束まで限界まで節約、執務室も私室も限りなく質素にし、民のために経費と手間のかかる薬草苑を林立させ、寸暇を惜しんで激務に励むレイティアルトと、この人は真逆だ。
何の宝珠もつけずに、その瞳と覚悟が威厳を奏で、誰もが心酔するレイティアルトと、これ見よがしな大きな宝石で財力と権力をひけらかし、レイティアルトに舞踏会で踊ることまで強要しようとする人は、あまりにも違う。
息をのんだリイは、戦う覚悟を決めた。
レイティアルトが誰と親交を深めるにしても、この人は、ない。
レイティアルトには、心の透きとおる人が似合う。
リイの瞳が、冴え凍る。
ゲルク王女は、振り返ったリイに、息をのんで沈黙した。
罅割れてきそうな、おしろいの向こうの顔が、心なしか青くなる。
王女の顔面を超えないよう設定されているのだろう侍従を引き連れているゲルク王女を見据え、王女より百万倍輝かしいヒロインみたいなモマは、完璧な笑みをえがいた。
つややかな唇から零れるのは、宣戦布告だ。
「先触れもなさらず、侍従も介さず、突然千年光国レイサリア王太子殿下のひめにお声をお掛けになるとは、ゲルク王国は我らが光国と違い、斬新な礼儀作法をお持ちですね。
レイティアルト王太子殿下から直接、最後通告をお聞きになりたいのですか?」
完璧な微笑みと氷の瞳で、侍従とは思えぬほどの威厳でモマが佇む。
レイティアルトの敵は、レイサリア光国民の敵だ。
一瞬で、舞踏殿の空気が凍る。
「な──! じ、侍従風情が何を!」
侮られた憤怒にだろう、真っ赤になるゲルク王女に、レイティアルトは嗤った。
それは正しく、嘲笑だった。
「礼節に則り、モマは我が言葉を代弁しただけ。
それすらも分からないのですか」
理想の王子様に冷たくあしらわれても、ひるまないゲルク王女は、大物だ。
いや、ずっとこんなだから、レイティアルトはこんな感じだと思ってるかも!
「どちらのひめか、お聞かせ願えますか」
能面のおしろいが笑う。
朱い唇が楽しげに、あからさまな嘲笑をえがいた。
「まさか、最下層の平民の娘ではありませんよね。
先日まで男として働いていたとか。
……字さえ満足に読めぬのでしょう?
何の教養もなく礼節もわきまえない底辺の女男をお傍に置かれるなど、レイサリア千年光国の威光が、汚物に塗れる事態ですわ」
嘲りと蔑みが、光の苑を揺らした。
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